第二十七話 一緒の帰り道
「皆原、今日何か用事ある?」
終礼のホームルームが終わり、放課後のこと。
友利が帰る準備をしていると瑞樹にそう聞かれる。
部活も入ってないし、これといった用事もないので空いている。
「いや特にないよ」
「そっか、じゃあ一緒に帰らない? 天音も今日はダンスあるから一人で帰らなきゃなんだよね」
「いいよ、一緒に帰ろ」
友利は迷うことなく了承した。
帰り道は大抵、一人で帰っているので寂しいのだ。
悠里とは帰り道がそもそも反対なので校門を出たあたりまでしか帰れない。
前までは帰りは浩也たちの連中に絡まれていたが無論、それもない。
そうして友利と瑞樹は会話をしながら学校を出て、帰り道を歩いていく。
「誕生日プレゼントってどこで買ったの?」
帰り道、瑞樹にふとそんなことを聞かれる。
もうプレゼントも渡したので友利は特に隠すことなく答えた。
「デパートで買った。前の日曜日にさ、早坂と会ったでしょ? あの時に買いにいってた」
「あー、たしかあの時、天音もいなかった?」
「そう、二人で早坂の誕生日プレゼント買いに行ってたんだよね」
「なんだ、そういうことか。てっきり……普通に勘違いしてた」
瑞樹は大きく息を吐いて、その後少し笑みを浮かべた。
勘違いとは何の勘違いだろうか。
前にも天音との件で勘違いされていたので、最近そういった誤解が多い。
「勘違い?」
「うん、そう。その……デート行ってるのかなって」
「ないない、そもそも如月さんとそういう関係じゃないって前も言った気がするんだけど」
「それはそうだけど、側から見たらデートだし、私邪魔かなって最近思ってたんだよね」
「ううん、如月さんとは早坂経由で仲良いだけだから。それに如月さん、あんまり僕のことよく思っていないと思うんだよね」
嘘告の一件から瑞樹と関わるようになって、紆余曲折あって友利の新しい人間関係が作られている。
天音もその新しいの中に入る訳だが、天音自身は友利をよくは思っていないはずだ。
今は仲良くはなったが第一印象が悪すぎる。
友利と喋る時だけ口調が変わったり明らかな態度の違いがある。
表面上の付き合い、天音はそういう認識なのではないだろうか。
「そう? 天音と二人で喋ってる時、皆原のこと話すけど悪口とか聞かないよ。むしろ皆原のこういうところいいよね〜とか言ってるくらいだもん」
「え、本当?」
「うん、だから天音は普通に皆原のこと友達だと思ってるんじゃない?」
友利は変に勘繰っていた。
しかし天音の方は普通に友利のこと友達のような認識でいたらしい。
今まで変に気を遣ったり、気を付けていたが逆に相手に失礼だったようだ。
「嫌いだったら誕生日プレゼントわざわざ一緒に買いに行ったりしないでしょ」
「たしかに、早坂の誕生日教えてくれてわざわざ一緒に買いに行ってくれたし……」
「あれ、私の誕生日言ってなかったっけ?」
「うん、言ってない。個人的にはもっと早く早坂から教えて欲しかったんだけど」
「ごめん、普通に忘れてた。ていうかわざわざ自分から言わなくない?」
「あはは、それもそうだね」
そうして誕生日やプレゼントについての会話をしながら帰り道を歩いていた。
しかし、途中で瑞樹は近くにあった公園ベンチを指差した。
「ねえ、ちょっとあそこで座って開けてもいい? 楽しみすぎて家まで待てない」
「いいよ」
「ありがと」
友利と瑞樹は公園に行った。
公園内は人が少なかったので公園内のベンチには誰も座っていなかった。
近くのベンチに座ると瑞樹はバッグから二つプレゼントを取り出した。
「この箱の方が天音で袋の方は皆原のだよね」
「そう、開けてみて」
