第32話 砂漠の声の泉

影を追うラクダ、カリムとの出会いで「影の石」を手に入れたシンちゃん、キラちゃん、そしてサンドフィッシュ。光と影の意味を胸に刻みながら、彼らは砂漠をさらに進みました。


その日の夕方、三人は疲れて足を止めました。風が静まり、砂漠には不思議な静けさが漂っています。すると、かすかな水音が耳に届きました。


「えっ、水の音がするよ!」とキラちゃんが顔を上げました。


「でも、この砂漠でまたオアシスに出会えるなんて…本当かな?」とサンドフィッシュが首をかしげます。


「行ってみよう!もしかしたら、新しい何かがあるかもしれない!」とシンちゃんが元気に言い、三人は水音のする方向へと歩き始めました。


音のする方へ進むと、やがて小さな泉が現れました。その泉は普通の水とは違い、表面がきらきらと輝き、まるで音符が舞い上がるかのような不思議な雰囲気を漂わせています。


「これ、本当に水?すごく綺麗…!」とキラちゃんが感嘆の声を漏らします。


すると、泉の中央から透明な人影が現れました。それは砂漠の精霊の一人のようで、声が風に乗って響きます。「ようこそ、旅の者たち。この泉は『砂漠の声の泉』と呼ばれる場所。この砂漠に流れる声を聴く力を持つ者だけがたどり着ける場所です」


「砂漠の声?」とシンちゃんが不思議そうに尋ねました。


精霊は静かにうなずき、「砂漠は静寂の中にもさまざまな声を持っています。風の声、砂の声、そして旅人の心の声。この泉はそれらを映し出す鏡なのです」と説明しました。


精霊は三人に向かって言います。「この泉の水に触れてごらんなさい。あなたたち自身の声が泉に映し出されるでしょう」


三人は慎重に泉の水面に手を触れました。すると、水面が揺らぎ、それぞれの姿と共に何かの映像が現れました。


シンちゃんには、これまでの冒険で仲間を信じ、導こうと努力する自分の姿が映し出されます。「これって…私の心の中?」と驚きました。


キラちゃんには、みんなの笑顔を大切にしようとする優しい気持ちが映っています。「これが、私が望んでいることなのかな?」とつぶやきます。


サンドフィッシュには、砂漠の美しさを守りたいという強い願いが映されました。「やっぱり、砂漠が好きなんだ」と改めて感じ入ります。


精霊は微笑みながら言いました。「あなたたちは、旅を通じて自分の声を見つけつつあります。この泉の水を少しだけ持って行きなさい。それは、迷ったときに自分の声を思い出させる力を持っています」


三人は精霊にお礼を言い、小さな瓶に泉の水を少しだけ汲み取りました。その水は透明でありながら、光を反射して七色に輝いています。


「これを持っていれば、自分を信じる力がもっと湧いてきそうだね!」とキラちゃんが嬉しそうに言います。


「ありがとう、精霊さん。この水を大切にします!」とシンちゃんが感謝を伝えると、精霊は静かに姿を消し、泉の水音だけが残りました。


三人は新たな力を手にし、砂漠をさらに進む決意を固めました。「自分の声を信じること、それが旅を続ける鍵だね」とシンちゃんが笑顔で言い、キラちゃんとサンドフィッシュも力強くうなずきました。


砂漠の声の泉で得た気づきと水を胸に、三人は再び歩き始めました。次に待ち受ける冒険に、彼らは一層の期待を寄せながら、砂漠の広がりへと進んでいきました。

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