第十二話 ナンパとクラス一の美少女
「皆原、今週の土曜日とか用事入ってる?」
昼休み、いつものようにご飯を食べていると瑞樹がそう聞いてくる。
今週の土曜日、特に予定は入っていない。
遊びの誘いだろうが、自分で良いのだろうか。
友利はそう思い、ネガティブな思考になってしまう。
人付き合いは難しいものだ。
今まで浩也を除いて陽気な人とあまり絡んだことがなかったし、ましてや外で一緒に遊ぶなど考えられなかった。
だからこそ瑞樹とこれ以上距離を詰めるのが怖い。
距離が縮まったらきっと今以上に仲良くなれる。
しかし友人が少ない友利は距離の取り方を間違ってしまうかもしれない。
そうなってしまえば瑞樹との関係はなくなる。
今でこそ瑞樹の優しさに救われてそれに甘えているだけだというのに。
「一応、空いてるけど」
「じゃあさ、バスケの試合見に来てくれない?」
「バスケの試合?」
瑞樹の誘いは遊びではなくバスケの大会の見学だった。
そういえばバスケの大会が近々あると言っていて、練習しているのも見かけた。
「応援してくれたら私やる気出るタイプなんだけどなー」
「......わかった、行くよ」
「ありがと! 私、スタメンで出るから楽しみにしてて」
瑞樹はそう言って指でVの形を作る。
一年生でスタメンとは相当バスケが上手なのだろう。
「スタメンなんだ。流石、バスケを小学生の時からやってたことはあるね」
「まあね......ちなみに私、シュート上手いから。任せといて」
「前も放課後、残ってシュート練習してたもんね」
「え、なんで知ってるの?」
「あー、えっと......たまたま見えた」
「覗き見たの間違いでしょ」
「人聞きの悪い」
「自分の努力を他人に見られるのは恥ずかしいんだから」
瑞樹はジト目で友利を見る。
そして「覗きはダメです」と言って友利はおでこにデコピンを喰らった。
***
「うわあ、意外にでかいな」
友利はアリーナの前で感嘆の声を漏らす。
気づけば土曜日、バスケの大会の当日になっていた。
アリーナにある大きな時計は九時十五分を針で表していた。
瑞樹の試合自体は九時半かららしく、初戦から対決するそうだ。
友利は外にあったアリーナの地図を見て、観客席に移動することにする。
道中、自販機が目に入った友利は飲み物だけ買っておこうと思い、中に入る前の自販機の方に向かった。
少し遠い場所にあって、行くか迷ったが中になかったら面倒だ。
そうして歩いていると聞き覚えのある声が右側から聞こえてきた。
「あの、やめてください。友達の応援に来てて......」
「じゃあ連絡先、連絡先だけでも教えてよ」
「私、高校生です。これ以上、来れられると警察呼びますよ」
「だから何? 教えてくれるだけでいいからさ」
声のする方を見てみれば天音と思われる人物が男三人に絡まれていた。
周りに人はあまりおらず、気づいているのは友利だけだ。
クラスメイトだし、助けた方がいい。
しかしどうやって助ければいいのだろう。
体型からしてもそれほど強く見えないので行ったところでキレられて終わり。
そんな思いはしたくないし、行くのが怖い。
友利が悩んでいると男の一人が天音の腕を掴んだ。
流石にまずいと思った友利は何かあった時のために録音機能だけつけておいて天音の元へ向かった。
「よお、
「え、あ、皆原くん?」
友利は申し訳なさを感じながら天音に肩組みをしに行った。
そして「合わせて」と耳打ちをして笑顔を男たちに振り撒く。
男は天音の腕から手を離して距離を少し取る。
「賢治......?」
「この人たちは? あ、もしかしてナンパしに来ました?」
「いや、ナンパっていうか......お前こそ何なんだよ」
男の一人に圧をかけられて、他二人からも睨まれている。
怖すぎて今にも逃げ出したいがそれでも友利は笑顔を維持する。
なるべく浩也みたいな雰囲気で、なるべくチャラく、舐められてはいけない。
浩也にずっと絡まれていたので浩也の言動や態度くらいは真似できる。
「男友達っす。ナンパしてもいいっすけどこいつ男っすよ」
『はあ?』
男は口を合わせてそう言う。
驚くのも無理はない、だって目の前の人は女子にしか見えない。
事実、女子なので当たり前だがそこをいかに男子っぽく見せるかが肝だ。
「いやいや、冗談でしょ。だってその、胸とか」
「あー、これ専用の道具。そういうの売ってるんすよ。な? 賢治」
「え、えっと......」
「七千、八千円くらい? ちょっと高かったっすけど......あ、どうせなら一緒に写真撮ります?」
友利はヘラヘラと笑いながら話を続ける。
すると、友利の作戦が成功したのか男たちは引いた様子で苦笑いしていた。
「い、いや、大丈夫です。も、もう帰ろうぜ」
「......おう」
「そ、そうだな」
男三人はそうして去っていった。
友利は安堵から大きく息を吐いた。
かなり怖かったが何とか三人が去ってくれてよかった。
「そ、そろそろ離れてくれない......?」
「ああ、ごめん!」
友利は天音に言われてすぐに離れる。
そして頭を下げて謝った。
「勝手に触って本当ごめん」
「いいよ、頭上げて。助けてくれたんだし」
「でもごめん、ちょっと勝手だった」
「......正直驚いたけど助けてくれたのは事実だから私の方がお礼を言わなくちゃいけない。ありがとう、皆原くん」
天音はそう言って微笑んだ。
咎められると思ったがお礼を言われた友利は無意識のうちに表情が緩んでいた。
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