「じゃあまず天音の方から開けようかな」
瑞樹は天音の買ったプレゼントの包装を丁寧に剥がしていった。
そして中にあった箱を取り出して、その箱を開けた。
「あー、保湿クリームじゃん。しかもちょっと高いやつ!」
瑞樹がそれを手に取った時、瑞樹は声を大きくして喜んだ。
満面の笑みの瑞樹を見てこちらまで気分が上がる。
流石、天音だ。
中学からの親友とも言えるくらい親密な仲だからだろうか。
瑞樹をプレゼントだけでここまで喜ばせている。
天音にこの様子を写真で撮って送っておこう。
友利はそう思って瑞樹にスマートフォンを向けた。
「天音にこの様子伝えたいから写真撮っていい?」
「うん、いいよ」
「じゃあ撮るね、はい、チーズ……」
瑞樹は左手で保湿クリームを持って、右手で笑顔でピースした。
そしてその写真を友利は天音に送った。
「じゃあ次、皆原のも開けていい?」
「どうぞ」
瑞樹は友利の買ったプレゼントを手に取って、袋をゆっくりと開けた。
そして袋の中を覗いた。
時間的には数秒の出来事、しかし友利はその時間が妙に長く思えてなぜか緊張していた。
喜んでもらいたいからとできる限り考えて選んだからかもしれない。
「何これ、ペン?」
瑞樹は袋の中の二つあるうちの一つであるふにゃふにゃのペンを取り出した。
そして瑞樹はペンを揺さぶりながら笑っている。
「あはは、変なペンだね。こういう系のグッズ結構好き」
「なんか面白かったから買っといた。けどそっちじゃなくて……袋の中にもう一個あるでしょ?」
「あ、本当だ、これは……やった、ハンカチ!」
瑞樹はもう一個のプレゼントであるハンカチを取り出した。
そしてハンカチの表裏を見て、目を輝かせた。
「この猫、かわいいね。皆原、いいセンスしてる」
「間違えて変なもの買ってもなっていうので使う場面多いハンカチにしたんだけど……どう?」
当たり前だが天音の時のような喜びはない。
しかし笑ってはいるので失敗ではないだろうか。
「嬉しいよ。皆原、ありがとう」
瑞樹はそう言って満面の笑みで笑った。
あまり向けられてなかった笑みを久しぶりに向けられて胸が温まった。
「皆原、誕生日いつ?」
「十二月十日だからまだ先かな」
「わかった、覚えておくから。その日、絶対お返しする」
「じゃあ楽しみにしてる」
友利と瑞樹はしばらく話した後、公園を出た。
そして会話をしているとあっという間に帰りが分かれてしまった。
「あれ、瑞樹ってどっち?」
「私、こっちの道」
「そっか、じゃあ僕、帰り道こっちだからまた明日ね」
「うん、ばいばい」
友利はそう言って瑞樹とは違う方向に歩き出す。
しかし瑞樹に服の裾を引っ張られてそれを止められた。
「ど、どうしたの?」
待ってとも言われず、急に止められたので友利は少し驚く。
瑞樹は友利の服の裾を掴んだまま、何も話さなかった。
そして少しして、瑞樹は「皆原」と名前を呼んだ。
友利もそれに反射して後ろを振り返った。
「今日は......ありがと」
後ろを振り返った後、瑞樹は友利に笑顔でそう言った。
その笑みは友利にとって眩しくて、けど可愛らしくて、いつもの笑顔なのにどこか特別に思えた。
「それだけ改めて言いたかっただけだから。じゃあばいばい」
瑞樹は友利の帰り道とは別の道を歩いて去っていった。
友利の胸はいつの間にかいつもよりも熱くなっていて、鼓動の様子もおかしくなっていた。
クラスのボーイッシュな美少女に嘘告しろと命令された結果、案の定振られたが翌日からなぜか弁当を一緒に食べる仲になった テル @tubakirou
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