真理の庭

 結局、わたしたちは例のヌシの依頼を受けてギルドを後にした。

出会えるかどうかは運でしかないけど、目撃情報もあるし実際に被害も出ているってことらしいし、まぁ居るのは確実だ。

だが、今はそれよりも・・・・・・。


「ねぇ? 何か分かったの? シープの言ってたこと?」


 移動用の馬車をギルドが手配してくれるということらしいから、今はその待ち合わせ場所を目指している。

そうして歩きながら、ラヴィに話しかけた。


「まぁね。誰がその・・・・・・羽化、について調べてるか見当がついたってだけだよ。ああいう現象に羽化だのなんだのって名前をつけるような奴らって言ったらね・・・・・・」

「誰、なの? その・・・・・・大丈夫? 悪いこと企んでる人、とかではないんだよね・・・・・・?」


 このことに関しては自分が関係してしまっているので、とても他人事じゃいられない。

ギルドを使って調べてるくらいだから、相当な影響力を持った人、あるいは組織なんだろうけど・・・・・・。


「はは、心配いらないよ。少なくとも、私が知る中で一番信頼できる組織だから」


 ラヴィはわたしが不安になっているのを見て、安心させるように笑う。

ラヴィがそう言うくらいなら、まぁ大丈夫なんだろうけど・・・・・・やっぱりわたしにとって得体の知れない相手だってことは変わらなかった。


「それは・・・・・・?」


 ラヴィに、その組織のことを尋ねる。

わたしのこと・・・・・・というか羽化についてだけど・・・・・・それを調べている組織のことを。


「真理のガーデンだよ」

「真理の、庭・・・・・・?」

「そ。この世界のありとあらゆる知識が集まる庭。真理の追求を理念として、優秀なアナライザーたちで構成された・・・・・・まぁすごい組織だよ。知らなかった?」

「う、うん・・・・・・」


 なんというか、わたしはわたしの生活をするだけで精一杯だったから、こういうちょっと難しめの話は知らないのだ。

今まで自分の目先のことしか考えてこなかった弊害、ダンたちは知っていたのだろうか?


 ラヴィはわたしの返事にちょっと意外そうな顔をして続ける。


「もともと、ギルドを立ち上げたのも真理の庭なんだよ。知識の普及と、新たなる探究のためにって」

「え!? ギルドってそんな感じだったの!?」

「コーラルって、結構変なところで世間知らずだよね。普通に親とかに聞かされなかった?」

「あ、いや・・・・・・うん」


 やや後ろめたいところを突かれてどもる。

ラヴィはわたしの受け答えに一瞬表情を変えるが、何かしら自分の中で合点がいったようでそれ以上の追求はなかった。


「ま、そういうわけで、この街も結構な田舎だけど・・・・・・どんな田舎でも必ず一つはギルドがあって、どこのギルドでもみんな同じ量の情報がきちんと共有されてる。そういう情報の中にきっとこれから羽化を書き加えるんだと思うよ」

「な、なるほど・・・・・・」


 つまり、わたしが羽化を経たからって理由でその真理の庭にどうこうされるってわけじゃないのか。

ひとまず、それについてはやっと安心できそうだった。


 さて、となれば目下に残った問題は・・・・・・。


「で、結局・・・・・・ヌシ、だよね」


 話しながら歩いているうちに、街の出口が見えてくる。

開かれた門の外側、乗せるべき人物を待っている馬車がいくつもあった。

時間帯的にはこのくらいの時間から活動するパーティが多いから、それで待っている馬車も多いのだろう。


 ラヴィがギルドで渡された番号札と照らし合わせながら、同じ番号が刻印されている馬車を探す。

その後ろに着いて行きながら、もう一度尋ねた。


「居るかな、ヌシ」

「大丈夫、とは言いきれないけど・・・・・・まぁどうせなら、だよ!」


 いつになく楽しそうなラヴィ。

それを見ると「ああ、本当に気になってたんだな」っていうのが察せられて、こっちまで嬉しくなった。

何せ今日のわたしは機嫌がいい。

日頃の恩返しも兼ねて、絶対に正体不明の魔物の尻尾をつかまえてやると意気込んだ。

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