第二十五話 プレゼント選び

『瑞樹もうすぐ誕生日でしょ? 誕生日プレゼントとかあげるの?』


 夜、友利が本を読んでいると天音からメールが来た。

 メールの内容を確認すれば瑞樹の誕生日プレゼントについてだった。


 (え、瑞樹、もうすぐ誕生日なの?)


 そういえば瑞樹の誕生日は聞いたことがなかった。


『もうすぐって、早坂の誕生日いつなの?』

『あれ、知らない? 七月三日、来週の水曜日だよ』

『結構すぐじゃん。誕生日プレゼントとか用意してない』


 友達である以上、誕生日プレゼントくらいは用意したい。

 明日は日曜日でちょうど空いているので買ってくることにしよう。


 しかし瑞樹はどういうものが欲しいのだろうか。


『じゃあ明日私と一緒に買いに行く?』

『いいの?』

『うん、私も買いに行きたかったし。皆原くんってどこらへん住んでる?』

『学校の近くかな、徒歩で通ってる』

『なら学校近くの駅に十時集合で』

『了解』

  

 アウトドア系陽キャ女子はやはり取り決めがだいぶ早い。


 たしかに天音がいれば瑞樹の好みも聞けるので、どういうものを買えばいいか参考になる。

 しかし了承した後に懸念が思い浮かんだ。

 

 以前、瑞樹含めた三人で水族館に行った際、天音と二人でという誤解を生んだ写真を撮られてしまったのだ。

 実際は瑞樹もいたということである程度誤解は解けたが、今回は以前とは違い、二人きり。

 

 とはいえ瑞樹の誕生日プレゼントはいいものを選びたい。

 

 そうして日曜日、友利と天音は二人で電車に乗ってデパートに来ていた。


「早坂ってどういう系好きなの?」

「うーん、去年は無難にマグカップとかあげたけど......」

「去年?」

「あー、私さ、瑞樹とは中学からの仲なんだよね」

「なるほど、だから仲良いんだ」


 瑞樹と天音は始めからよく話していたイメージがある。

 初対面なのにコミュ力高いな、などと思っていたが中学からの仲とは。


「......何がいいと思う?」

「それ、僕に聞く?」

「だよね......瑞樹の誕生日プレゼント毎回悩むんだよね」


 二人でそんな会話をしながら歩いていると、可愛い小物が売っている店に通りかかった。


 (瑞樹って、こういうの好きなのかな)


「如月さん、ちょっと見て行ってみる?」

「だね、何かいいの売ってるかも」


 瑞樹はこういうものは好きなのだろうか。

 可愛い系の小物を持っているというのは見たことがないので、イメージは湧きづらい。


 プレゼント選びで一番避けたいのは瑞樹の苦手な物を選んでしまうこと。

 なので無難な物を渡しても良いがそれだと気持ちも伝えきれない。

 瑞樹には日頃の感謝もあるのでそういった面でも良い物を選びたい。


「このウサギのキーホルダー可愛い〜。どうしよう〜、私これ買おっかな〜」


 店では動物のキーホルダーやコップなど様々な物が売っていた。

 動物だけでなく名前は知らないが可愛い系のキャラクターのシールやペンなどもある。


「ねえねえ、可愛くない〜、これ」

「いいね、可愛い」


 天音はウサギのキーホルダーを見せてくる。

 たしかに可愛いが友利はそういった物が特段好きという訳でもない。

 

 瑞樹もキーホルダーをカバンなどにつけていない。

 なのでプレゼントとしては不十分だろうか。


「早坂ってキーホルダーとか付けるの?」

「ううん、だからプレゼントとしてはやめといた方がいいかも」

「わかった」

 

 瑞樹に聞いてみるのも手かもしれないが、どうせならサプライズで渡したい。

 天音もそういう考えなのだろう。


「......何これ」


 しばらく見ていると、友利はふにゃふにゃのペンが置かれたコーナーを見つけた。

 

 手に取ってみるとやはりしなやかなペンである。

 先端を持って揺らせばふにゃふにゃと動く。


「あ、そういうの良いかも」

「このペン?」

「うん、瑞樹、そういう少し変わったの好きだし」

「じゃあ買おっかな」


 誕生日プレゼントの一つが決まった。

 先端に小さいおばけがくっついているふにゃふにゃペンだ。


 とはいえ誕生日プレゼントとは言い難い。

 もう一つくらいは買ったほうがいいだろう。


「如月さんは何か決まった?」

「私、さっき隣の店行ってきたんだけど、そこでいい保湿クリームあったからそれにした」


 天音はカバンを開いて、中に入った瑞樹への誕生日プレゼントを見せる。

 どうやら包装もしているらしく準備バッチリだ。


「なるほど......僕はあともう一個くらい買っときたいな。ペンだけだと物足りないし」

「たしかに、あ、買う前に一回見せてね」

「わかった」


 割と実用的でかつ瑞樹の好みに合わせたプレゼントを選びたい。

 それを踏まえてどんな物がいいだろうか。


 友利が考えていると動物の模様が縫われたハンカチが目に入った。


「ハンカチか、いいかも」


 友利はハンカチを手に取って少し見ることにした。

 

 ハンカチには猫の模様が描かれているが角に一つ書かれているだけでハンカチ全体はピンク一色。

 派手すぎず、シンプルで、ハンカチなので使うことができる。


 他の動物の模様やハンカチの色もあり、バリエーションが豊富だった。


 悩んだ末に一番最初に手に取ったハンカチにすることにした。


「如月さん、これどう?」

「あ、いいんじゃない? ハンカチだから使えるし」

「じゃあこの二つ買ってくる」


 友利はそうして瑞樹への誕生日プレゼントを買い終えた。

 

 プレゼント袋にも入れてもらったので準備も万端だ。

 あとは渡すだけである。


 瑞樹には感謝しているので、喜んでもらえれば嬉しい。


「ありがとうね、如月さん」

「全然いいよ、私も買いに行くついでだったから」

「それと如月さんが教えてくれなかったら多分、早坂の誕生日知らないままだった」

「なら言っといてよかった」


 二人でそんな会話をしながらデパート内を歩いていく。

 そしてお互いに他に買う物もなかったので帰ろうとした時だった。


「あれ、天音と......皆原、だよね」

「み、瑞樹じゃん〜。やっほ〜」


 瑞樹が前から歩いてきていた。

 途中でお互いに気づき、手を振って近づく。


 予期せぬ偶然である。

 

 友利はバッグのチャックを開けっぱなしにしていたので、中を隠すようにバッグを抱えた。

 誕生日プレゼントの件はバレないようにしたい。


「......二人で何してたの?」

「えっと......」

「普通に買い物〜、買いたいものあったから友利に手伝ってもらってたの」

「そ、そっか」

「瑞樹は? ここで何してたの〜?」

「バッシュ替えたいなって思って、ちょっと見てる」


 友利は内心バレないかとヒヤヒヤしていた。

 流石にデパートに二人でいるだけで察せられないとは思うがバレたくはない。


「......じゃ、じゃあ、邪魔したら悪いし、もう行くね」


 瑞樹は少し早く歩いて二人を抜かして去っていった。


 特に察した様子はない。

 買い終わった後だったのでまだ良かったがだいぶ焦った。


 そういえば瑞樹の顔がいつもより元気がなさそうだったが大丈夫だろうか。


「皆原くん? ボーっとしてどうしたの?」

「あ、いや、まさか早坂と会うなんてと思って」

「だね〜、私も予想してなかった」


 二人は話しながら、誕生日プレゼントを持って帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る