追放
「へぇ、そんなことになってたんだ・・・・・・」
帰りの馬車に揺られながら、今日あったことを聞かされる。
ガーは顔面ボコボコだし、プレコも服がズタズタになって、覗く素肌にも痛烈な傷跡が見える。
そして・・・・・・ラニアは・・・・・・。
「うわぁ・・・・・・」
傷だらけの範疇では収まらない大怪我だ。
その割にはやたらピンピンしてて、すごいっていうか・・・・・・むしろちょっと引く。
ガーは頭をかきながら空を見上げ「流石に疲れた」と呟く。
それからわたしとラヴィの方を見て尋ねた。
「ンで、そっちの方は大丈夫だったのか? 俺らァこの有り様だけどよォ」
「あ、わたしたちは・・・・・・」
少し判断に迷うが、ガーパーティの三人を見ると、まぁ大丈夫という他ないだろう。
この三人が大丈夫じゃなさすぎる。
言葉に詰まったわたしに代わって、ラヴィが続ける。
「私たちの方は見ての通り大丈夫だよ。差し向けられたのも下っ端だったみたいで、大したことなかった」
「ははは、そいつァ結構。だが予定外のことが起きちまったからな。報酬は上乗せしとくぜ」
「助かる」
ラヴィは特に遠慮する様子もなく、ガーの言うことに親指を立てる。
わたしはそれを見て小さく笑った。
最初の方は不安だったけれど、一応任務遂行中は上手くやれた、と思う。
まぁそれもこのドタバタ騒ぎのおかげでだいぶ印象が薄いけど。
辻忍者襲撃の一件。
このことに関しては、ラヴィはともかくわたしは何もしてないと思うけど・・・・・・わたしのとこに来た人の分の追加報酬はわたしが貰えるらしい。
そんなものだから、実際の実入りで言えばかなり上々だった。
「でも・・・・・・」
改めて、実感する。
「ガーたちって、ほんとにすごめの人たちだったんだね・・・・・・」
今までそんな多くのパーティを観察してきたわけじゃないけど、それでもやっぱり「違うな」っていうのがわかる。
たぶんあの街のほとんどのパーティは、あの忍者たちの襲撃に耐えられないだろう。
ガーはそれが別になんでもないことのように笑う。
「なァに、いつも通りよ。プレコが引き付けて、俺たちが仕留める。やったこたァいつもと同じだ」
「それって、でも・・・・・・結果的にはでしょ?」
「ン、まそれは・・・・・・まァな・・・・・・」
「ならさ、すごいじゃん。やっぱ」
今日の出来事はガーたちにとっても想定外。
それをこうやって乗り切れてしまうんだから、強いパーティだ。
ガーは素直に照れくさそうな顔をして頭をかく。
無骨な大男に妙な愛嬌のようなものが見えてくるものだから、やっぱりわたしも疲れてるんだなと思う。
そこから、ガーは目を細め昔を懐かしむような表情になる。
その瞳は真っ直ぐ空に向いていた。
「嬢ちゃんの褒め言葉はありがたく受け取っとくがな、でもやっぱ俺たち・・・・・・俺は、そんな大層なモンじゃねェよ。俺のキャパは結局のところ三人が限界。後一人増えりゃ、俺くらいの実力じゃパーティは破綻する」
「それ、前も言ってた。けど、わたしはよく分かんないな。四人以上のパーティなんて珍しくないし、そういう人たちは三人パーティのガーたちより弱いと思うし・・・・・・。四人パーティって、そんなにすごいこと?」
かつてわたしが居たダンのパーティも、わたしを数えて四人のパーティだった。
けれども、四人だから何かが上手くいかなかったみたいなことはなかったはずだ。
まぁ追放されたわけだけど・・・・・・。
ガーは依然遠い目をしたまま答える。
「実ァな、俺たちも昔は四人パーティだったンだわ」
「え? ガーが? じゃあ、ガーも四人で大丈夫なんじゃん」
「いいや。肝心なのは、今は三人だってことだ。あン時の俺ァ、自分の限界知らなかっただけだよ。子犬みてェに人懐っこいガキを仲間に入れてやってたンだ。相応に弱ェやつだったが、俺たちなら守り切れるって思ってた」
ガーが語りだすと、プレコもラニアも、少し俯く。
そしてガーと同じような遠い目になった。
「えっと、その子は・・・・・・」
この空気感で尋ねていいものかと迷うが、結局尋ねる。
そして帰って来る答えはやはり・・・・・・。
「死ンだよ。あっという間だった。いきなり現れやがった変異体に、なす術もなかった。そいつは、俺たちの目の前であっさり殺されやがった。守ってやれなかった」
「・・・・・・そうなんだ。でもそれって変異体だったからじゃ・・・・・・」
「関係ねェよ。判断ミスの積み重ねで、そういう状況になっちまった。あいつが死んだのは、俺のせいだ。あンなことになるならよ、さっさと追放しちまえばよかったよ」
「つい、ほう・・・・・・」
ガーの口から飛び出した言葉に、耳を疑う。
しかし間違いなく追放と言っていた。
「え? ちょっと待って。その子、ガーたちにとって大切な人だったんじゃないの? なのに追放なんか、それは・・・・・・」
「大切だからだよ。ブラッドコードだとか運命だとか騒ぐやつは居るけどよ、生き方ってのは一つじゃねェ。別にパーティじゃなくなったって他人同士になるわけでもねェんだ。だったらあいつを俺たちのパーティに居させるべきじゃなかった」
「・・・・・・・・・・・・そっ、か・・・・・・・・・・・・」
何が正しいのか、分からなくなる。
いや、もとからわたしには正しさなんて分からなかったけれど、じゃあわたしは・・・・・・。
わたしが悪かったんだろうか。
逃げるみたいに、飛び出して・・・・・・。
「人間、常に最良の選択ができるわけじゃねェ。間違いながら、あーじゃないこーじゃないで、ダサく生きてンだ。間違わないやつなんていねェし、後悔しないやつなんかいねェ。今日俺たちを襲ってきた奴らだってそうだ」
「・・・・・・」
「俺は間違えたンだ。だから、三人だ。もう繰り返さねェって、いましめさ。ほんとはあンときも分かってたはずなンだがな・・・・・・」
日は沈み出し、雲は夕日に縁取られて眩しく輝いていた。
クマムシの緩やかな歩みに、そよぐ風が並走する。
「・・・・・・けどよォ、あいつが笑ってンの見ると嬉しくてな、あったかくてな・・・・・・。追放なんて言えなかったンだわ。俺ァ、バカだからよ・・・・・・」
過ちも、後悔も乗せて、ただゆっくり進んでいく。
振り返れば足跡と、置いてきてしまったものが見えて・・・・・・。
未練がましく、わたしたちはそれに手を伸ばし続ける。
「ねぇ、ラヴィ・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・疲れたね」
「・・・・・・そうだね」
進んでく。
これからも、何かを間違えて、あるいは正しい選択すら後悔して。
ガーが空を見上げ、細く息を吐く。
それはかすかな風のなかに、溶けるように消えていった。
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