第十三話 友達だから

「......」

「......」


 ナンパされているところを助けたあと、友利と天音は無言でアリーナの会場に向かっていた。

 

 しかし気まずいの一言しかいえない。

 勉強会の時もそうだったが二人きりとなると自分から話せない。

 天音も友利とそもそも話す気がないのか無言で歩いている。

 となると尚更、友利も話しかける勇気がなくなっていくわけなのだ。

 

 そうしてしばらく歩いていると天音から喋り始めた。


「......皆原くんも瑞樹の応援に来たの?」

「うん、そう。大会あるから観戦に来るかって誘われて」

「へー、瑞樹に......じゃあ勉強会も誘われたの?」

「え、うん、そうだけど......」

「瑞樹とそんなに仲良いんだ」


 天音は「ふーん」と表情を変えずに言う。

 

 コンビニの件もあって天音の真意が見えない。

 とりあえず天音が友利を快く思っていないことはわかる。

 友利と二人きりの時は口調も声色も異なるのだ。

 

 やはり瑞樹に近づけさせたくないのだろう。


「いや、でも近頃はこれ以上距離が縮まらないようにしてるから」


 友利はそう言って天音に「近づくな」と言われたことを少しは守っているアピールをしておく。

 

 せっかく浩也に反抗して浩也の絡みをなくせたのになぜ今度はクラスのアイドル的存在に狙われるのだろう。

 友利は静かに学校生活が送りたい。


 それに浩也の束縛から放ってくれたきっかけの恩人である瑞樹にもこれ以上迷惑をかけたくない。


 瑞樹はたしかに友達だと思っている人だ。

 一緒にいて楽しいし、外で遊ぶ楽しみも教えてくれた。

 

 けれども結局は瑞樹の優しさに甘えているだけなのではないだろうか?

 であればこの距離より少し遠いくらいを維持して、過ごした方が瑞樹の負担にもならない。


 そう考えながら歩いて、ちょうど客席に登る階段に差し掛かった時だった。

 天音の「え、なんでよ」とストレートな疑問を投げかける。

 なぜそこで疑問に思うのだろうか。


「......気づいたんだよ、如月さんに言われて。たしかに嘘告が原因で友達になったけど、それがまず意味わからないし、結局友達になったのも早坂の優しさなのかなって」


 友利は登っている階段の一段一段を見ながら吐き捨てるように言う。

 しかし天音はそれに反論した。

 

「それは違うでしょ。今の瑞樹は皆原くんのことを心から友達として認識してる」

「心からの友達って......」

「だって瑞樹から誘われた以上、皆原くんに応援してほしいって思ってるわけじゃん。誘われた人、私と皆原くん以外いないからそれだけ瑞樹の中で皆原くんは好感度高いんだよ」

「僕が......?」

「コンビニの時は、ごめん、言いすぎた。浩也とずっと一緒にいるし同じタイプだってずっと思ってたから。けど奥手なんだね。チャラいとは正反対の性格してる。嘘告は許してないけど瑞樹が許してるならもう何も言わない」


 瑞樹と一番仲の良い人物が友利に対して好感度があると言ったのだ。

 今までの不安が自然と消え去っていき、体が軽くなる。


 人付き合いってやっぱり難しい。

 

 瑞樹の内情はやっぱりわからない。

 でもたしかに友人としていることを瑞樹は許してくれたのだ。

 どうしてそれをまた疑ってしまったのだろうか。

 

 であれば友人として試合を応援して、試合が終わったら労ってあげよう。


「あそこの席とかとか見やすそうじゃない?」

「たしかに」


 席を探していると天音にそう言われて友利は天音についていく。

 すると試合がよく見れてかつ会場からも見えそうな席だったのでそこに座ることにした。


 友利は天音と一個席を空けて隣に座る。

 天音はその間の席に荷物を置いたので友利も右隣の席に荷物を置いた。

 

