第十四話 席替え
「中間テストも終わったし、そろそろ席替えしましょうか。くじで決めましょう」
LHRの時間、担任はそう言って席替えを提案する。
担任が提案した途端、クラスは騒音に包まれた。
そろそろ席替えが来ると思っていたので覚悟はしている、しかし緊張もしている。
席替えとは時に人の運命を左右する。
ハズレを引いてしまえば今度のチャンスはおそらく二学期の中間後か一学期の期末後になる。
担任の席替えタイミングはわからないが可能性としては前者の方が高いだろう。
浩也と席が離れていればもうそれでいい。
欲を言えば瑞樹や悠里と近くの席がいいが欲張ってしまえばハズレを引く確率が高くなる予感がする。
浩也とは友利が初めて反抗して以降、全くと言っていいほど話さなくなっていた。
最初はいじってきたりしたが無視、校舎裏にまた連れていかれそうになっても無視を貫いた。
結果的に浩也も諦めて平穏な生活を手に入れることができたわけだ。
なぜ今までそうしてこなかったのだろう。
おそらく自分が弱くて、浩也を見ることから、浩也自体から逃げていたからだ。
けれど見てみれば意外に幼稚で浩也も友利も全く成長していなかった。
そう思うと成長できたのだ。
しかし浩也が近くになれば接点が増える分、また絡まれる。
無視もプライドの高い浩也のことなので段々と効かなくなっていくだろう。
そんなことを考えているとくじの順番が回ってきた。
友利は担任の元へ行ってくじを引く。
そのくじの先端には「十一」と書かれていた。
「何番ですか?」
「十一です」
「皆原さん、十一......はい、わかりました」
具体的な席は分からない。
とにかくこればっかりは神頼みしかない。
心の中で祈りながら席が決まるのを待った。
***
結果的にいうと大当たり席だった。
浩也の席からは遠く離れて悠里もそう遠くない位置にいる。
しかしある意味ハズレ席でもあった。
「やった、皆原と席隣になれた」と友利の左隣に座っている瑞樹。
「瑞樹の隣とかずるい〜! 皆原くん、席変わってよ」と友利の前に座っている天音。
「あいつ、後で絶対しばく」とでも言いたげな視線を放っている男子たち。
クラスの中心である二人に挟まれてしまった訳なのだ。
ある程度の仲はあるので二人に話しかけられることもあるだろう。
すると男子、特に天音のことが好きな人たちの嫉妬を大きく買ってしまうのだ。
それから次の日から三人で話す機会が格段に増えた。
朝、登校してホームルームが始まるまでは二人の会話に挟まれているので必然と友利も会話に参加。
休み時間も「喉乾いたから自販機行こ」と瑞樹に誘われて三人で行動。
もちろん男子からの羨望と嫉妬のまなざしは鋭い。
しかしそんな中で昼休みが一番ヘイトを買っていた。
***
「瑞樹、今日一緒に食べよ〜」
昼休み、授業が終わると天音はすぐに瑞樹の元へ行ってそう言う。
どうやら二人で一緒に食べるらしいので今日は悠里と食べよう。
そう思って席を後にしようとしたが瑞樹にそれを止められた。
「そうだね、一緒に食べよっか」
「どうする〜? 食堂行く〜?」
「大丈夫、今日は私、三人分の弁当作ってきたから」
瑞樹はそう言ってカバンから三人分の弁当を取り出した。
三人分の弁当、それは友利の分も含まれているということ。
「皆原も一緒に食べよ。昼練とかあって最近は一緒に食べれてなかったし」
「え、いいの? ありがとう......三人分って結構大変じゃなかった?」
「席替え記念ってことで作ったんだよね」
瑞樹の弁当は美味しいので助かる。
しかしその日の食費が浮く訳だが瑞樹側は損をする訳だ。
金銭面で考えたことがなかったが労力だけじゃなくそういう面でも申し訳ない。
(今度何かご馳走してあげたりプレゼントとかした方が......いいかな)
机をくっつけてして三人で食べることになった。
そうなるとどうなるか、男子の視線が痛い、痛すぎる。
——あいつずるくね
——それな、二人の間に入るのどうかと思うわ。しかもあいつが
——ただ運が良いだけの分際で
男子たちの声がこんな時だけ鮮明に聞こえてくる。
「皆原、どうしたの?」
「あー、いや、なんでもない」
外野の声は気にしないでおこう。
ただ友達と食べているだけなのだ。
「ゆうりんも一緒にどう〜? 一人で食べるなんて寂しいと思うよ!」
しばらく三人で話しながら食べている時だった。
天音が悠里の方を見てそう言った。
ゆうりん、という呼称に友利は引っかかる。
「俺は別にいい......というかやめてくれ、もうその名前で呼ぶな」
友利も悠里の方を見ていると目があう。
悠里は友利と目が合うと目を瞑って、かけていた眼鏡の位置を人差し指で戻した。
そして食堂で買った弁当を持って近くに来た。
空いている席を借りて友利とも席をくっつける。
「少しお邪魔させてもらおう......あと、如月、その名前で俺を呼ぶな」
「いいじゃん、別に」
「何、二人って付き合ってるの?」
やけに親しい距離の二人に疑問に思ったのか瑞樹はそう問いかける。
天音と悠里、それほど絡みはなかったはずだ。
「付き合ってない、小学生の時の友達だ」
「そう〜、高校でたまたま再会したんだよね〜!」
天音は明るい口調でニコニコしながらそう言う。
小学生の頃の友人とは初めての情報だ。
それに瑞樹は興味を示した。
「ふーん......天音って小学校の頃、どんな子だったの?」
「そんなに変わらないぞ。いや、昔はさらにアホっぽい子だったな」
「え、ひどくない!?」
「あはは、なんか想像つく」
「悠里はもうちょっと明るかったよね。ゆうりんってみんなから呼ばれてたし」
「やめてくれ、黒歴史を晒すんじゃない」
「何か意外かも。真面目なイメージしかないけど......今度ゆうりんって呼んでいい?」
「友利まで......」
そんな話をしながら四人で笑い合ってご飯を食べた。
あんまり普段関わることのないメンバー、けれど話の波長は不思議と合っていた。
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