3 剣士になりたい姉と反対する弟 中編
伯父様の弟子になってから数日が目まぐるしく過ぎた
私は、伯父様を、「師匠」と呼び、教えられるがまま、ひたすら剣を振るった
王女である私が木剣とは言え剣士を目指すことに侍女や護衛の騎士たちはいい顔をしなかったが、伯父様、剣神と呼ばれた英雄が師なので、複雑な顔で私を見守っていた
お父様がここにいたら、きっと許してくれなかったろう、私を
剣士に、騎士になりたいなど、きっと本気で受け取ってはくれていない
ハミルトン領にいられる間、可能なだけ剣を振るい、できるだけ強くなる
強くなってそして、少しずつ認めさせる
そして、いずれ、騎士となる
なれるはずだ、私でも
騎士になってそして
私はアーネストの剣になる
いずれ王となるアーネストの、剣に
アーネスト
今頃きっと怒っているだろう、何も言わないで王都を出てきたこと
でも仕方なかった
私が剣士になることをあの子は許してくれないのだから
でも私にはこれしかない
騎士になるしか、それしか救いはないから
伯父様の弟子となってから、剣術を真剣に学ぶのはもちろん、生活全般においても私は自分のことは自分でするように教えられた
できる範囲でいい、と
そして無理はしないように、と
私は言われた通りにした
自分のことはできるだけ自分でする
騎士の基本なのだ
もちろん侍女はいい顔はしないけれど、でも、お願いして私は私のことはできるだけ自分でするようにした
ハミルトン領に来てから、二週間ほどたった頃のある日
公爵である伯父様は多忙で、毎日私の稽古をつけてくれるわけではないけれど、私は暇さえあれば剣を振るっていた
剣術を練習したり自分の身の回りのことをしたりと、そのどれもが、私には必要なことで、王女の我儘ではあるけれど、騎士たちも侍女たちも私の熱意を認めてくれるようになっていた
その日もいつも通り私は自分で自分の部屋を掃除したり自分の服を選択したりしていた
桶に水を注ぎ、足で、衣類を踏みつけるようにして洗う
空が青く、心地いい風が吹く
午後からは剣術の稽古だ
その前に他に何かやることはないだろうか
そんなことを考えて風に吹かれて洗濯をしていたら、
「何をしている」
と、後ろから声がした
私は、その声に、一瞬体が動かなくなった
その声が誰の声なのか私は知っている
まさか、こんなところに、王太子である弟がわざわざ来るなんてこと
会いたかったとか、姉である私にその口のききようは何?と思うより、私は弟の声に怒りが含まれているそのことに、震えた
『この方は王の中の王となられるお方です』
国一番の魔術師が生まれて間もない弟をそう占った
その占いは真実だと私も思う
私は弟に逆らえない
王の器がきっとそうさせるんだ、そう思う
そんなことをぐるぐる考えていると、
「ここで何をしている、アリシア」
そんな声がして、私は実の弟から呼び捨てにされそんな口調で言われたりしてるのに、何一つ怒れなくて、
「アーネスト・・・」
そう弟の名前を呼びながら振り返るのが精いっぱいだった
振り返ると弟が、じっと私を睨んでいた
そして、また、
「こんなところで何をしているんだ、アリシア」
と私に問うた
私は何も言えなかった
私は姉で、アーネストは弟なんだ、そう自分に言い聞かせることさえ、できなかった
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