くだらない日常は唐突に終わる

とっぴい@猫部@NIT所属@WGS所属

くだらない日常

 昨日まで普通に話していた友達が急に居なくなる。


 そんなことが現実で起こるなんて、一度も考えたことがなかった。




 今日の昼まで聴くことが出来た声は、もう聴くことが出来ない。


 もう少し、何気ない日常を大切にしていればよかった。


 知らせを聞いてからこのことを何回考え続けているのだろう。


 今更こんなことを考えたって仕方ないのに。


 どうしても、どうしても、こうやって考えてしまう。


 なあ、〇〇。


 なんでお前は死んだんだよ。


 なあ、なんで俺らは喧嘩したままなんだよ。


 俺とお前はまだどっちも謝ってねえじゃねえかよ……


 なあ……なんでだよ……


 お前が死んだこと、俺はまだ認められてねえよ……




◆◇◆




 〇〇が交通事故で死んだ、という事を知ってから半日が経った今。


 俺は自分が通っている学校にいた。


 ……昨日は学校についた瞬間、アイツに声をかけられてたのにな。


 こういうところでも、いかにアイツが大切な存在だったかを思い知る。


 〇〇の席にリュックは置かれていない。


 ただ、昨日忘れて帰ったと推測できる体操袋なら机の横にかかっていた。


 この中に入っている体操着が元の持ち主に着られることはもうない。


 そう、もう二度と着られることはないんだ……


 アイツが風邪とかで休んでいるとかだったらどれだけよかったか。




 教室に入ろうとしたとき、いつもより教室がざわついているのを感じた。


 いつもうるさいけれど、今日はいつもにも増してうるさい。




 気になったのでみんなの会話をしばらく自分の席から聞いとくことにした。


「〇〇が死んだってマジ……?」

「は……? 冗談だろ……?」


 予想通り、クラスの話題の中心は〇〇についてだった。


 誰が言ったのかは知らないが、〇〇が交通事故で死んだ、という話は学年中、いや学校中に広がっていたみたいだ。


 先生たちが言ったとかではなさそうだから、きっと昨日の俺みたいに〇〇の死を知らされた誰かが言ったのだろう。


 誰だ……? と思ったけど心当たりが多すぎる。


 本当にアイツって交友関係広かったんだな。




 ここで〇〇が教室に入ってきて。


「みんなどうしたんだ? 俺ならここにいるぞ?」


 とか言ってくれたらいいのに。


 ……ああ、だめだ。


 昨日〇〇について気持ちの整理を無理やりつけようとしたはずなのに。


 俺、全然気持ちの整理つけれてねえじゃねえか。


 本当に……アイツは……なんで……




 目からでる涙を抑えられない。


 昨日散々泣きまくったのに、水分はまだ全然残っているみたいだ。




 結局、この涙は10分くらい収まることがなかった。


 クラスメイトからはめちゃくちゃ心配された。


 ただ、心配してくれたクラスメイトの大半が俺と同じように泣いていたけれど。


 やっぱ、みんな俺と同じ気持ちなんだな。




 この後、ホームルームで〇〇が昨日交通事故で死んだことを先生から聞かされた。


 それと同時に、俺の淡い、淡い、もしかしたら〇〇は生きているんじゃないか、という期待も打ち砕かれた。


 ……一応頬をつねっておいたけれど、もちろん痛いし夢から覚めることもない。


 認めないといけないんだな。


 お前が本当に死んだっていう事を。




 ああ、本当に嫌だ。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ……


 嫌だよ……嫌だよ……


 また俺の前に笑って立っててくれよ……




◆◇◆




 〇〇が死んでから二週間が過ぎた。


 学校生活は今までとあまり変わっていない。


 ただ、前と比べてクラスの雰囲気は暗くなった。


 だってお前が俺らのクラスのムードメーカーだったからな。


 そりゃムードメーカーがいなくなったらこうにもなるか……


 たまにすごくつまんねえダジャレを言ったり、時にはすげえ面白いギャグを披露してきたり、お前がクラスを明るくしてくれていたよな。


「クラスのみんなを明るくするのが俺の役目だからな!」


 とか言ってたお前がどんなにクラスを明るくしてくれていたのかってことをお前を失ってから気づくなんて思いもしなかったよ。


