第6話 ナンパ撃退
「一人の女子高生相手によってたかって何やってるんだ!」
全員の視線がこちらを向いた。
混乱からいち早く立ち直った、リーダー格らしき男が声を上げる。
「何お前? 関係ないよな」
その一言で、他の2人も立ち直り声を上げる。
「この子は俺らが先に声をかけてたんだからよ。あっちいけよ」
「そうそう。っていうか、お前なんで喪服なの。喪服でナンパ? ウケる。」
(嫌な顔してやがる。こんな奴らに囲まれていて、栗山さんは怖かったろうな)
出ていくのが遅れたことを、涼は少し悔やむ。
「ナンパじゃない。お前らと一緒にするな。」
3人組の間をすり抜けて、奏のところまで行き、安心させるように笑顔を浮かべる。
「君、大丈夫? 一緒に帰ろう」
涼は念の為奏の名前は出さない。
(この人誰だろう? 見覚えはある気がするんだけど。
でも一緒に行ってもこの人なら大丈夫そう)
奏は、涼のことが誰だかわかっていない。
それも無理があることではない。普段とは見た目が全く違うのだから。
それでも、涼の笑顔は奏を安心させるのに十分で、奏がついていこうとする。
そんな二人の間に、3人組のうちの一人が割り込む。
「おっとー、勝手に帰られちゃ困るんだよね」
「こっちはその子に暴力を振るわれたんだ」
「そうそう、誠意を見せてもらわないとね」
「だから、帰るならお前だけ帰れよ」
「全くその通り」
「帰れ帰れ」
涼の肩を押しながら3人で囃し立てる。
涼は心底呆れた表情を浮かべ、彼らに言う。
「そんなに大騒ぎするような怪我したのか?」
「当たり前だろ。いてーんだよ、こっちはよ」
「でも自分からこけたよな」
「ああ、本当にやられたんだよ。証拠もないくせに何言ってやがる」
「はあ?大丈夫かお前。証拠がないってんなら自分たちもないじゃないかよ」
「なっ、じゃ、じゃあ泣き寝入りしろって言うのかよ」
いい加減鬱陶しくなってきたが、もうしばらく我慢する。
「まあ、いいや。誠意見せろって言うんだったら、第三者の確認が必要だよな」
「何言ってる」
「警察呼べばいいじゃないか。今から俺が呼ぶけど、俺は悪質なナンパが女の子に迫ってるって呼ぶからな。
お前ら暴力云々はその時警察に訴えろよ。信じてもらえるかは微妙だけど。ププ」
3人組は警察という言葉にたじろぐ
「お前調子に乗ってんじゃねえぞ」
「当たり前のことだろ。ああ、お前ら大学生だろ」
「だからなんだってんだ」
「その子連れて大学にも誠意について話に行ってやるよ。
オタクの大学ではどんなことを誠意と教えているんですかってね。
あ、これマジでやるから大学教えろ」
一人が涼の胸ぐらを掴み脅してくる。
「ぶっ殺すぞ」
「あーあ。ついに暴力を振るってきますか。しかも殺すなんて。
これだけで捕まるぞお前」
涼は、掴んでいる腕の手首を掴むと思い切り力を入れる。
「いてててて、は、はなせ」
「おい、やめろ」
「てめー、はなしやがれ」
涼は少しだけ手の力を緩めて、一喝する。
「動くな! それ以上やってくるならシャレになんねえぞ」
二人も涼の言葉に動きを止める。
涼はそれを確認すると、手首を掴んでいた手を離し、ポケットからスマホを出し操作する。
それを見せると、3人は驚愕している。
画面に映っているのは自分たちがナンパしている姿だったのだから当然である。
「これを警察、大学 親に見せた上で動画サイトにアップしてやるぞ。
それとも俺からこのスマホを奪うか? それはそれで大問題だぞ』
「な……」
「いつの間に」
「やべえよ」
涼はある程度心を折ったかと感じたところで、また操作して少し待つ。
「な、何してんだよ」
「はい、ネット上のクラウドにアップしちゃったから、スマホ奪ってももう意味ないぞ」
「「「そんな」」」
(これで完全に心を折ったかな)
「じゃあ、警察呼ぼうか」
「あ、俺たちそんなに悪気があってやっていたんじゃないんだよ」
「悪気以外何があるんだ。話にならない」
「謝るから。どうか警察は勘弁してください」
「俺も悪かったよ」
「許してくれないか」
「謝る相手が違うよな」
涼は奏の方を見る。
「君、どうする?」
急に話を振られて、成り行きを見守っていたかなでは、肩をビクッと震わすが、気丈にこたえる。
「もうこういうことをしないって言うならいいですけど」
「もうしません、ごめんなさい」
「悪かった」
「俺も悪かった」
「はい、わかりました。もうこんなことしないでくださいね」
許されたと思って、3人は顔を明るくする。
「よかったな、お前ら。この子が許さないって言ったら大変だったよ」
3人は何事もなく終わったと思い、ほっとした顔をするが、次の涼の言葉で地の底に落とされる。
「それじゃあ、みんな学生証出して。持ってんだろ、財布の中に」
「な、なんで」
「なんでじゃないよ。これだけのことをしたんだ。次も同じことをする可能性はあるだろ。
だから控えておくんだよ」
「勘弁してください」
「なあ、許してくれよ」
「俺も親にバレたら、仕送り止められるかもしれないんだよ」
「お前らはこの子を無理やり連れ去ろうとしただろうが。
連れ回した挙句、ホテルにでもいく気だったか?
それとも、自宅に連れ帰って無理やり酒を飲ませて暴行しようとしてたか?
どっちにしても、一生の傷が残りそうなことをしようとしていたんだろ、お前ら」
奏は涼の言葉に思った以上に危険だったことに今更青くなる。
(私、この人が来てくれなかったらどうなってたんだろう)
「だったら、第2第3の被害者を出さないためにはこれくらい当然だろ。
出さなくてもいいけど、即警察呼ぶぞ。逃げたら動画サイトにアップする。
特定班が速攻で実家の住所まで調べてくれるだろうよ」
3人は観念して学生証を出してきた。
それを涼はスマホで一枚一枚撮影していく。
「へえ、あそこの大学だったんだ。こんなことしてると親泣くぞ。
よし、お前ら、もうナンパするな」
「え」
「一切のナンパ禁止な。
もしナンパしているとこ見かけたら即大学に通報だからな」
ガクッと音がしそうなほど肩を落とす3人
「ああ、わかった」
「それと、これ俺のwine ID.。お前ら出して。交換しよう」
「な、なんで」
「いや、普通に連絡取れないと警告もできないだろ」
「わ、分かった」
もう、涼のいいなりだった。
3人は意気消沈して去っていった。
それを見ていた涼は奏に振り向いた。
奏は不安の混じった困惑した顔をしている・
(栗山さんはこんなに綺麗なんだな。前は心に余裕がなくて、気付かなかった)
「栗山さん」
「はい、え、なんで私の名前を……」
「やっぱり分からない? 俺のこと」
「はい、いえ、見たことある気はしていたんですけど。」
「いつもと違う見た目してるから仕方ないね。」
「違うんですか?」
「ああ、うん違うと思う」
「誰ですか?」
「羽山涼です」
「えっ、羽山君?」
「はい、今日は恩返しをさせていただきました」
そう言って、涼はニコッと笑った。
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