夢枕

 旅の疲れは、帰って来たところにどっと押し寄せる。

旅というほど長い道程でもなかったはずだけど、それにしては色々ありすぎた。

まぁ、わたしの方では・・・・・・そんなだったかもしれないけど。


 あの後、家に帰って来て・・・・・・そして今度こそラヴィの言っていた空き部屋を片付けた。

こうして晴れて新しい家で、新しい自分の部屋を手に入れたわけだ。


 少し前まで物置き同然だった部屋だ。

その中の空気は多少埃っぽい。

ラヴィが整えてくれたベッドだけは新品同様に綺麗だ。


 前までとは違うベッドの感触・・・・・・と言ってもこの間はラヴィの部屋で一緒に寝たし、覚えのある感触。

寝具の良し悪しなんて分からないし、まぁなんでもよかった。


「んー・・・・・・」


 ベッドに体を横たえて、天井の木目を見上げる。

その落ち着いた暗い色は、やっぱり古めかしいって感じがした。


 こうして横になっていると眠ってしまいそうになる。

まぁそれでも構わないは構わないんだけど、ラヴィの帰りを待っている立場としてはいかがなものだろうかという気持ちもある。

結局、体を起こす気力もベッドに沈んでしまうけれど。


 ラヴィは今日の実入りがよかったのに喜んで、ちょっと夕飯に奮発すると言って、それを買いに行ったのだ。

わたしも着いていこうとしたけど、ラヴィは特別なものを買って来てわたしを驚かせたいってそれを断った。

軸がわたしをびっくりさせたいってところにある以上、まぁ無理について行こうとするのも違うだろう。

だからこうしてお言葉に甘えて、留守番してるってわけだ。


「何、買ってくるんだろぉ」


 びっくりさせたいから、なんて言ってしまったらそりゃハードルも上がる。

果たしてラヴィはそのハードルを超えることができるのか。

あ、でも・・・・・・美味しいものだったらそれだけで嬉しいし、それならハードルもクソもないか。


 お腹の具合は・・・・・・とってもいい感じ。

ここで言ういい感じは、丁度いい状態って意味じゃなくて、何かご馳走を受け入れる上でいい感じってこと。

すなわち、めちゃくちゃお腹が空いてるってことだ。


 ラヴィが実際何を買ってくるかに関わらず、ラヴィのサプライズはもうほとんど成功してると言ってもいいだろう。

だってこんなにも、楽しみだ。


 頭の中で、空想が広がる。

いろんな食べ物が連鎖するようにして浮かび上がってくる。

それで、ますますお腹がすく。


 そういう想像を天井に貼り付けて、一足先に夕飯の時間を楽しむ。

ラヴィとわたしで、美味しい料理を囲んで、その後はお茶を飲んで休憩して・・・・・・。

この部屋を片付けてるときにボードゲームみたいなのも出てきたし、それで遊んでみたり・・・・・・。


 だんだんと、意識が空想に吸われていく。

現実との境界が曖昧になって、輪郭が滲む。

溶けるように、わたしの気持ち、目に映るもの、頭の中のとめどない思考がないまぜになって・・・・・・。

そしてわたしは落ちていく。

夢の世界へ。

すなわち・・・・・・。


「んぅ・・・・・・」


 入眠である。

背中に伝わるマットレスの感触、わたしの体温と一体になったその熱。

それらに包まれれば、わたしが起きていられるはずがなかった。

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