第二十二話 クラスで一番可愛い女子の人気

「皆原、あっち向いてホイしない?」


 休み時間、隣の席の瑞樹が友利の方を向いてそう提案してくる。


 二人と水族館で遊んでから数日、あの遊びでだいぶ二人との仲は深まった気がする。

 特に瑞樹との距離はかなり近くなった。

 気軽に友達ということができる、そんな関係になっていた。


『最初はグー、じゃんけんぽん』

「あっち向いてホイ......って皆原弱くない? まだ一回しかやってないよ」

「うっ......いや、三本先取で行こ。ちょっと油断しただけだから」

「じゃあ今、私一本ね」


 他愛もない会話をしたり、何でもないゲームで遊んだりと瑞樹といることが増えた。

 正直、瑞樹と一緒にいると楽しい。

 

「うっ、負けた......」

「一本も取れてないじゃん。皆原弱くない?」

「今のウォーミングアップだから、もう一回もう一回」

「えー、皆原弱いしなあ」


 瑞樹のおかげで友利の学校生活に色がつき始めていた。

 

 しかし昼休みのことだった。

 突然ガタイの良い男子生徒四人に囲まれて、友利は教室で一人尋問されていた。


 (何で......何で僕はこんな勘違いをされているのだろう)


「これ、どういうことか説明してくれるか?」

 

 同じクラスの男子生徒はスマホの写真を友利に見せる。

 

 その写真には天音、友利の二人だけが映っていた。

 ちょうど水族館から一緒に帰っている時の写真である。

 しかし写真を撮った時、死角で隠れていたのか何故か瑞樹は映っていない。


「それは......その......」


 友利は言う言葉が見つからずに口篭ってしまう。

 そして自分よりガタイの良い男子生徒に囲まれているので圧がある。


 浩也で慣れてしまったおかげで怖くはないが刺激するような言葉は選びたくない。


「この様子だと......お前、天音とプライベートで遊んだのか?」

「そう、だね。先週末に一緒に水族館行った」

「ちっ、何でこんな奴が......」

「け、けど、全然そんなのじゃなくて......」

「うるさい、黙れ」


 瑞樹も一緒に三人で遊びに行った。

 

 友利がそう言おうとしたところで理不尽にも友利の机を殴られて黙らされる。


「全然釣り合ってないの自覚してるか? 何でお前みたいな奴が天音と二人で遊べるんだよ」

「釣り合ってないとは思うけど、ただの友人......だし、それに二人じゃなくて......」

「友人って......嫌味か? 思い上がるなよ」


 友利はどうにもできず心の中で深くため息をつく。

 

 どうやらこの人たちはデートだと勘違いしているらしい。

 まずその誤解を解きたいのだがタイミング悪く、なかなか言うことができない。


「たしかに近くの席になって仲良く話してるなとは思ってたけど......お前、もう天音に近づくな。明らかに釣り合ってないだろうし、天音も正直嫌がってるだろ」


 一人の男子生徒は髪を乱雑にかきながらそう言った。


 感情的になっているのはわかるが、いきなりもう近づくなと言われても困る。

 大体、瑞樹経由で仲良くなったので瑞樹と仲が良い以上天音とも話すことになる。


 第一、瑞樹と一緒にいるところを見て嫉妬するくらいだ。

 水族館はたしかに行ったものの天音も『瑞樹の友人』程度の認識だと思う。

 

 なので友人とも言い切れない訳で、この人たちの誤解をどうやって解こうか。


「あのさ、ちょっといいかな」


 友利がどうしようかと困っている時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 そして友利の視界に映ったのは瑞樹だった。

 どうやら男性生徒の後ろにいたらしく、ナイスタイミングと友利は安堵する。


「さっきから聞いてたんだけど、酷くない? 誰が誰と遊ぼうと人の勝手じゃん」

「それは......そうだけど」


 天音の友人、ということもあってか男子生徒も強く言えないらしい。

 不満そうな顔をしながらも言葉が出ていない。


「いちいちそれに人が物言うのは違うでしょ......あと、釣り合わないとか皆原に失礼すぎ。いっぱい良いところあるんだからね、一緒にいて面白いし」

 

 男子生徒たちはそれ以降何も反論しなかった。

 そして一人の男子生徒が不服そうに「すまん」と友利に言うと、残りの三人も去っていった。


「大丈夫? 皆原。何か災難......だったね」

「ありがとう、助かった」

「ていうか二人で遊びに行ったんだ......私抜きで」


 瑞樹は少し悲しそうな顔をしながら「あはは」と軽く笑った。

 どうやら瑞樹も勘違いをしているらしい。


 (......って最初から最後まであの人たちの誤解解けてなくない?)


「どこ行ったの?」

「あー、えっと、あの人たちは二人で遊びに行ったって言ってたけど、あれ誤解」

「え?」

「僕と如月さんが二人で歩いている写真を見せられて、どういうことだって問い詰められたんだけど......それ先週末の三人で行った水族館だったし、普通に誤解されてる」

「じゃあ、天音と二人で遊びに行ったとかは......」

「ないない、まだそんな仲じゃないし」

「あ、そういうこと」


 瑞樹はまたいつもの笑顔で笑った。

 勘違いが解けて良かったが、あの人たちの勘違いが解けていない。


「それで誤解解けなくて早坂に説明してもらおうと思ったけど......早坂も誤解してたから。たしかに、最初から聞いてなかったらそうなるよね」

「うん、てっきり二人で遊びに行ったのかと......いや、それで詰めるのはどうかとも思うけどね」


 瑞樹は「天音は人気だから仕方ないかー」と言って教室を出て行った。


 その後、天音と二人でデートに行ったという噂が広まったが、天音と瑞樹のおかげですぐに誤解は解けた。

 しかし男子の視線は前よりも鋭いものになっていた。

 

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