心は明日へ

「さてね」

「さてね」

「さてさて」

「さてさて」

「・・・・・・」


 どうしたものか。


 二人ではパーティは組めない、となればあと一人誰か巻き込みたいところだけど・・・・・・そう簡単にはいかない。


 妙案も浮かばず、わたしとラヴィは何をするでもなく街中をふらふらしていた。

本当ならこの後適当な依頼を受けて街の外に出るはずだったのに、そもそもパーティが組めないとなっては依頼も受けられない。


「うーむ、困ったね。人数が二人ってなったら私がやってたみたいな頭数合わせも難しいだろうし・・・・・・。個人向けの依頼となると、よほど冒険者等級が高くないと実入の良いのが受けられない」

「う、ごめん・・・・・・」

「いや、別にコーラルを責めてるわけじゃないよ。でもこうなってくると・・・・・・」


 これから先考えなければならないことはきっとたくさんある。

でも今はその大前提が満たされていない。


「やっぱりなんとかパーティを成立させる以外道はないか・・・・・・」


 ラヴィがたどり着いた結論。

回り道や裏技みたいなものはなく、現実的な方法は結局これしかないのだ。


 ラヴィの言うように、やっぱりわたしもそれ以外にどうこうというのは考えつかない。

現状、これではラヴィの足を引っ張ってしまっているだけだ。


 ラヴィはブラッドコードなんか関係なくわたしに手を差し伸べてくれたが、それでもやっぱり他の人はブラッドコードで人を評価する。

パーティとなると互いに命を預けるのだから尚更だ。


「エラーコードが二人ってところをセールスポイントにして勧誘する?」

「いや・・・・・・ダメだよ。パーティ組むってなったらすぐバレちゃう」


 その手は以前のラヴィのように、頭数合わせとしてあくまで臨時で仲間に加わるというのでは通用したかもしれない。

けどパーティを組むことを前提にしたらコードのチェックを怠ることはないだろう。

というか・・・・・・わたしが言えたことでもないけど、そこで確認をしないような人とはパーティを組みたくない。


「・・・・・・結局ブラッドコードかぁ・・・・・・」


 好転しない状況に頭を抱える。

ラヴィみたいな稀有なお人よしに出会えただけでは、人の運命は大きく変わらない。

まぁ、もちろん嬉しい出会いではあるのだけれど。


「・・・・・・」


 ラヴィの表情は相変わらず読めないけど、きゅっと結ばれた口元に、ままならない現実に対する憤りを感じる。

勝手な想像でしかないけど、やっぱりラヴィも自分のコードのせいで悔しい思いをしてきたのだろう。


 わたしも、やっぱり悔しい。

コードのせいで、こうやって新しいパーティを組むのにも行き詰まって、そもそも追放されて・・・・・・。


 きっとそういうのはわたしたちだけじゃない。

コードを理由に何かを諦めた人は、少なくないはずだ。

みんなそれが悔しくて、だけど受け入れるしかないから「コードは人の運命、人生そのものだ」なんて言っているのだ。


 そういう点では、その“運命”に反抗して我を貫き通そうとするラヴィは本当の意味で強い人だ。


「わたしもいつか、そうなれるかな・・・・・・」


 ラヴィがどれくらい優しくても、わたしはそれでもきっと今日初めて会った人とパーティを組もうだなんて、組みたいだなんて考えなかっただろう。

少なからず、ラヴィの姿にそういう面での強さを感じとって憧れたのだと思う。


 だってそうでしょ?

わたしは一人放り出されて「どうしよう」って泣いてたのに、ラヴィは自分のコードに負けないように精一杯生きていたのだから。

力強く。


 だから。

ラヴィみたいに真っ直ぐに強くなれなくても、わたしはわたしなりに道を切り開こうと足掻く。


「ねぇ、ラヴィ」

「? どうしたの? トイレ?」

「いや、全然違うよ・・・・・・」


 わたしが意を決した表情で口を開いたのが別の意味に勘違いされたらしい。

もしくはラヴィの小ボケだと思う。


「そうじゃなくてさ・・・・・・わたしもう一回自分のコードを、このどうしようもないエラーコードを信じてみようと思う」


 結局コードを頼みにするのか、なんてラヴィには馬鹿にされてしまうのかもしれない。

けど、それでも立ち止まりたくなかった。

試せる可能性は全部試して、当たって砕け散って、そうやって初めて立ち止まって考えるんだ。

わたしみたいな、馬鹿にはそれで丁度いい。


「何かが様変わりするってわけじゃないと思うけど、結局このコードもわたしに流れてる血だから。わたしは・・・・・・まだラヴィみたいに自分のコードを肯定できてない。でも生きてくんだ、このコードと。出来損ないでも、きっとわたしと一緒に成長していく」


 それはわたしの一部だから。

卵が先か鶏が先かみたいな話になるけど、コードが出来損ないだからわたしがこんなグズなんじゃなくて、わたしが出来損ないだからコードもその芽を出さないのかもしれない。


 とにかく、わたしが腐ってちゃ、何もかも腐っていってしまう。

今日繋がった、ラヴィとの縁も。


「だから、ラヴィ・・・・・・ちょっとだけ力を貸してくれる? わたし、自分のコードを少しでも成長させたいの」

「・・・・・・分かった」


 コードの力を頼るのは、やっぱりラヴィの信条とは一致しないのだと思う。

けれど、わたしの決心をラヴィは無碍にしなかった。

それどころか、全部ひっくるめて見守るように微笑みかけてくれる。


「でもそれなら・・・・・・どうせ街の外に出るだろうし、ついでに依頼は受けていこうか」

「う、うん・・・・・・!」


 コードを成長させるのに一番手っ取り早いのは、コードを使うこと。

腹筋を強くしたいなら腹筋を鍛える、当たり前のことだ。


 どのみち戦うなら、雀の涙ほどの報酬でも当然貰えた方が得。

二人で食べるおやつ代くらいにはなるかもしれない。


 さっき暗い顔で出ていったばかりのギルドに、さっきより幾分明るい表情で駆けて行った。

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