 あ、明日は〇〇の葬式か。


 明日がお前との本当の……本当の……最後のお別れになるんだな。


 ……そうなのか、明日が最後か。




◆◇◆




 今日は土曜日。


 本来だったら部屋でのんきにゲームをしている曜日だ。


 だけど、今日は〇〇の葬式がある。


 幸いなことに〇〇はトラックにぶつかられたにしては外傷が少なかったらしく、最後のお別れとして顔を見ることも出来るらしい。


 最後に顔が合わせられないなんて嫌だったからこれは本当に良かった。


 交通事故で死んだ時は、見ているだけで気分が悪くなるほど原型を留めていない冷たい塊になることもあるらしい。


 もし〇〇も誰か分かんないくらいになっていたら……


 いや、考えないでおこう。


 今は、また〇〇の顔を見れることに対して喜ぶべきだ。




 今日は、〇〇との2週間ぶりの再会になる。


 そして、これが最後の顔合わせにもなる。


 だから、俺は覚悟を決めないといけない。









 久しぶりに見た〇〇の顔は、前と変わらなかった。


 とてもトラックにぶつかられて死んだとは思えないような表情をしていた。


 多分、トラックに気づかないままぶつかられたんだろう。


 ……なあ〇〇、お前は最後どんな気持ちだったんだ?


 まあ、こんなこと聞いても返事は返ってこねえか。


 分かってるよ、それくらい。


 だから、今の俺に出来るのは、これくらいしかない。




「今まで、ありがとうな」


 俺は〇〇に今までの感謝の気持ちを小さく伝えた。


 〇〇……今まで本当にありがとうな。


 お前みたいなやつとの出会いはもうないよ。


 なんで、喧嘩したまま別れちゃったんだろうな、俺たちは。


 本当になぁ……なんで俺らはあの時喧嘩したんだよ……


 些細なことだったのになぁ……




◆◇◆




 〇〇が死んでからちょうど1年が経った。


 俺は目の前にある仏壇、〇〇の仏壇に向かって手を合わせる。


 お前がいなくなってから……俺らは寂しい思いをしたんだぞ。


 いつも俺らを元気づけてたくせに、最後は俺らを悲しませやがって……


 本当にお前はさぁ……




 あ、やっべ、また涙が出てきたよ。


 もう一年も経ってるのにこれか。


 俺の中で〇〇って本当に大きな存在だったんだな。 




「毎週毎週本当にありがとうね……」


 その時、仏壇の前で涙ぐんでいる俺にある人が声をかけてきてくれた。


 〇〇のお母さんだ。

 

 〇〇のお母さんは一年前はやつれていたけれど、今はあの日ほどではない。


 そんな事を考えながら返事を返す。

 

「いえいえ、仲良かったんですもん。逆に迷惑じゃないですか?」

「いや、あの子も喜んでるわよ。きっとね」

「そう……ですか……」




 〇〇は家庭の中でもムードメーカーだったらしい。


 本当にアイツの役割は何処でも変わらないんだなって思った。


 どうせお前は天国で誰かを笑わしてたりするんだろ?


 幸せにやってるんだろ?


 俺も……幸せにやってるよ。


 でも、やっぱお前がいない生活は辛えよ。


 出来る事なら、お前に帰ってきて欲しいよ。




 だけどさ、〇〇。


 お前の名前はだろ?


 それはお前のお母さんから元気に生きて、沢山の人を元気にして欲しい、って気持ちでつけられたもんなんだよ。


 だから、今はあっちで沢山の人を元気にしてこいよ。









 後、お前の筆箱に折り紙で作ったびっくり箱を入れて驚かせたのは本当にゴメン。


 あんなに驚くとは思ってなかったんだよ。


 そりゃあそこまで驚かしてから笑ったら怒るよな……


 さすがにあれは俺が悪いわ。


 はぁ……なんで今頃こんな事に気づくんだか。


 最後の喧嘩がこれかよ……


 ほんと、くだらないなぁ。


 これが俺らの最後のコミュニケーションだったんだぜ?




 ……けどさ。


 俺はお前とのくだらない話、くだらない喧嘩、その全部が好きだったんだよ。


 だからさ、出来る事ならこんなくだらない日常をいつまでもお前と続けていたかったよ。


 あ、話が長くなっちまったな。


 まあ最後にこれくらいは言っておくか。









「元気! また会おうな!」

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