第二十四話 乙女心
「天音のことが大好きです、俺と付き合ってください!」
昼休み、偶然に天音が告白されているところを見かけてしまう。
決して覗き見ようと来たわけではない。
たまたま遭遇してしまったのだ。
まず、そもそもこんなところで告白している方が悪い。
美術教室の横の空きスペース、たしかに人通りは少ない
しかし、今日の美術教室に教科書を忘れて取りに来た友利のように通る人はいるのだ。
友利はバレないようにささっと美術教室に入った。
そして友利の座っていた机の上に置いてある教科書を手に取る。
「ごめんなさい、あなたとはお付き合いできません」
告白慣れしてるなあ。
友利は開いたドアから聞こえてくる声を聞いてそんなことを思う。
告白されても声色からして動じていないし、断る言葉も浩也が告白したときと同じなのではないだろうか。
やはりその容姿からよく告白されてきたのだろう。
「なん......で......まさか、好きな人がいるとか?」
「うん、そう、だからごめんね。あなたとは付き合えない」
「......そっか」
否定するのかと思いきや、天音は好きな人がいると言った。
天音に好きな人がいたとは何とも意外である。
とはいえ思春期故に好きな人ができてもおかしくはない。
(......って、これじゃあ覗き見とやってること変わんないじゃん)
友利はそう反省してすぐに教室を出た。
しかし教室を出るタイミングが悪かったらしい。
告白した子は空きスペースから出ていて、目が合ってしまう。
目が合って気づいたが告白した男子生徒はクラスメイトで浩也の友人だった。
名前は
浩也の周りにいたため、友利によく絡んできた人物だ。
今は絡んできていないが、こう目が合ってしまうと気まずい。
もう一度下がって教室に戻ろうとも思ったが、そのまま廊下を自然に進むことにする。
一方通行の少し長い廊下、友利は距離を離そうと早歩きをした。
しかし三谷は友利より速く歩いて、友利の肩にわざとらしくぶつかった。
そのまま友利を追い抜かしてポケットに手を入れながら廊下を歩いていった。
「......盗み聞いてたのバレたのかな」
ぶつかられたが友利は特に何も言わずにいつもの速度に戻して教室に戻った。
***
今日の昼休みはいつもと違うらしい。
友利が教室に戻ると瑞樹が机の上に伏せて明らかに意気消沈していた。
「どうしたの? 珍しくめっちゃ疲れてるじゃん」
「疲れてるっていうか......皆原、ちょっと話聞いてよ......」
瑞樹が顔を上げると目は少し赤らんでいて半分泣きそうになっていた。
かなり精神的に参っているらしい。
「いいよ、僕でよければ相談乗る」
「ありがと。どっから話そうかな......あのさ、私って男っぽいじゃん?」
「たしかに性格とか、よく男子とつるんでるし、ボーイッシュって言えばそうかも」
「でさ、男友達の恋愛相談乗ってて......」
瑞樹曰く、男友達の恋愛相談に乗っていて「私も恋愛したいなー」と呟いたところ「女子と?」といじられ、それだけならまだ良かったのだが反論したところ「瑞樹って女装した男みたいなんだよな」と言われて萎えてしまったらしい。
「いつもなら平気だけど、今日はなんかめっちゃ傷ついた」
「......かなり参ってるね」
「だって酷くない!? 女装した男って......私女子だっつうの!」
瑞樹は少し語気を強める。
溜まりに溜まった日頃のダメージが限界値に達してしまったのだろう。
「それはたしかに酷いかも、デリカシーないっていうか」
「でしょ!? もう恋愛相談乗ってやらない......今度あいつが相談乗ってきたらぶっ飛ばしてやろうかな」
「は、早坂さん? 口悪くなってますよ......そういうところが男っぽいって言われるんじゃない?」
「うっ......そ、その通りかも」
瑞樹は大きくため息をついて机にもたれかかった。
そして「今日の私、なんかダメだ」と言ってそのまま消沈してしまった。
「......皆原的には私のことどう思ってる?」
「どう、って?」
「やっぱり男っぽいって思う?」
友利は一瞬、どう答えようかと迷う。
たしかに男っぽくないと断言するのもそれはそれで嘘になる。
しかし女装した男とまでは到底思わない。
瑞樹だって可愛いところはあると思うし、心も割と乙女だ。
「んー、男っぽいとは思うけどそこまで思わない」
「......嘘なしで言って欲しい」
「ううん、本当の話。僕的には早坂、だいぶ可愛いよ?」
「か、可愛い......よ、良く言ってくるけどそれ本気で言ってる?」
「もちろん、それに可愛いって言っただけで赤面するほど乙女だし男っぽくないよ」
「なっ......皆原、そういうのずるい。いじるのやめて」
瑞樹は顔を赤くしながら恥じらっている。
やはりこういうところが可愛いと思う。
ただ、いじり過ぎも良くないのでもうやめておこう。
後でやり返されそうな気がする。
そんなことを考えていると「皆原」と瑞樹が呼んだ。
「何?」
「皆原も......かっこいいよ」
瑞樹は顔を赤ながらニコッと笑った。
友利の中で一瞬時が止まった。
そして動き出したとき、胸の鼓動が段々と早くなっていった。
体の熱も上がっていっている気がする。
「あはは、皆原が照れたー」
今の不意打ちは......良くない
「ん? 何か言った?」
「い、いや何も......ていうか照れてないから」
「本当にー? 顔赤いくせに」
友利はそんな会話をしながらも、会話の内容がしばらく頭に入ってきていなかった。
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