依頼選定
さて、予想外にも・・・・・・いや、もちろん期待はしていたけども。
どうやら思っていたより強い能力を手に入れてしまったみたいだ。
だが・・・・・・。
「・・・・・・」
どういう能力なのかは、流石のわたしでもラヴィの説明で分かった。
しかしだ、やっぱり実際に試してみないことにはなんとも分からない。
使って初めて見えてくるものもあるはずだ。
ということで・・・・・・。
「どういうのがいいかな?」
ギルドの掲示板、いわゆるクエストボードの前で貼り出されている依頼を確認していた。
試し切りの相手を探そうというわけだ。
わたしたちは現状、パーティではない。
そうなると受けられる依頼はだいぶ少なくなる。
個人向けの依頼は簡単なお使いか、逆にすごく強い人向けのすごく難しい依頼しかない。
もっともわたしの冒険者等級じゃお使い任務しか受けられないだろうけど・・・・・・しかしラヴィは違う。
「・・・・・・そうだね」
クエストボードを顎に手をやって眺めるラヴィ。
わたしの試し切りに丁度良い依頼を見繕っていた。
ラヴィは頭数合わせにより実績を積み、一定の冒険者等級に達している。
だからわたしよりかは難しい依頼も引き受けることができるのだ。
その場合はあくまでラヴィが個人的に引き受けた依頼を、わたしが手伝っているだけという構図になる。
だからわたしの同伴も問題ない。
いや、まぁグレーゾーンはグレーゾーンだけど・・・・・・それを言うならラヴィのしていた数合わせもグレーゾーンだし、ギルドが黙認している以上いいでしょう。
ラヴィが悩ましい表情で呟く。
「もしかしたら・・・・・・少し無茶する必要があるかもしれないね」
ラヴィの眉毛がその揺れ動く心情を反映して、落ち着きなく動いていた。
その動きは微細だが、もはやわたしが見逃すはずもない。
「無茶って?」
「少し・・・・・・身の丈に合わないくらいの依頼を受注するってこと」
「その心は?」
「別に、単純な話だよ。コーラルの能力の強さは弱い相手じゃ感じづらい。その感触を確かめるには相応に強い相手が必要ってこと」
「なるほど・・・・・・」
言われてみれば確かにそうだ。
わたしの能力のミソとも言える部分はスロースタートだし、元々体力の少ない魔物相手じゃほとんど意味がないまであるだろう。
暗殺者の森の虫程度じゃ、当たりどころにもよるけど普通の攻撃で一撃だ。
「コーラル、キミは大型の魔物と戦ったことは?」
「え? えっと・・・・・・たぶん、無い。中型までなら、前のパーティのみんなとだけど・・・・・・」
「中型か・・・・・・。まぁ中型でも・・・・・・」
貼り出されている依頼は様々だが、やっぱり丁度いい依頼というのはそうそう無い。
中型の経験はあると言っても、わたしはそういう脅威から身を守る術を知らないと言っても過言ではないだろう。
ラヴィもそれを分かっているから慎重になる。
「しかし・・・・・・」
長考の末、何かに踏ん切りがついたのか、ラヴィはふぅーと息を吐く。
「どのみち絶対安全なんてものはないか」
ラヴィは貼り出された依頼に手を伸ばす。
その指先が示すのは・・・・・・。
「菌糸の森の・・・・・・ヌシ???」
菌糸の森のヌシの討伐。
ヌシってなんだよ、ヌシって。
「ちょっと前までは都市伝説扱いだったんだけどね。菌糸の森は・・・・・・その名の通り菌類が豊富だから、よくキノコ採りに行く人が居るんだ」
「あーね・・・・・・」
ちょっと心当たりがある。
ダンパーティでの話になるけど、シュルームが行きたがってた森だ。
そのシュルームの口から、森のヌシの話もなんとなくだが聞かされていた。
「菌糸の森に潜む、正体不明の魔物。ただ居ることだけは確かで、実際に被害も出てる。目撃情報によればかなり大型の魔物らしい。でも全然姿が見つからないんだってさ」
「えぇ・・・・・・? 大丈夫なの、それ?」
ラヴィの言葉通りなら、戦って勝てるかとか以前に遭遇できるかも分からない。
それにラヴィは視線を逸らして笑った。
「いや・・・・・・さ? どうせ無茶するなら、その・・・・・・このヌシ、結構気になってたし・・・・・・?」
「え」
選出理由はまさかの好奇心である。
他に中型以上の魔物の討伐依頼も散見されるし、もしかしてさっき悩んでたのって自分の好奇心を捨て切れるかどうかという点で揺れてたんじゃないだろうか。
「まま、そんな顔しないで。それに・・・・・・いくつか考えもあるんだ。少なくとも中型以上の魔物が、そんな上手く身を隠せるとも思えないし」
「菌糸の森って、ここら辺で一番広い森だったと思うんだけど・・・・・・」
それに加えていくつかの洞窟もある森だ。
まぁあんまりおっきな魔物の居場所には適さない環境だというのは分かるんだけど、それでも現に今なお正体不明なくらいなんだから・・・・・・。
流石にどうすべきか、これは審議が必要そうだ。
わたしも好奇心はそそられないでもないが、果たしてそれは“今”だろうかという気もする。
二人して再び悩んでいると、突然背後から声をかけられる。
「もし、オジョーさんがた。ちょっといいですか?」
「ん・・・・・・?」
聞き覚えのある声に振り向くが、そこには誰もいない。
わたしたちが見つけられなかったのに腹を立てたように、声は一段音量を上げた。
「下ですよ、下! こないだもそうでしたけど、やっぱりアナタ方シツレーですよ!」
ぴょこぴょこ跳ねるふんわりモコモコのシルエット。
ギルドの制服がはち切れんばかりのわがままボディ。
パーティ申請のときに話した、シープ・ネムネムだった。
「ん? なになに? どうしたのぉ?」
その愛くるしさに思わず頬を緩める。
その小さい身長に合わせるように屈んだ。
「ムキー! クツジョテキ! ボクの小さいのを馬鹿にしてませんか!?」
「してないってば。もう・・・・・・」
ラヴィはわたしと同じ轍を踏むまいと、立ったままシープを見下ろす。
「それで、私たちに何の用?」
「背が高いからって見おろさないでください!」
しかし正解パターンがそもそも存在しなかったようで、結局怒られてしまっていた。
なんか今日は普通に機嫌が悪いのかもしれない。
結局、シープは手近な椅子に跳びのるった。
身長以上の高さを跳躍しているので普通にすごいと思う。
「コホン、それでですね。オジョーさんに・・・・・・いくつか尋ねたいことがあります」
「え、わたし・・・・・・?」
シープのヒヅメが、わたしを指す。
今までギルド職員から名指しでどうこうってことはなかったので、少しドキッとした。
何か怒られるようなことをしてしまっただろうか。
「そんなに身構えないでください。別に大したことじゃないですから」
「あ、そなの?」
でもだったらなんなのか、ますます検討がつかない。
隣のラヴィと顔を見合わせるも、ラヴィもとくにピンときていないみたいだった。
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