第二十三話 刺激の強いイタズラ

「あ、やべっ、教科書ない......」


 二時間目の座学、授業が始まるチャイムが鳴り、机の中から教科書を取り出そうとする。

 しかし机の中に目的の教科書も授業ノートはなかった。

 

 昨日持ち帰ったっけ、と思いながらカバンの中も確認する。

 ただ、同じくカバンの中にも教科書とノートが入っていなかった。


 そうこうしていると先生が教室に入ってくる。


「はい、それじゃあ始めます。起立、礼、着席.....じゃあ教科書百ページ開いて」


 昨日は今日の授業の予習をしようと持ち帰っていたのでおそらく家だろう。

 カバンに入れた記憶はあるが持ってきていなかったらしい。


 予習のために持って帰ったが忘れてしまっては予習の意味がない。

 なので流石に教科書なしで授業を受ける訳にはいかない。


 瑞樹には申し訳ないが教科書を見せてもらおう


「ねえねえ、早坂、教科書忘れたから見せてくれない?」

「いいよ、じゃあ机くっつけよっか」

「ありがとう」


 友利が小声でお願いすると瑞樹は快く受け入れてくれた。

 そうして二人は机をくっつける。

 

 瑞樹は机をくっつけた後、真ん中に教科書を開いて置いた。


「どうした? 席くっつけて、教科書忘れたのか?」

「すみません、忘れました」

「別に良いが......女子と机をくっつけるための口実じゃないだろうな?」


 先生がジョークを言うと、クラスには少し笑いが巻き起こった。

 

 浩也が授業中でも散々いじってきたので先生にもいじられキャラで認知されている。

 しかしそれほど心地が悪い訳でもない。

 

「あはは、違いますよ、本当に忘れたんです」

「そうか、授業にだけは集中してくれよ」


 先生はそう言った後、また板書を書き始めた。

 

 正直、板書を写すためのノートはどうにでもなる。

 他の教科のノートを一旦使って後でそれを写せばいい。


「にしても皆原が教科書忘れるなんて珍しいね」

「ごめんね、普通に家に忘れた」

「全然いいよ、ただ皆原もそんなミスするんだなあって」

「僕、早坂が思うほどきっちりしてないからね?」

「授業ほぼ寝てる私にとっては真面目......あ、じゃあ貸したお礼に私が寝そうになっても起こさないでね」

「......それは起こします」


 瑞樹は授業の後半の方は睡魔に抗えずに寝ている。

 大抵、残り十分ともなると面白い授業でない限り机に伏して動いていない。


 なので友利が起こしている訳だ。

 起こさないとおそらく瑞樹の成績がまずいことになる。

 前回の中間で赤点回避ギリギリだったらしいので期末となると大変だろう。


 しばらくの間、友利は授業に集中していた。

 板書を書き写し、テストに出てきそうな部分を丸で囲んだりする。

 

 そうしていると瑞樹に左肩をトントンと叩かれた。

 友利は何か質問だろうかと純粋な気持ちで瑞樹の方を向く。

 

 しかし友利の左頬に何かが当たった。

 よく見れば瑞樹の右人差し指が友利の頬に刺さっている。


 瑞樹の表情を見てみればニヤニヤとしていた。


「あはは、引っかかった」

「......」


 そして瑞樹は友利の左頬をそのまま摘んで、引っ張って離した。

 

 どうやら友利は瑞樹にいたずらを仕掛けられたらしい。

 せっかく集中していたが見事に邪魔されている。


 友利は仕返してやろうと瑞樹の横腹を数回ペンの押し出し部分で突っついた。


「ぷっ......ふふ、ちょ、それ禁止」


 流石に聞こえる声で笑われては困るので友利は突くのをやめた。

 しかし見事に引っかかってしまって悔しい。

 

 何とかして瑞樹にいたずらを仕返ししたいところだ。

 とはいえ今は授業に集中しなければならない。


 瑞樹がこのいたずらを忘れたタイミングで逆にこちらから仕掛けてやろう。


 友利は再び前を向いて板書を写すのを再開し始めた。

 

 再開し始めて数分経った頃だろうか。

 また友利は左肩をトントンと叩かれた。

 

 流石に二回目なので何をしてくるかわかる。

 友利は無視してそのまま板書を写す。


 しかし友利が無視するとまた瑞樹は肩を叩いた。

 今度こそ何かの質問だろうかと友利は瑞樹の方を向いた。

 そして頬に瑞樹の人差し指が当たることはなかった。


「どうしたの?」

「皆原って恋愛興味なさそうだけど彼女欲しいんだなーって」

「......急に何?」


 瑞樹は友利と目を合わさずじっと友利の左肩を見ている。

 何かついているのかと思い、見てみれば『彼女募集中』と書かれた付箋が貼ってあった。


 またしても友利は瑞樹にやられてしまったらしい。


「いや、いないけど募集もしてないから」


 友利は瑞樹の右肩に付箋を貼った。

「私も別に募集してないんで」と言って瑞樹はその付箋を丸めた。


「こんなことやってないで授業集中しよ」

「えー、だって授業面白くないじゃん」

「気持ちはわかるけど、勉強しなきゃ」

「皆原、真面目すぎ」


 友利はまた再度勉強を始めた。

 しかしその勉強を邪魔してくるのが瑞樹である。


 友利が前を向いてすぐに瑞樹は自分の足を友利の足に当ててきた。

 そして上靴を蹴ったり、足を絡めたりしてくる。

 机の右端の方に足を寄せても軽く蹴ってくる。


「あのー、早坂さん......?」

「知ってる、当ててる」

「......困るんですが」

「そりゃあ勉強の邪魔をしようと困らせてるからね」


 友利は女子から足を当てられて何ともいえない感情を抱く。

 瑞樹なのでいいのだが少々刺激がある。


 タイツではなく、靴下も短い。

 なのでたまに瑞樹の生足が当たる、そこが問題なのだ。

 肌が直に当たっていることに羞恥がないのか、思春期男子にとってはよろしくない。


「普通に困るんでやめてください......あ、あと、足当たってる」

「だって当ててるもん」

「足っていうか、肌当たってるっていうか......良くない気がするんだけど」


 友利がそう言うと瑞樹はすぐに足を引っ込めた。

 そして友利から顔を逸らして、右手で頬杖をついた。


「......み、皆原ってそういうの気にするんだね」

「気にするっていうか......思春期だし......」

「ご、ごめん」


 友利は言ってしまったことでより瑞樹のことを意識してしまう。

 なので友利は何も言えず、瑞樹から目を逸らして前を向いた。

 

 授業が終わるまでの間、瑞樹はそれ以上いたずらを仕掛けてこなかった。

 しかしその間ずっと、友利は胸のドキドキが止まらなかった。

 

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