亀裂
昼下がり。
まだ残された時間は多くあるのに、一日の終わりを予感しだす時間帯。
辺りもまだ暗くならないが、まるで全てのエネルギーを使い果たしたかのように過ごしている者たちが居た。
太陽の角度が変わったせいで日陰がちになった室内。
普段なら仲間たちとゆったりとした時間を過ごすが、いつになくそこは静かだった。
「りぃだぁ、またやっちゃいましたね?」
コミュニケーションの場となるテーブルで一部のページが焦げて読めないノートを広げる少女、シュルーム・フンギがキノコの同定をしながら向かい側で頬杖をついている男に声だけ飛ばした。
「いや、俺は・・・・・・その・・・・・・」
「間違えたんですね。伝え方? 順番? ともかく・・・・・・」
どこか気まずい空気感の中、シュルームのページをめくる乾いた音が響く。
集中できなかったのか、シュルームはノートを閉じてキノコもリュックにしまってしまった。
「りぃだぁ、コーラル出ていっちゃいましたよ?」
男はシュルームの言葉に俯く。
ダン・ライアンは、コーラルが去ってからずっとこんな調子だった。
「違うんだ、こんなつもりじゃ・・・・・・」
「分かってますよ、そりゃ。いつもみたいなちょっとした喧嘩で済めばいいんだけど、今回ばかりはね・・・・・・」
「・・・・・・まさかこんなことになるなんて」
「りぃだぁはいっつもそうじゃないですか。いいかげん学んでください。・・・・・・あの子、無茶する子だから・・・・・・このままじゃ死んじゃうかもしれませんよ」
シュルームがポロッとこぼした言葉にダンがテーブルに手をついてガタッと立ち上がる。
「そ、それはっ! それだけはっ、ダメだ・・・・・・!」
「・・・・・・ほんと、あの子どこ行ったんだか・・・・・・」
今日は一種の節目の日ということで、ダンたちは依頼を受けていない。
ほんとは仲間たちと過ごすはずだった時間は、コーラルの捜索に消費された。
「ああ、なんで・・・・・・いつも俺は・・・・・・」
ダンは項垂れたまま頭を抱える。
丁度そのとき、家に入ってくる者があった。
プルームだ。
「居たよ、コーラル」
その言葉に二人はバッとプルームの方を向くが、そこにコーラルの姿は無い。
「プルーム・・・・・・その冗談、間違えてますよ。今じゃない」
「違う、冗談じゃないさ。居た、居たさ。ただ・・・・・・他のやつとパーティ組むってさ・・・・・・」
プルームはドアを閉じると、そのまま入り口付近の壁に寄りかかる。
それから、そのプルームの言葉を吟味するようにしばらくの沈黙が訪れた。
その沈黙を破るのはシュルーム。
「まぁ、それならそれで・・・・・・よかったのかもね・・・・・・」
口ではそう言うが、声色や表情に納得いっていない気持ちがありありと浮き出ていた。
「・・・・・・」
自己嫌悪に苛まれ、今最も多くのことを考えているダンは、自分が失敗を犯してしまった以上そのことについて何も言えない。
シュルームの言葉とダンの沈黙を受けたプルームは、不機嫌そうに壁を蹴り二階へ続く階段へ進む。
その一段目に足をかけたところで、ダンの方に向いて言い残す。
「ボクはごめんだよ。あんなどこの誰とも知れないやつとコーラルがパーティを組むなんて」
その声色は暗にダンを非難している。
「プルーム」
シュルームはそれを諫めようとするが、そこにもうプルームの姿はなく。
2階の部屋のドアが荒々しく閉められる音が響くだけだった。
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