第十八話 デートの誘い
「あ、おはよう......って、え、どうしたの? その傷、大丈夫?」
朝、いつも通りに登校して教室に入ると自分の席に向かう。
そしてすでに先にいた瑞樹に「おはよう」と声をかけた時、驚かれてしまった。
瑞樹が驚いているのは昨日の浩也との喧嘩で受けた顔の傷だろう。
まだ少し痛むがあまり気にするほどのことではない。
「平気平気、ちょっと転んだだけ」
「転んだだけでその怪我?」
「う、うん、転んだっていうか自転車に乗ってたら電柱にぶつかっちゃって」
「皆原ってドジだろうなとは思ってたけどそんなにドジなんだ」
友利はそう言われて苦笑いで返す。
本当のことなど言えるわけないのでドジということにしておこう。
やがて浩也も教室に入ってきて、その顔の傷に驚かれていた。
瑞樹もその様子を見て、友利と浩也を交互に見た。
「因縁ってやつ?」
「まあ......うん」
「喧嘩とかするんだねー、皆原も」
とはいえ瑞樹はそれ以上は何も言わず、クラスの女子に話しかけに行っていた。
喧嘩した次の日の学校は意外にも普通の日常だった。
休み時間は瑞樹や天音と少し話してから、悠里の席に行く。
変わったといえば本も読んだりと浩也には干渉されないことで時間ができたことだ。
頻度が少なくなっていた訳だがそれが完全に無くなったと言えるだろう。
休み時間、浩也の席を見てみればずっと一人で座っているのだ。
浩也の周りにいた人も浩也を抜きに話をしていて、ずっと一人で過ごしていた。
思うことがあって離れたのか、今日のおかしな浩也にそもそも近づけないのかはわからない。
しかしもう友利には関係のないことなので気にする必要はない。
これ以上浩也も干渉してこないだろう。
そうして五時間目の授業が終了した。
「皆原くん、ちょっといい〜?」
授業が終わって休み時間、すぐに天音が後ろを向いて話しかけてくる。
天音と仲の良い瑞樹も当然こちらを見る。
しかし天音は手招きをして友利を近づかせた。
そして皆原に耳打ちをし始める。
声が近い上に小声なので耳がくすぐったい。
「前さ、デート誘ったらって言ったでしょ? 誘わないの?」
天音はそう言うと友利から離れる。
てっきり半分冗談で言ったのかと思ったが本気だったらしい。
瑞樹の方を見てみれば頬を膨らませてこちらを見ていた。
「......何? 私に聞かれたくないことでもあるの? ......ていうか二人って最近仲良いよね」
「聞かれたくないことっていうか......」
友利が戸惑っていると天音に不満そうな顔をしながら睨まれる。
もちろん行きたいけれど自ら誘う勇気がない訳だ。
しかし今度はこちらから誘うと決めたのだ。
「あのさ、どこかで......」
そう言いかけたところで「瑞樹ー!」という声が聞こえ、瑞樹はクラスの女子に話しかけられる。
瑞樹は「ごめん、また後で教えて」と言い、クラスの女子と共に教室を出た。
誘うのに躊躇しすぎたせいである。
「ヘタレ」
「......自覚はしてる」
天音も席を立ち、教室を出た。
***
「で、どうするの? 今、瑞樹一人だし誘えるんじゃない?」
その日の放課後、帰ろうとしたところ校門の前で一人立っている瑞樹を見かける。
誘うチャンスだなと思っていると後ろから天音が声をかけてきた。
「だね、今ならいけるかも」
「ちなみにさ、提案している私がいうのもあれだけど無理して誘おうとはしなくていいんだよ? 私、前にあんなこと言ったけどよくよく考えたら皆原くんのこと考慮できてなかったなって......」
「大丈夫、僕がただ単に早坂と遊びたいだけだから......いや、ごめん、やっぱり二人はきついかも」
友利は段々と誘う自信が無くなっていく。
『遊びに誘う』だとまだ良いが『デートに誘う』と言うと重みが断然違ってくる。
デートと遊びは違う、その事実に友利は今気づいてしまう。
「如月さん、一緒に来ない?」
「え、私? 瑞樹と皆原が仲良さげに話しているところ見て嫉妬したくないから嫌だよ」
「理由がよくわからないけど......やっぱり二人で遊ばないとダメだよね」
デートとなるとさらに誘うのに緊張してしまう。
前に行ったがあのデートはほぼエスコートしてもらっていたから楽だった。
しかし自分から誘うとなるとそれなりに自分で相手を楽しませなければならない。
今まで遊んでこなかった故のそんな怖さもあるのだ。
「......よし、じゃあ行ってくる」
友利はそう言って数段程度の階段を降りて校門の元へ向かう。
ただ、背の高めの男性が瑞樹の横に立っていた。
そして瑞樹と仲良さげに話している。
彼氏?
あまりに仲良さげに話しているものだからそう思ってしまう。
とはいえその男性は若く見えるが制服を着ておらず、おしゃれをしている。
他校の生徒なのだろうか。
そして瑞樹はその男性と一緒に帰っていった。
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