真意

「それで、話って・・・・・・?」


 今は依頼を選んでる途中だし、なんだかそんなびっくりするような話でもないみたいだから、さっさと先を促す。

シープはそれにコクリと頷くと、椅子の上で背伸びして続けた。


「オジョーさん・・・・・・コーラル・リーフでしたね? アナタ、この数日のうちに生死の境をさまよいましたか?」

「は・・・・・・?」


 あまりにも突拍子もない質問。

なんでそんなことを聞いてくるんだか、全然分からない。


「えっと・・・・・・いや、コードが成長するときに今までとは比べ物にならないくらい具合悪くなったけど・・・・・・。生死の境だとか、そんな大袈裟なものじゃ・・・・・・」


 質問の意図は掴めないままだけど、直近で一応そういう体験があったことは伝える。

ただ本当に生死の境をさまようだとか、そんなことでは・・・・・・。


「いや、確かにコーラルは・・・・・・たぶん死にかけたよ」

「え?」


 そこに割り込んで口を開くのは、ラヴィ。

こういう場面でそういう冗談を言うようにも思えないし、何よりその表情は真剣だった。


「ほう・・・・・・」


 ラヴィの言葉に、シープは興味深そうに目を細める。

ラヴィはラヴィでそんなシープに対して難しい表情を浮かべていた。


「いや、いやいやいや! ちょっとタンマ! え、なに・・・・・・わたし知らないんですけど!? いつ? いつ死にかけたの?」

「あの晩に。ラヴィが眠った後だったけど、しばらくしたら息してなかった」

「え・・・・・・?」

「あのときはたまたま私が回復系のコードを使えるようになってたから、それでギリ持ち直した感じ」

「え・・・・・・!?」


 ラヴィの言葉に二重で驚かされる。

そんなこと全然知らなかったし、ラヴィが助けてくれたことも聞かされてない。

しかもラヴィのコードは完全ランダム、いつどんな能力が使えるか分からない。

本当に巡り合わせだけで命拾いしてる。


「あ、じゃあ翌日も一緒に寝ようって言ってたの・・・・・・それがあったから!? なんかやたら心配してるなって思ってたけど・・・・・・」


 もう過ぎたことではあるけど、自分の身に起きたことを今初めて知ってゾッとする。

何が起きたか知ってたラヴィはわたしがまた眠ったとき、もう目を覚さない可能性が頭の中によぎっていたわけだ。


「てか、言ってくれたらよかったのに・・・・・・」

「ごめん、言おうとは思ってたんだけど内容が内容だからタイミングが掴めなくて・・・・・・」


 ラヴィは気まずそうに頭を掻く。

わたしは、なんでかそういうラヴィの姿を見ると安心できてしまうのだった。


「まぁ、でも・・・・・・ありがとう。ラヴィが居なかったらどうなってたか分かんないもん」

「ま、それはもういいんだ。今はそれより・・・・・・」


 ラヴィがわたしからシープに視線を切り替える。


「どうしてコーラルにそんなことを聞いたの? なんでコーラルが死にかけたことを知ってる?」

「い、いえ・・・・・・知らなかったですよ。だからアナタがたに聞いたんじゃないですか」


 言葉ではきっぱり否定するシープだが、いまいち歯切れが悪い。

明らかに、何か詮索をされたくないような態度をしている。

まさか・・・・・・。


「シープが犯人!?」

「なわけないじゃないですかアナタ!! そうじゃなくてですね・・・・・・分かりました、話しますよ。ただ、絶対に他の人に言いふらしちゃダメですからね?」


 かすりもしない迷推理。

しかしそれは偶然にも、シープの自白を引き出すことに成功した。


 シープの頭の高さに身を屈め、ラヴィと一緒に真相を待つ。


「まずですね・・・・・・コードの観測器、あるじゃないですか?」

「うん・・・・・・」

「あれって実はアナタがたが見る分だけじゃなくて、ギルドの方で写しが作られてるんですよ」

「え・・・・・・個人情報・・・・・・」

「い、今はそこで引っかからないでください! それでですね、この街のギルドで一番エラい人がですね・・・・・・探してるんですよ、特殊なコードの人」

「特殊・・・・・・」


 特殊なコードと言えば、真っ先に思いつくのはエラーコードだ。

しかし、シープの言う特殊にはまた違った意味が込められているような気がする。

第一エラーコードを対象にしてるならわたしもラヴィも既にこうして話しかけられていただろう。


 ラヴィが顎の下に手を添えてしばらく考え込む。

しかしどうにも結論は出なかったようで、当たり障りのない質問をシープに投げた。


「それで、じゃあどうして生死の境をさまよったか、なんて聞いたんだ・・・・・・?」

「・・・・・・それが、特殊の条件だからですよ。コードが成長途中でいきなりその性質を大きく変化させたり、その価値をまるきり塗り替えてしまうような成長を果たしたもの。そしてその成長の際に、生死の境をさまようくらいの重篤な症状を引き起こしたもの。それが特殊なコードの詳細です。・・・・・・ああ、話してしまいました・・・・・・ほんとに、絶対秘密ですからね!」

「・・・・・・なるほど」


 ひとまず、ラヴィも一旦は納得したみたいだ。

だがそうなってくるとまた疑問は増える。

いったいそんな人を探してどうしようというのだろうか。


「ってか、え・・・・・・!? わたしじゃあ当てはまっちゃってるじゃん!? え、どうなるの・・・・・・これ?」

「それはボクにはなんとも・・・・・・?」


 先程と比べて緊張感も何もない受け答え。

このことに関してはシープは本当に何も知らないみたいだった。

しかし、途中で何かを思い出したのか、シープは聞きもしないのに情報を付け足してくれる。


「・・・・・・ああ、そう・・・・・・。あとそういう現象、羽化って呼ぶらしいですよ?」

「羽化・・・・・・?」

「そうです。サナギを経て、まるで全く違う生き物のような姿に変貌する。だから、羽化らしいです」

「・・・・・・なるほど、ね」


 シープの言葉に、ラヴィは静かに頷く。

その表情から、ラヴィが何かに思い当たったのが読み取れた。

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