第十九話 アウトドア派の陽キャ女子
「......尾行なんてしていいの? 聞けばいい話だと思うんだけど」
放課後、友利は電柱に隠れながら、一体自分たちは何をやっているのだろうと思い始める。
そんなことを考えている間に、瑞樹たちと距離が離れたので次の隠れられそうな場所へ移動する。
事の発端は十数分前、瑞樹が男性の人と帰り始めた時だ。
天音が突然、友利の腕を掴んで二人を追いかけ始めたことから現在に至るまで尾行している。
直接聞けばいいのに天音曰く「どうしても気になるから」らしい。
「嘘つかれても困るから写真撮って後で問いただすの。だから聞くは聞くけど尾行もするし、写真も撮る」
「それ盗撮じゃない?」
「いいのいいの。尾行に盗撮はつきものでしょ?」
天音は平然とした顔でそう言う。
普段、こんなキャラかと言われるとそうではないだろう。
友利からの印象もっとキラキラとしていてずっと笑顔でいて、明るい人のイメージなのだ。
けれど実際はどうだろうか。
平然と尾行している上に口調もいつもと違う。
そういえば毎回思うがなぜこうも教室でいる時の態度と天音と友利で二人の時の態度が違うのだろうか。
二人の時は声のトーンも少し低い上に言葉遣いも荒い。
ただ、たしかに人と接する態度は常に同じではない。
仲の良い友達が複数人いたとして、その数人との接し方は自然と変わる。
友利の場合は天音からの最初の印象が悪かったのでこうなったのだろうか。
「......如月さんってそんなキャラだっけ?」
「だって気になるじゃん。友達が男の人と歩いているんだよ? 瑞樹、彼氏居ないって聞いてたんだけどなあ」
「彼氏......ね」
「何? どうしたの? 嫉妬?」
「......そんなんじゃない」
瑞樹の横を歩く人物が彼氏だとしたら、それは割と最近の話だろう。
嘘告だったとはいえ瑞樹は友利の告白をキッパリと断らなかったからだ。
友利はふと告白した時の瑞樹の表情が思い浮かんだ。
普段の瑞樹は女子だけでなく男子ともよくつるんでいて男子ノリもわかっている。
全体的にボーイッシュな印象があるのだ。
けれど彼氏にはあのような表情をよく見せているのだろうか。
「瑞樹も女子なんだなーって」
「......なんかキモイよ? 嫉妬で狂っちゃった?」
「そ、そんなに言う必要......いや、たしかに引くかも。今の発言撤回で」
たしかに今の発言は自分でも普通に引く。
それにまるで瑞樹が女子ではないような言い方だ。
無論、そういう意味でなくて友達として見ていたからそういう一面もあるのかなという意味である。
友利は後から湧いてきた羞恥を消しながら、瑞樹の尾行を続ける。
とりあえずあの男性を瑞樹の彼氏だと考えるのはやめよう。
そうして歩いていると突然、「あっ」とだけ言って天音が立ち止まった。
「流石に違う......? いや、でもたしかに似てる気が......」
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
そんなやり取りをしていると少し尾行が甘くなってしまったらしい。
ふと瑞樹が後ろを向いたタイミングで、堂々と二人は道の真ん中に立っていた。
それに距離もそこそこ近い。
二人に気づいた瑞樹は手を振ってくる。
気づかれたからには仕方ないと思った天音は瑞樹の元に走っていった。
友利もそれについて行くことにした。
「瑞樹〜!」
「天音じゃん......皆原もやっほ」
「どうも」
瑞樹の隣にいる人物もこちらを見ていたので、友利は二人にペコリとお辞儀した。
近くで見ると瑞樹の隣の男性はやはりすごく大人びている。
高校生の雰囲気はないが、この人は誰なのだろうか。
「二人は瑞樹のお友達?」
「そうです、瑞樹の親友です〜」
天音はいつものテンションで男性にも話す。
男性はニコニコとした笑みを浮かべていて余裕が感じられた。
「瑞樹がいつもお世話になっています。瑞樹の兄です」
「あ、やっぱり瑞樹のお兄ちゃんだったんだ〜。初めまして、如月 天音です」
「ちょっとお兄ちゃん、そんな堅いこと言わなくていいから.......何か恥ずかしい」
「そんなこと言ったって挨拶は大事だよ」
瑞樹はそう言って少し頬を赤らめる。
どうやら彼氏でも何でもなく隣の男性は瑞樹の兄だったらしい。
たしかに近くで見て比べると顔はよく似ている。
「さっきね、皆原くんが彼氏だと思って嫉妬してたよ〜?」
「してない、してない。彼氏だとは思ったけど」
「君も瑞樹の友達?」
「はい、皆原 友利です」
「そっか、ありがとうね。仲良くしてくれて」
瑞樹の兄は雰囲気が穏やかでその人柄の良さが伺える。
性格の方は瑞樹と大きく違うらしい。
「ていうか皆原はよく知らないけど天音って帰り道こっちじゃなかったよね?」
「え、えっと......買い物行こっかなって思って〜」
「二人で?」
「皆原は何か暇そうだったからついてきてもらったっていうか......」
「ふーん......私除いて二人で」
瑞樹はジト目で天音を見ずになぜかこちらだけを見てくる。
目を合わせることができずに友利は目を逸らした。
別に瑞樹を除け者にした訳ではないが、尾行していたとは到底言えない。
「瑞樹も来る?」
「ううん、今日は家の用事あるからごめん......でも次の大会まで時間あるから時間はあるし、遊びたいな」
瑞樹はそう言ってため息をもらす。
アウトドア派の彼女にとって友達と遊びに出かけることは趣味。
正直、ずっと誘うに誘えなかった。
しかし瑞樹が遊びたいと口にした今、誘うとしたらチャンスは今だろう。
そう思って友利は誘おうとした。
ただ、瑞樹が言葉を発する方が早かった。
「今度、この三人で遊ばない?」
「え、えーっと、三人〜?」
「皆原と天音、仲良いのわかるけど私も入れてよ。私だって二人と遊びたいんだから」
友利と天音は目を見合わせた。
二人と遊びたいと言われた以上、天音も何とも言えない顔をしている。
別に友利としては三人で遊んでもいい。
というよりデートに誘うよりそっちの方がいい。
「う、うん、いいよ〜、遊ぼ遊ぼ〜。あと、別に瑞樹を除け者にしてる訳じゃないんだからね」
「わかってるわかってる。皆原も一緒に遊ぼ」
「いいよ、遊びたい」
「やった、じゃあまた細かいことは後で。そろそろ帰らないと」
瑞樹はそう言って別れの言葉を告げて去っていった。
友利と天音も手を振って見送った。
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