なんだかんだいいリーダー

 木の葉の密度が増し、段々と日陰がちになっていく。

やがて日の差し込む面積の方が少なくなったところで、クマムシは歩みを止めた。


「さぁさ、ショウタイムっちゅうわけやな!」


 いち早く馬車を飛び降りたのはラニア。

それに続いてガー、プレコも地面に降り立った。


「コーラル、私たちも」

「うん・・・・・・」


 馬車の後ろの方までお尻を滑らせて、そこから軽く跳ねるようにして降りる。

ラヴィは伸びをして筋肉をほぐしていた。


「それじゃあ、あっしは少し引き返したところで皆さまをお待ちしております。暗殺者の森・・・・・・その呼び名の通り、油断していたら対処する間もなくあっさり命を奪われます。どうかお気をつけて」


 全員降りたのを確認すると、御者のおじさんはそう言ってぺこりとお辞儀をする。

そうしてクマムシの向きを変え、ゆっくりと離れて行った。


「ずっと待ってるんだ・・・・・・。大丈夫なのかな?」

「そう心配しなくても、そこら辺の魔物に容易く負けないくらいにはあのクマムシは頑丈な生き物だから。コーラルはまず何よりも自分の身を守ることに注力して」

「わ、分かった」


 ラヴィと並んで、他のメンバーとも合流する。

これで総勢八名のグループだ。

こんな人数と行動を共にした経験なんて無いから、当然多少の不安はつきまとう。


 わたしたちとガーパーティ以外の三人の男は・・・・・・まぁよく見る普通の冒険者といった感じだ。

ガーパーティみたいなクセは無いけど、今のところまったくコミュニケーションをとれていないので不安の比重はガーパーティとの連携以上に大きい。

それは向こうの三人も同じみたいで、距離感を掴みかねて半端な深さのお辞儀を挨拶代わりにしていた。


「いやぁ、どうもどうも」

「今日はよろしくお願いします・・・・・・」

「まぁその・・・・・・精一杯やりましょうや」


 向こうの方が人数が少ないぶん肩身が狭そうだ。

とりあえず悪い人でも変な人でもなさそうだし、そんなに心配することもないかもしれない。


 三人の内の一人、たぶんリーダーポジションの人がこっち側の群れに一歩踏み出し申し出る。


「いやはやこう、初対面の方たちと合同とは思いませんで・・・・・・ここは一つ分散と言いますか、我々は我々で、あなた方はあなた方でという形にしませんかね?」


 それに答えるのは、まぁ一応今はわたしたちのリーダーってことになるガーだ。


「そいつァ、まァ・・・・・・問題はない?ンだろうけどよォ・・・・・・」


 ガーは困ったように頭を掻く。

2グループで分かれた方がやりやすいのは確かなのだろうけど、分かれてしまうのもそれはそれでどうなのだろうかと考えているのだろう。


 しばらくの逡巡の後、ガーはしぶしぶといった感じに首を縦に振る。


「まァ・・・・・・パーティは四人以上になってくると立ち回りが難しくなってくるしなァ。八人ともなりゃァ、分かれた方が賢いかァ・・・・・・」


 ガーの返答を受けて胸を撫で下ろす向こう側のリーダー。

こっちのメンツはかなりクセが強いし、考えてもみれば向こうはとても一緒に行動したくないだろう。

わたしもラヴィで繋がってなければアウェイもいいところだし。

ガーパーティって、そういうパーティだ。


 向こうの三人パーティは話がつくと、こちらに少し申し訳なさそうにしながら森の奥の方へ進んで行った。


「ンま、つーわけで、俺たちもほぼいつも通りだな」


 ガーは腕を組んで仲間たちの様子を見る。

そのいつも通りからははみ出すわたしとラヴィに視線を這わせ、軽く頷いてから口を開く。


「お嬢さん方は・・・・・・まァガチエラーのラヴィの方は心配いらねェか。ってなるとコーラルちゃんだな」

「ちゃ、ちゃん付け・・・・・・」


 なんだか分からないけど無性にゾワッとした。


「別になンでもいいだろがよ。まァ、そんでコーラルちゃんの方は、俺たちもどれくらいのモンか把握してねぇからさ。ラヴィにアドバイスだの指示だの貰いながら上手いことやってくれ」

「そんな大雑把な・・・・・・」

「ラヴィは・・・・・・たぶんそういうの得意なはずだぜ?」


 ガーに言われてラヴィに視線を向ける。

正直かなり不安なので、ガーから「これはこうだ!」という指示を貰いたかったのだけど、ラヴィが自信満々に親指を立てるものだからそうもいかなかった。


 別にラヴィの言葉じゃ心配ってわけじゃないけども、なんて言うか・・・・・・何かを間違えてしまいそうで・・・・・・。


「ガーどの、それでは任務開始でござるか?」

「ガーの兄貴、ワシも体中の筋肉が殺したがってて仕方ないわ! 細けぇこたぁいいっちゅうねん。さっさと始めましょや!」


 会話下手なプレコに血がたぎってしょうがないラニア。

二人とも戦いに向かいたくて、ガーを急かす。

それにガーは呆れたように笑った。


「けっ。まったく、お前らァほんとに仕方ねぇな。・・・・・・コーラルちゃんよォ、ま結局俺たちもいつもこんな感じだからそう固くなるこたァねェぜ」


 ガーの大きな手のひらがわたしの背中をポンポン叩く。

そのゴツゴツした荒々しい手とは裏腹に、繊細に優しい力で叩いてくれた。


 まぁ現リーダーがこう言ってくれてることだし、かと言ってすぐに切り替えられるものでもないけど、深呼吸して少し肩の力を抜いた。


 そうして、深い森の中に五人で立ち入っていく。

どこからか響く鳥の声が、森にわたしたちの侵入を知らせるようだった。

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