 客席に人はちらほらいるが埋まっているわけではない。

 多少スペースをとっても問題はない。


 そうしてコートの方を見るとすでに両チームともコートに入っていた。

 どうやらギリギリで間に合ったらしい。


 コートでは瑞樹のチームである赤のユニフォームを着たチームと白のユニフォームが中心側に集まっている。

 審判がボールを上げたことによって試合は始まった。


 ボールは相手チームに渡ってしまう。

 そしてそれを止めようと動いている赤チーム。


 しかし守りも虚しく、白チームに先制点を許した。


「あちゃー」


 バスケのノウハウをあまり知らない友利は思わずそう声を出していた。

 それを聞いていた天音が「まだまだこれから」とコートの方を見ながら言う。


 今度は赤チームからスタートのようでコート外でボールを持った人が味方にパスを渡す。

 そしてパスをしたり、ドリブルをしたりと、どんどんと相手のゴール側に近づく。

 

 やがて瑞樹へとパスが回った。

 瑞樹がいる位置はスリーポイントラインの外側で、瑞樹につくディフェンスは一人。


 前に出ようとする仕草をしたので抜かすのかと思いきや、瑞樹は後ろに下がり、ジャンプした。

 そして体育館で見かけた綺麗なフォームでシュートを放った。

 バスケットボールがゴールの縁に当たる鈍い音は聞こえず、そのままゴールに入った。


 瑞樹は仲間と軽くハイタッチをしてすぐに下がった。


「早坂、点決めたね」

「本当だね......やっぱり瑞樹はかっこいいな」


 天音はそう言った後すぐに「あのさ」と友利に喋りかける。

 それに反応して天音の方を見るが天音は相変わらずコートの方を見ていた。


「......この試合、終わったらデートにでも誘ってあげたら?」

「で、デート!? 僕から?」

「そう、嫌なら私が誘う。でもさ、瑞樹頑張ってたし、それぐらいのご褒美があってもいいと思うんだ」

「僕とのデートがご褒美? 流石に言い過ぎっていうか、何で?」

「ご褒美っていうか......瑞樹が前にね、最近、友利と絡みたいのに全然絡めてないって嘆いてたんだよ。また友利と遊びに行きたいって」


 天音はそう言うが、自分から上手く誘えるのだろうか。

 友達とはいえ自分から遊びに誘うなど今までしてこなかった。

 

「瑞樹とのデート嫌なの?」

「そうじゃなくて、行きたいけど上手く誘えるかなって思って。本当に今まで早坂みたいな人とオフで遊ぶなんてなかったからさ。ずっと家にいたし」

「......意外にヘタレなんだね」


 友利はさらっと天音にいじられる。

 否定したくとも悔しいことに事実なので友利は何も言い返さなかった。


 ***


「瑞樹、お疲れ〜!」


 試合終わり、天音と共に客席を立って階段を降りるとアリーナ内の自販機の前に瑞樹が一人で立っていた。

 天音が先に瑞樹に声をかける。


「見に来てくれたんだ、ありがとう」

「休日はいつも暇だし、親友の試合は応援行きたかったからね〜」

「あはは、流石、天音......って、皆原も来てくれたんだ」


 友利は一歩後ろにいたわけだが瑞樹の視界に映ったので前に出る。

 試合は惜しくも負けてしまっていたが瑞樹はニコニコと笑顔だった。


「試合お疲れ様、シュート結構入ってたね」

「言ったでしょ、私結構得意だからって」

「スポーツとか興味なかったけど......バスケって面白いんだね」

「でしょ、でしょ? 男子バスケ部入ったら?」

「いや、遠慮しとくよ」


 瑞樹も冗談で言っただけなので友利も笑って返した。

 そんな話をしていると左にいる天音に右肘で突かれる。

 

 天音の方を見れば目配せをしていた。

 デートに誘えという圧力なのだろうか。

 しかし流石に場が違いすぎだ。


 友利は天音のサインを無視して瑞樹と話を続けた。

 天音も諦めたのかその会話に入って、結局何もしてこなかった。

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