混乱の後

「あやつらめ、ぬかったな!」


 里長は砕けた岩の下から這い出してむくりと起き上がる。

しかしラニアの本気の一撃を食らった体は言うことを聞かないらしく、こうして終結したガーパーティからは逃げられそうもなかった。


 一方ヤマイヌは・・・・・・。


「グゥ・・・・・・何故、でござるか・・・・・・? 何故ッ・・・・・・?」


 腹部を貫いた矢は依然深々と刺さったまま。

しかしその表情を痛みと憎悪に歪めながら森の奥に消えるように走り出した。


「あ! あんにゃろ、待てやぁっ!」


 ラニアが隙をついて逃げ出したヤマイヌに怒鳴る。

しかしその怒りを鎮めるようにガーはラニアの肩に手を置いた。


「よせ。俺たちも深追いできるような状態でもねェ。特にお前ェな?」

「なんや、ワシゃあこの通りまだ・・・・・・あだ、あだだだだっ・・・・・・」


 言い返そうとしたラニアは痛みに傷口を押さえる。

応急処置として岩石の粒子を固めて止血してあるが、それも不完全だった。


「心配要らぬでござるよ。どのみちあやつは拙者を狙っておるからいずれまた相見えよう。それに・・・・・・戦わぬで済めばそれに越したことはないでござるよ」


 プレコはそう言って笑った後、少し複雑そうな表情を浮かべた。

その顔が二人に気づかれる前に切り替えて、話を続ける。


「それより、お主らを襲っておった辻にん・・・・・・辻キラーどもはどうなったでござるか?」

「ああ、そうそう。俺たちんとこに来た奴ァ、辻パニッシャーとか言ってる男がひっとらえてったぜ? この男も拾いに来てもらわねェとな」


 ガーはプレコの言葉に答えながら、里長に足払いをして転ばせる。

里長の千里眼を持ってしても、この状況を打開する方法は見えないだろう。


 噂をすれば影。

話す声を聞きつけたのか、それとも経験に裏打ちされた感覚が嗅ぎつけたのか、辻パニッシャーが茂みから現れる。


「む、そこに居るのは・・・・・・驚いた、里長ではないか。となると後一人、なのだが・・・・・・居ないようだな」

「けっ、さっき逃げられちまったよ」


 ラニアが地面に落ちた枝を拾い投げながら、パニッシャーの言葉に答える。

パニッシャーは「そうであったか」と特に悔しそうでもなかった。


「てかよ、辻パニッシャー。引き渡した奴らァどこやったんだ? 近くに連れてるようにゃ見えねェが?」

「ああ、ギルドからクマムシを借りて来てな。今すぐに手当が必要そうな者もあるから、御者に頼んで街へ連れてゆかせた」

「ンじゃァ、コイツどうすンだ?」


 ガーは地面に這いつくばる里長を指差す。

里長は汚れと血と汗に塗れた顔で憎々しげに周りを見渡した。


「殺せっ! 拙者を、殺せっ! この世は地獄だ! 今ここでっ、拙者を殺せッ!!」


 里長はパニッシャーを睨みつけ、掠れた声で叫ぶ。

しかしパニッシャーは「ふっ」と鼻を鳴らし首を横に振った。


「哀れとは思うが、死なせてやらない。お前は私の馬に乗せてゆく。クマムシと違い揺れるが、まぁその程度の痛みを耐えられぬ男でもないだろう?」


 パニッシャーは傷だらけの、おそらく手足の骨も折れているであろう里長を乱暴に地面から引っ張り上げる。


「ではまた」


 ガーたちに向かって軽く会釈をし、パニッシャーは里長を引きずるようにして去って行った。


「ま、一応は一件落着・・・・・・ってことかァ?」

「そうでござるな」

「ワシはまだ納得いかへんがな」


 凄惨な戦いの後、ガーパーティだってそれぞれの者が相応の傷を負っているのにも関わらず、彼らはすっかりいつもの様子だ。

緊張感が取り払われ、日常の色を取り戻す。


 そのしばらく後。

ラヴィがコーラルの手を引いて姿を現すことで、ようやく暗殺者の森にやって来た全員が再び揃った。

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