第十一話 住む世界の違う人
「やらかした、本当にやらかした。過去の自分に言いたい」
放課後の教室、友利は机にもたれかかってため息をつく。
日はもう落ちかけていてカラスが外で夕刻を知らせている。
もたれかかった拍子に横を見れば悠里が一生懸命にペンを走らせていた。
教室には友利と悠里の二人だけ、他の席は空だ。
こうして放課後に残って勉強しているのには訳がある。
中間テストが終わり、テストも返却されてすぐのことだった。
友利と悠里は英語のエッセイの課題を出していないと先生に呼び出されてしまったのだ。
赤点を取った訳ではなくテストの点数自体は良かった。
しかし課題をやっていないせいで居残りである。
「うわあ、本当に面倒。八百文字を今週中は流石にきつい」
「......友利、すまん。俺が月末に提出だと思って期日を間違えて伝えたばっかりに巻き込んでしまった」
「全然いいよ、自分で見なかった僕も悪い」
「とはいえ今度何か奢る」
「本当? じゃあ頑張りますか」
友利は悠里の言葉を聞いて背筋を伸ばす。
そしてエッセイの続きを書き始めた。
今日が木曜日なので期日は明日までだ。
少しまずいが六百文字以上はかけているのでギリギリ間に合いそうである。
(最終下校時刻まであと三十分、できるとこまでやらないと)
「よし、エッセイ書けた」
「え、ちょっと見せて」
頑張ろうと思った矢先、悠里が席から立ち上がってできたと報告してくる。
悠里のエッセイを軽く読んでみれば綺麗な字で書かれていて、内容もわかりやすいものだった。
「流石、悠里、仕事早いね」
「友利の進捗はどうだ?」
「僕はまだ二百文字ぐらい残ってる。ちょっと終わりそうにないかも」
「そうか、じゃあ俺は待っとく」
悠里はそう言って席にもう一度座り、勉強道具を取り出し始めた。
どうやら友利が終わるまで待っていてくれるらしい。
先に帰らずに待つ選択をするとは何とも優しい。
良い友人を持てて良かったと思う。
しかし友利としては帰り道も同じ訳ではないし、先に帰ってもらっても構わない。
「別に待たなくてもいいよ」
「いや、そういう訳にもいかん。俺が悪いのに先に終わらせて友利より先に帰るのは失礼だ」
「気にしないでいいのに。ていうか今日塾あるんじゃないの?」
「......そうだけどギリギリ間に合う」
悠里はそうは言ったが悩むそぶりを見せる。
そして悩んだ末に机の上の勉強道具を片付け始めた。
「悪い、やっぱり先に帰る......今日は一教科だけだがテストがあるから流石に復習しないとまずい」
「全然いいよ、勉学優先して」
「本当申し訳ない。埋め合わせはまたする」
「わかった、じゃあね」
「ん、また明日」
悠里はそう言って教室を後にした。
残ったのは友利一人だけだ。
そしてエッセイを進めること約二十分、最終下校の五分前放送が鳴った。
エッセイを終わらせることはできなかったが明日までには余裕で間に合うくらいにまで進められた。
「よし、帰るか」
暗くなった校舎を友利は一人で歩いていく。
ただ、最終下校五分前でも校舎に一人という訳ではなく文化系の部活の人とたまにすれ違う。
そして笑顔で何やら話をしていたので友利は少し羨ましいと思ってしまう。
熱中できるものがあるのは素晴らしい。
もし人と何かするのが好きな性格だったら学校生活を楽しめていたのだろうか。
今は瑞樹のおかげで前ほど人と話すことが嫌いじゃない。
しかし部活だったり、グループの輪に入ろうとは思えない。
「練習、まだやってる」
そうして自分の性格とぼっち具合に自己嫌悪しながらも校舎を出ると友利の目に体育館が映った。
体育館からは校門が閉まるまであと少しだというのに明かりが漏れている。
さらにバスケットボールが体育館の床に当たって跳ねる音も耳に入ってくる。
気になった友利は体育館に寄った。
そして少し隙間の開いたドアから中を覗き見る。
「九十九......よし、ラスト一本」
中では瑞樹が汗だくになりながらもスリーポイントラインからボールを綺麗なフォームでゴールに投げていた。
瑞樹が放ったラスト一本はボールが弧を描いてシュートを決めた。
「ストイックだな」と思わず友利はつぶやいてしまう。
そんな瑞樹の姿はかっこ良くて、やはり自分とは大きく違う人なのだと認識させられる。
友達になりたい、だなんておこがましすぎただろうか。
天音の言うことも正論である。
反省して浩也とも距離を取ることにしたが嘘告して傷つけた人が友達になるなんて本当はおかしい。
瑞樹の優しさに結局救われているだけなのではないのだろうか。
「瑞樹! いつまでやってるんだ。急いで帰れよー! 最終下校時刻もう過ぎてるぞー!」
「あ、はい、すぐに片付けて帰ります」
先生が本口から瑞樹に向かってそう言った。
友利も急いで学校を出て、帰路についた。
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