コーラルでも分かる!ラヴィ先生の戦闘指南
もう外の景色がよく分からないくらいの深さまで森に立ち入ると、すぐに魔物は姿を現した。
通常の生物とは違って逃げ隠れない。
そういう回路が故障してしまっているかのようにとにかく攻撃的だ。
森の中ということもあって虫の魔物が多い。
特に警戒すべきは機敏な蜂の魔物と、接近に気づきづらいクモの魔物だ。
どちらの毒も魔物化の影響で致命的。
死のうと思えばすぐ死ねるし、不意を突かれたらすぐ手遅れになれる。
伊達に暗殺者の森なんて呼ばれていない。
ガーパーティの三人が先行して狩っていって、わたしたちはその撃ち漏らしやこちらに攻撃を仕掛けてくるものを処理する。
虫型と言えど魔物は魔物。
そのサイズは中型犬並みに膨れ上がっている。
ただ、それでも大体一撃で仕留められるので、コードがあんまり関係ないのが幸いだ。
これならわたしでも役に立てる。
ラヴィもまた、周りを注意深く観察しながら魔物を斬り伏せていく。
魔物の出現数もほどほどだから余裕はあると言えるだろう。
「いいかい、コーラル」
「な、なに・・・・・・?」
ラヴィが足元にまで迫っていたムカデに頭を切り落としながらわたしに声を投げる。
「私たちみたいに、雑にコードでねじ伏せられない冒険者は・・・・・・そういう何も考えないでも強い人たちと同じ立ち回りじゃ足を引っ張ってしまう」
「・・・・・・。そうだね・・・・・・」
ダンたちに追いつこうと、強くなろうとがむしゃらに戦っていた時のことを思い出す。
なんとか魔物に傷を負わせてもわたしの方が大きな傷を負って・・・・・・結局一体も倒せなくて、いつもシュルームの手を煩わせていた。
「パーティに貢献するっていうことは、何も魔物を直接倒すってことだけに限らない。とくに私みたいな人数合わせをやってるとね、他のメンバーはいつも一緒に戦っている人たちだから・・・・・・当然その人たちなりの連携がある。だから、下手に出しゃばれば邪魔になるだけなんだ」
「・・・・・・それじゃあ、どうすれば?」
今は・・・・・・邪魔にはなっていないだろうけど、正直自分の身を守っているだけだ。
貢献とは言い難いだろう。
「私たちは、臨時的に編成された助っ人。単純な戦闘能力も、劣っているってことは認めないといけない。だから欲張らず、一つ自分にできることを見つけるの。今なら・・・・・・ガーたちがどうやったら快適に戦えるか、あの人たちの立ち回りを観察して」
「観察・・・・・・」
ガーは、弓を武器に戦っている。
いかにもパワータイプな見た目のくせに。
ブラッドコードは弾道操作。
当然弾道を曲げると威力も減衰していくので、今はあんまり使っていない。
自分の射った矢には。
ラニアは武器を持っていない。
いや、厳密に言えば腰に短剣を下げているのだけれど、それを使っていない。
完全にコード中心で戦っている。
ブラッドコードは岩石の生成。
いくつかの石つぶてを空中に生み出し、それを投擲の動作で散弾のように撃ち出している。
ガーが操作しているのはその石つぶてだった。
石つぶての射程は中距離。
十分な威力を保ったままの射程だとそこから更に狭まるだろう。
ラニアは特に複雑に考えることもなく乱射しているが、そうなってくると当然命中しないつぶても少なくない。
それを使っているのがガーだった。
外れたつぶてを捕まえ、その弾道を操る。
何に利用しているかと言えば、おそらく誘導。
十分な威力を持たなくなったつぶてで魔物の退路を操り、矢の射線上に誘う。
そこを弾道操作に無し、威力減衰無しの矢で射抜くのだ。
最後にプレコ。
ブラッドコードは・・・・・・なかなか珍しいタイプで、外骨格で体表を覆うというものだった。
黒い外骨格を鎧のように身に纏い、体の鋭い部分で斬りつける。
見かけ通りの防御力の高さを活かし、凶器のようになった全身を武器としている。
ガーやラニアより更に数歩先行し、敵の注意を一手に引き付ける。
タンクを兼ねたアタッカーと言ったところだろう。
「ガーとラニアはどっちも軽装・・・・・・それに近距離の敵の対処は難しい、はず・・・・・・」
現時点での所見であり、二人の底を知らないので断言はできない。
けれどプレコが先行して暴れることで魔物の気を引いてるのは明らかに意図的だ。
「プレコは・・・・・・このパーティで重要な役割を果たしてる・・・・・・」
「そう。連携の要。だけど、私たちはプレコみたいなマネは出来ない。どうしたらいいと思う、コーラル?」
ラヴィの言う通り、プレコの代わりはわたしたちには果たせない。
というか、せっかくプレコが注意を引いているところをわたしたちがかき回したら邪魔以外の何者でもない。
誰を狙っているか分からない敵の動きが一番読みづらい。
そういうことなら・・・・・・。
「わたしたちはガーとラニア・・・・・・特にガーを守るように立ち回る。・・・・・・どう?」
ラニアはまだしも、ガーは密着されると持ち味を全く活かせない。
敵の接近にはそうとう気を遣っているはずだ。
わたしの答えは合っているのかと、ラヴィに視線を向ける。
それにラヴィは小さく頷いた。
「うん。いい答えだと思う。弾道操作の能力はその制御にどれくらい注意を割けるかで、操作できる数、その精度も変わってくる。自分の防衛を完全に誰かに委ねられるなら、かなりやり易さは変わってくると思うよ」
「そういうこったァ!」
ガーはラヴィの言葉をちゃんと聞いていたらしく、わたしたちに向けて大きな声で言う。
そうして、早速つぶてで蜂の魔物を追い込み、その小さな頭をスコンッと射抜いて見せた。
「おお」
小さな拍手を送ると「よせやい」と照れ臭そうに頭を掻く。
その際に操作していたつぶては全部制御を失っていた。
「ありゃりゃ」
そのせいでいまいち締まらなかったけど、それでもすばしっこい蜂を射抜くのは至難の業だ。
あれでいてちゃんと強い人なんだな、と思った。
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