第4話 ロリの実力と”へんしつしゃ”
「ひぐっ……うぅっ……ぐすっ……ぢ、違うのでず……ぐずっ」
まめは顔を真っ赤にして号泣していた。
いとかわいらし、である。
「あれは小生の実力ではなくてぇ……!」
「うんうん。分かってる分かってる」
理由は単純。
食後の運動も兼ねてまめの実力測定を行ったのだ。
始まる前こそ、シャドーボクシングらしきものをして見せたり、ドヤ顔で「新記録をつくってまいります」などと息巻いていたが、結果は推して知るべし。
「大丈夫だ。俺が師匠になってやるから。これからどんどん強くなれるぞ」
「うゅ……本当ですか!? 小生でも強くなれますか!?」
「なれるなれる」
紺の持った用紙には、呪力適正F、身体能力Fとはっきりと記されている。
おまけに特記事項の欄は「なし」である。
アルファベッドでランク分けされた検査だが、その最低値がF。つまるところ、まめはびっくりするくらい弱かった。
「小生は九尾の狐とも引き分けたことがあるのです! いえ、あれは実質勝ちでした! 狐めが泣きながら命乞いをするので慈悲をかけてやったのでございまする!」
幼女から放たれる香ばしいイキりを吸い込んで大満足だった紺だが、さすがにこの結果は予測していなかった。
そもそも妖怪が人化し、会話可能になるのはDランク程度からと言われているのだ。
適正と実力は違うものとはいえ、歴代最低値を更新するようなまめが人化していることがすでに不思議だった。
「ほら、とりあえず俺の家いくぞ。そこでご飯食べて、よく寝て、明日から修業だ」
「はいです……ぐすん」
年の離れた姉弟か、あるいはいとこのように手を繋いで帰ろうとする二人だが、物事というのはそうそう上手くは進まない。
「紺さん、まめちゃん! ちょっと待ってください!」
事務作業をしていた鳴海から待ったが掛かったのだ。
「……あの、ですね……非常に言いにくいんですが、お二人の師弟登録は認められません」
「なななっ、なぜでございますかっ!?」
「特級退魔師の称号が与えられているのは世界でも100人以下です。ですから、後進育成にしても特に才能ある者を育ててもらえるよう、Dランク以上か、もしくは特別な才能が必要なんですよ」
鳴海の説明を聞いたまめは、死刑宣告を受けたかのように顔を青くして紺にすがりつく。
「お師様ぁ! 見捨てないでくだされぇ! このまめ、なんでも致しまするぅ!」
「見捨てないって」
「でも意地悪で言ってるわけではなく、制度的に本当に駄目なんですよ」
「お師様ぁぁぁぁぁ!」
「何か特殊な能力を持っていたり、呪力か体術のどちらかが水準に達して入ればOKなんですが」
「ひぃんっ! どっちも駄目なのです! そ、そうです! 特殊な能力ならなんとかなるかもしれませぬ! こう見えて食べられるきのことそうでないきのこは一目で判別できるのです!」
「いや、特殊能力というのは、そういうのじゃなくてですね、」
「で、では明日の天気を当ててみせまする! 月さえ見れば一発なのです!」
「それもちょっと……邪眼とか、
「ひんっ」
「泣かすなよ」
「コレ、私が悪いんです……? 一応、頼まれれば何度でも測定はしますし、その時点で基準値を超えていれば師弟になれますけども、現時点では……」
困り顔の鳴海からの説明を聞き、紺はにんまりと笑う。
そのまま鼻水ずびずびのまめを撫でて、抱きかかえ、持ち上げる。といっても体格差のせいでロマンチックな感じのものではない。
世間の父母が自らの子にやるような、片手抱っこである。
唐突な抱っこにびっくりしたのか、まめが目を真ん丸にして紺を見つめる。
「あー、しまったー。油断したなー。妖怪に憑りつかれてしまったぞー」
「お、お師様!?」
「特級退魔師の俺が祓えない妖怪だから、誰に頼んでも無駄だなー。憑りつかれたまま家に帰るしかないなー。憑りつかれたら普段の修練の様子とか強さの秘密がバレてしまうー」
棒読みの台詞に驚いたまめが紺と鳴海を交互に見つめる。
紺は元より、鳴海も苦笑気味に頷いていた。
「……師弟でない妖怪については、よっぽどの悪事を働くか、誰かからの依頼がなければ協会から動くことはありませんね。来週でも来月でも、また登録に来てくださいね」
「あ、ありがとうございまするっ!」
こうして、紺とまめは一つ屋根の下で暮らすことになった。
……のだが。
「まめ。衣服を変化させることはできるか?」
「? なんでです?」
「いや、ミニスカ巫女を抱っこして電車に乗るのはちょっと……」
「ふむ? お師様が困るのでしたら、がんばって変化させてみまする!」
んむむ、と可愛らしい唸り声を上げたまめが白い煙に包まれる。
そして――
「ひゃぁぁっ!? なんでこんな破廉恥な服に!? ち、違うのですお師様ぁっ!」
「エクセレントッ! 白米だ! 今なら白米2
「お師様っ、助けてくだされ! 寒いのです!」
なぜか水色ボーダーのマイクロビキニになっていた。
恥じらいにしゃがみ込むまめと、大興奮でスマホ撮影を始めた紺だが、このままでは即座に豚箱逝きである。
損得計算ができる理性的なロリコンはさっさと退魔師協会の結界範囲に戻り、 勤務中の鳴海を呼び出した。
洋服に下着、その他日用品の買いだしをお願いし、最後はタクシーで帰宅することとなった。
「こ、このような豪華な衣装を何着も……! ありがとうございまするっ!」
「まめちゃん。コレを首から提げておいてください。困ったことがあったり、紺さんに何かされそうになったらすぐにここのピンを引っこ抜くんですよ」
「ぬ? これはなんなのです?」
「フロント企業が販売している防犯ブザー付きの安全キッズスマホです。このピンを引き抜けば警察と退魔師協会に通報が入る特別製ですからね」
「ななななっ、何でそんなものを!? 俺は別に何もしないぞ!?」
「何もしないなら持ってても問題ないじゃないですか」
「ぐぬぬぬ」
5秒で言い負かされた紺をよそに、鳴海は紺の金で買って来たものを説明しながら渡していく。
「最後に、これは今日中に読んでください」
「立派な装丁の本なのです……はじめてのせいきょういく……?」
「はい。とりあえず最低でも2回は読んでください」
「? わかったのです」
「ぬぁぁぁぁ本で読まなくても俺が教えるぞ! 師匠として間違いがないように俺が手取り足取り――」
「はい。4ページ目を見てくださいね。今の紺さんが、そこに書かれた”変態”とか”変質者”っていう奴です。覚えましたか?」
「覚えました! お師様はへんしつしゃなのですね!」
まめに笑顔で指差され、紺は心に大きな傷を負うこととなった。
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