第5話 49日

 奏が強引なナンパに遭遇する10分前。

羽山涼は、特に行き先も決めずに街を歩いていた。

物思いに耽りながら適当に歩きたい気分だったのだ。


(49日経つと気持ちの整理がつくもんだな。少し前の気分とはびっくりするほど違うな。

49日にこんな効果があるなんて、すごい発見だな。

まあ、この発見を共有する友達もいないんだけど)


 そう思うと、涼は自嘲気味に笑う。


(思えば、何もかもにかかわらずに過ごしてきたよな。母さんが心配しないようにトレーニング

だけはしっかりしていたから、結構動けると思うけど。

あとは勉強も結構できるかもな。中間テストでも30位くらいだったし、本腰入れたらもっといけるかもな)


 思考は取り留めもなく浮かんでは消えていく。


(おばさんは一緒に住もうって言ってくれてたな。

考えておくとは言ったけど、なんか悪いよな。

自分のことは自分でできるし、おばさんのところに行くとなると転校もしなきゃいけないかもしれないし。

ああ、でも従姉妹がいるのは嬉しいかも。

最近、遊んでなかったけど仲良かったし。まあ、それもおいおい考えよう)


 いつの間にか普段来ない繁華街から少し外れたところに来ていた。


(あれ、いつの間にかこんなところに来てる。戻るか)


 踵を返し来た道を戻り始めると、同じ高校の女子生徒とすれ違った。


(今の子って、確か入学式で写真を撮ってくれた、同じクラスの栗山さんじゃ無いかな。

泣いていたな。どうしたんだろう)


 そう思うも、涼は足を止めずに歩き続ける。

(俺には関係ないし、ほっといてほしいだろうしな。

でもなあ、写真を撮ってもらった恩、まだ返してないんだよな。

確かあの時、困ったことがあったら恩を返すって言ってたんだよな)


 涼は立ち止まって、迷う。

涼にとっては入学式の立て看板の前で写真を撮ってもらったことはそれほど恩義を感じているのだ。


(うーん、声をかけてもし余計なお世話だったら、恩返しにならなくなってしまうな。

だけど、あのままだと何かあるかもしれないし。

そうだな、それじゃあついて行って声をかける必要がありそうだったら、声をかけるかな。

恩返しはその時にできればってことで。

ストーカーとか思われないよな。気をつけよう)

 

 振り返ると、200メートルほど先で、ほとんど動かなくなった奏がいた。

立っていられない様子で、腰を下ろしたようだった。


(いよいよほっとけないな。とりあえず近づこう)


 奏でに気づかれないように怪しい動きを極力しないで、歩いていくと、3人組の男性が奏に近づいていった。


(あれは、栗山さんの知り合いってわけじゃ無いよな)


 何か言い合っているように見えたので、少し急いで話し声が聞こえる距離まで急いだ。


(あれは、泣いている栗山さんに目をつけたナンパだな。あまり悪質でしつこいようなら助けに行かないとな。

その前に念の為)


 涼は曲がり角に隠れて、スマホを出した。

そして、出るタイミングを図る。


(そろそろかな……)

「ちょっとだけですか?」

「ちょっとでいいよ。俺たち嘘つかないし」

「そうそう、楽しく遊んだらもう終わりだから」

「いいでしょ。ちょっとだけ遊ぼうよ」

(ここだ!)


涼はスマホをポケットに入れて飛び出す。


「わか「おい、何やってるんだ!」」


 奏を含めた4人は混乱したのか、声の主を探して視線を動かしたが、涼には気づかなかった。

だから、涼は間髪を入れずに叫ぶ。


「一人の女子高生相手によってたかって何やってるんだ!」


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