第二十六話 誕生日プレゼント
「早坂、最近元気なくない? どうしたの?」
月曜日、火曜日が終わり、水曜日。
瑞樹の誕生日の日である。
ただ、どういう訳か連日、瑞樹の顔に元気がない。
いつものテンションなら「今日で皆原より私、年上だから」と言ってきそうなものだ。
しかし、皆原が朝会った時に「誕生日おめでとう」と言っても、ありがとうと返されただけ。
それ以上の会話はしていない。
たしかにもう高校生なので誕生日だからといっても気にしないかもしれない。
しかし少しくらいはテンションが上がってもいいだろう。
それに今日だけでなく、いつもいたずらしてきたり揶揄ってくるのに今週になってしてこないのだ。
明らかにいつもと違うので心配するのも当然である。
「そう? いつも通りだよ」
「にしては顔暗い気がするんだけど」
「......うん、ちょっとね。部活だったり、それ以外でもちょっと色々あって疲れてるのかも」
「そっか......何かあったら言って、相談乗るから」
「ありがと」
友利は特になにも追求はしなかった。
気にはなるが部活関係のことは相談にも乗れない。
それに瑞樹の口調も少し暗かったので相談に乗ろうかと聞ける雰囲気でもなかった。
誕生プレゼントも渡したいが渡せるような雰囲気でもない。
一応、計画としては昼休みに一緒に昼ご飯を食べて、その時に二人で渡すという計画をしている。
そのためにも一緒に昼ご飯を食べないかと誘いたいところだ。
しかし今はそっとしておいたほうがいいだろうか。
そう思ってしまい、中々誘うに誘えない。
声をかけずそっとしておいた方がいいのか、逆に元気付けた方がいいのか。
「早坂、昼休み空いてる?」
友利は少し悩んだ末に元気付ける選択肢を選んだ。
もしここで断られればそっとしてほしいということなのでそれ以上干渉はしない。
一方でもし了承されれば元気づけたい。
「空いてる......けど、今日部活ないからちょっと昼練行きたいかも」
「なら昼食摂るくらいの時間は空いてる?」
「それくらいは空いてるよ」
「じゃあ昼食天音含めて三人で食べない? 最近食べてなかったし」
「......いいよ、でも途中で抜けるかも」
「全然大丈夫。一緒に食べたいなって思っただけだから」
瑞樹は「そっか」とだけ言ってぎこちなく笑った。
そんな笑顔に友利は胸が少し締め付けられた。
***
昼休みが不安だ。
そんなことを思いながら瑞樹のことを心配しているともう昼休み。
瑞樹へのプレゼントは机の横にかけたバッグの中に入れてある。
準備は万端なのであとは渡すだけ。
これで瑞樹を少しは元気付けられるだろうか。
いつまでも暗い瑞樹は見たくないし、普通に心配する。
「席くっつけよ〜」
天音は机を反対向きにして友利たちの方を向く。
友利と瑞樹も席を動かして三人で席をくっつけた。
そして各自昼食を机の上に出す。
三人は「いただきます」と言って昼食を摂り始めた。
「あれ、皆原それだけ? 少なくない?」
「うん、いつもこんな感じだよ」
瑞樹からそう言われるも、いつもの量である。
いつも皆原は食堂で買うか購買で買うかしている。
今日は食堂でカツ丼だったのでテイクアウトして買ってきたものだ。
たしかに少ない気はするが学食なんてそんなものだ。
すると、友利のカツ丼の上に唐揚げと卵焼きが一つずつ置かれた。
「じゃあ私の何個かあげるよ」
「いいの?」
「うん、最近ダイエット中だから」
瑞樹はそう言って笑った。
ここ数日あまり笑うことのなかった瑞樹が笑ったので友利は嬉しくなる。
そして三人は会話をしながら昼食を食べすすめた。
誕生日プレゼントを渡す計画をしていると言っても、まだ他愛もない会話である。
食べ終わった頃に渡す予定だ。
休日の出来事の話だったり、最近の流行りの話だったり、たまに授業の愚痴だったり。
そんな会話をしているうちに瑞樹の中に笑顔が増えていた。
友達の笑顔を見るとやっぱり嬉しい。
瑞樹の悩みを解決、とまでは行かなくてもいい。
ただ瑞樹の心の支えになればなと、そう思う。
いつからか友利の中での瑞樹が特別な存在になっていた。
瑞樹がどういう気持ちを持っているのかはわからない。
最近少し仲がよいただの友達程度の認識かもしれない。
けれど瑞樹は友利の中では特別な存在で、大切な友達だった。
「ごちそうさま、じゃあ私昼練したいからそろそろ行くね」
「あ、ちょっと待って、瑞樹」
友利は行こうとする瑞樹を止めた。
そして友利と天音はバッグから誕生日プレゼントが入った袋を取り出す。
「早坂、今日誕生日でしょ。改めて誕生日おめでとう」
「私からもどうぞ。瑞樹、誕生日おめでと〜」
二人は瑞樹に誕生日プレゼントを渡した。
瑞樹はそれを見て受け取る前に少し固まった。
「天音は毎年くれてるけど、友利まで……わざわざいいのに」
「早坂には色々とお世話になってるから、日頃の感謝も込めてね」
「……ありがと、二人とも。プレゼント、帰ってから開けるね。じゃあ昼練行ってくる!」
瑞樹は大事にそれを自分のカバンの中にしまった。
そして満面の笑みで笑って、席を立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます