4 剣士になりたい姉と反対する弟 後編
「ここで何をしているんだ、アリシア
・・・答えろ」
6歳の弟が当たり前のように私にそう命じる
私は13歳で、この人の姉で
でもこの人に何一つ私は逆らえない
「・・・洗濯をしてるのよ、アーネスト」
強がりだと自分でもわかっている
弟の目を見て話せない情けない姉
「そんなのは侍女にやらせればいい、王女であるお前がすることじゃない」
お前呼ばわりされた
「私は剣士になるのよ、アーネスト、剣士に、騎士になるの、自分のことは自分でするのよ」
「そんなことは許さない、お前は王女だ、アリシア」
「私は」
「剣士になるなど、許さん」
呼び捨ても、お前呼ばわりも、こんなにされたことは今までなかった
こんなに怒ってるアーネストは初めてだ
「さあ、帰るぞアリシア」
「・・・・!」
逆らおうと思った
そう思って視線を上げ彼を見た
その途端
私は動けなくなった
弟は6歳で、姉である私は13歳
なのに
なんて情けない
動けない
「帰るぞアリシア」
アーネストが一歩近づいた
その瞬間、私は
「帰らない!」
私はそう叫んだ
もっとアーネストを怒らせるとわかっていた
でも今逆らわないと私は二度とこの人に逆らえない、そう思った
だから、叫んだ
「勝手に決めないで!
私が何になるかなんて私が決めるわ!
私は剣士になるの!
伯父様も認めてくれたの!
私のことは私が自分で決めるの!」
言った
言ってやった
「王女の務めもほっぽり出してか?」
アーネストは、ただ一言そう言った
アーネストは、まだ6歳だけれど、王太子教育を毎日毎日こなしている
とても優秀で、ひとつも不満を言わないで、王太子としての務めを毎日毎日果たしている
それに引き換え、私は、私は
「帰るぞアリシア・・・なんだその服は、みっともない」
私が着ているのは上はシャツで下はスラックスで、膝まで裾をまくり上げている
サイズは違うけれど、騎士たちが制服を着ないでいるとき着てるのと同じものだ
それを弟はみっともないと言った
言われて私は、言い返せなかった
「そんなものはお前には似合わない・・・ドレスに着替えろ、着替え終わったらすぐ帰るぞ、アリシア」
「・・・」
何もかも勝手に決めていく
お父様よりもっと勝手に決めていく
お父様は私が伯父様のところに来ることを許してくれた
お父様が許してくれたことなのに、弟は許してくれない
まだ6歳のくせに
私の方がずっと大きいのに
なのに私は、弟に逆らえない
「・・・聞こえたか?聞こえたならさっさとしろ、アリシア」
「・・・」
涙が出てきた
『はい』と言いたくない、でも、そう言わないといけない
私はこの人に逆らえない
剣士になれない
伯父様の弟子にしてもらえたのに
剣士の道を歩み始めたばかりなのに
なのに、もう許してもらえない
「さっさとしろ、アリシア」
「・・・・・は」
『はい』
そう言ってしまった方が楽なのはわかってる
そう答えるしかないこともわかっている
でも、ここで私は私の人生を決められてしまう
「・・・・・」
せめてもの抵抗で、私は『はい』と答えるのをやめて、桶から足を出した
「帰るぞ、アリシア」
「・・・・・・」
地面に足をつけて、少しだけ安定した気がした私は、もう少し、もう少しだけあがきたくなった
私の前にいるのは私のただ一人の弟
私は彼の姉
彼は6歳
私は13歳
私の方が背も高いんだから
「・・・私、帰らないわ」
「・・・なに?」
「私、帰らないから、アーネスト」
「・・・」
弟がじっと私を睨む
私は竦む
今すぐ謝りたくなる、逆らったことを
でも、そうしたら、私は一生この人に勝てないままだ
「・・・」
「・・・」
私たちはお互いに睨み合った
姉弟なのに私たちは喧嘩らしい喧嘩をしたことがない
今が初めての姉弟喧嘩なのかもしれない
今の私ならまだきっと弟に勝てる
弟はまだ6歳で、私は13歳なのだから
いくら私が情けない姉で、弟が大人びていても、今ならまだ私が勝てる、勝てるはずだ
そう思った
でも体は動かなかった
動かせなかった
だから私はせめて弟を睨み続けようとした
その時
「あらあら二人ともどうしたの?」
声がした
「あらまあアリシア、あなた足がびしょびしょじゃない」
「伯母様」
「せっかくアーネストが来てくれたんだから、洗濯は後にして、お茶にしましょう」
私はホッとした
弟から目を逸らすことができたから
「そうですね、伯母様、ね、アーネストお茶にしましょう?」
「・・・」
弟はまだじっと私を見つめている
「さあさ、二人ともこちらに来なさい、さ、アーネストも、長旅で疲れているでしょう?」
「・・・はい、伯母上」
伯母様から話しかけられて、やっと弟は私を睨むのをやめてくれた
私はホッとした
そしてそれから私は、私の足が震えていることにやっと気づいた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます