密議

 暗殺者の森、深部。

ガーパーティから離脱した三人の男が、大木の影で顔を突き合わせていた。

周囲に魔物の姿はなく、彼らも戦った様子はない。


「里長、どうしたらよいでござろうか?」


 三人組の一人が、その容姿に似つかわしくない言葉遣いで仲間に尋ねる。

里長と呼ばれた男はそれに静かに頷いた。


「うむ、仕方あるまい。あのおなご二人が連れられて来たのは予定外であったが、まぁ彼女たちが不運だったと申すほかないでござるな。里のしきたりは絶対だ。我ら辻忍者の名誉のため、抜け忍は必ず仕留める」


 里長と呼ばれた男の目は鋭く、冷たい。

他二人も同じような目をしていた。


「新入り二人、それからヤマイヌ。お主らの力も必要になった。姿を現せ」


 里長の呼ぶ声に、森の暗がりから更に三人の男が姿を現す。

これで計六人。

この作戦に関わっている辻忍者全員が集まった。


「新入り二人。お主らにはおなご二人を任せる。変化の術があるのだ、童二人程度お主らで事足りるであろう」

「「はっ」」


 新入り二人は里長の命を受けると、まるで糸で引っ張られたように背筋を伸ばし返事をした。

里長の視線は、次にその新入りたちと共に身を潜めていたヤマイヌという男に向く。


「ヤマイヌよ、お主は予定通り拙者と来てもらおう。かつての相棒を殺めるのは心苦しいやもしれぬが、これもあやつのためだ」

「分かっております。拙者もあいつをこの手で止められるなら・・・・・・本望にござる」


 そう答えるヤマイヌの瞳も、やはり冷たい。

彼らの眼光の鋭さは、変化の術を経ても隠しきれないようだった。


「よいか? 事は概ね予定通りに運んでおる。彼奴らは拙者の出した名指しの依頼をまんまと引き受けた。ガーという男もラニアという男も、分断してしまえば恐るるに足らない。後はあの男・・・・・・あの男は拙者とヤマイヌ直々に、嬲り殺しにしてくれよう!」


 木々の合間を縫って風が吹き抜ける。

日の高さに見合わない、冷たい風だった。


「里を抜けたことを後悔するんだな。貴様らの受けた依頼は失敗する。仲間諸共、誰も生き残らない。そうして拙者たちは・・・・・・再び闇の内に消えるのみ・・・・・・」


 六人は互いに視線を交わし合う。

そのまま何を語らうでもなく、それぞれの向かうべき場所に向かって行った。


 辻忍者。

東部の小国統一を成し遂げた「猫組」の暗部。

どんな残忍な手も厭わない、冷酷な暗殺者たちだ。

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