第十話 勉強会

『午後から私の家で勉強会しない?』


 日曜日の午前のことだった、瑞樹から突然に連絡が来た。

 

 コンビニでの天音の発言を忘れられずに気づけば中間テスト約一週間前になっていた。

 あれからというもの、瑞樹と関わることは少なくなってしまった。

 瑞樹から話しかけられることは少なくなったし、とにかく一緒にいる時間が少なくなった。


 バスケの大会があるらしく忙しいのは仕方がない。

 

 しかし休み時間でさえいつも天音と喋っていた。

 天音が近づけさせないようにしているのだろうか。

 とにかく輝いている二人組に自分からは話しかけられない。


 親友が男子から嘘告されて怒らないわけがない。

 当たり前のことだ。

 ただ、何をしようと思っても何もできない。

 

 なので瑞樹と話せないというのが悩みとなっていた。

 しかし気づけば中間テスト約一週間前、今は勉強に本腰を入れなければならない。


 そう言い聞かせてちょうど勉強机に向かっていた時、瑞樹からの連絡だ。

 もちろん友利は承諾した。

 そして午後、友利は瑞樹の家に向かった。


 ***


「冷静に考えたら女子の家って初めて......だな」


 友利は瑞樹に送られた家の前でインターホンを押さずに息を整えていた。


 女子の家に訪問するのが何気に初めてかもしれないということに今気づいたからだ。

 友達とはいえそれとこれとは別。

 ただ、緊張しながらも楽しみはあったので友利はインターホンを押した。


「やっほ、皆原。暑い中来てくれてありがと。どうぞ上がって」


 インターホンを押すと明るい表情をした瑞樹が中から出てくる。

 そして緊張しながらも友利は瑞樹の家に上がらせてもらった。


「私たち、わかんないところいっぱいあったから、皆原だったら教えてもらいそうだなって」

「ん? 私たち? 他に誰かいるの?」


 二階の瑞樹の部屋へ向かっている途中、瑞樹がそんなことを言った。

 てっきり自分だけだと思っていたが瑞樹の「私たち」という表現に引っかかる。


「あー、そういえば言ってなかった。うん、いるよ」


 瑞樹はそう言って自分の部屋の扉を開けた。

 中ではなんと天音が座ってペンを走らせていた。


 (いや......気まず)


「お、お邪魔します」

「え、あ、どうも」


 友利はもはや女子の部屋に対する緊張より、気まずさの方が圧倒的に勝っていた。

 なお、何も知らない瑞樹はニコニコと明るい。


 クラスで人気の二人組と一緒に勉強会、周りに知られたら羨ましがられるだろう。

 ただ、友利にとってはそれほど嬉しくない状況である。


「なに? 客人って皆原くん?」

「そうそう、そこそこ頭良さそうじゃない?」

「......そう? いつもふざけてるイメージしかないんだけど」


 天音も友利が来ることを知らなかったようで、気まずそうな顔をしている。

 しかし切り替えて「でもとりあえず助っ人来てくれて良かった〜」と雰囲気を一転させた。

 

 友利は一つ開いた座布団に座らせてもらい、勉強道具を机に上に広げる。

 正直、別に賢いわけではない。

 そこそこの点数は取れているとは思うが悠里に比べれば劣る。


 しばらくペンを動かしていると瑞樹が項垂れて机の上にもたれかかった。


「うう......もう分からない。皆原、教えて」

「どこの問題?」

「ここ」

「え......ここ?」


 友利は瑞樹の指差した問題の箇所を見て何から教えようかと固まってしまう。

 基本中の基本の箇所で教えようにも教えられない箇所だったからだ。


「もしかして授業寝てた?」

「もちろん、寝てた」

「あのね、ここは例えば......」


 友利は例を用いてさらにわかりやすく瑞樹に説明する。

 すると曇っていた瑞樹の顔が段々と明るくなっていき、最終的に理解できたようだった。


「オッケー?」

「ああ、解決できた。流石、皆原」

「授業中に寝てなければ普通に分かってたでしょ」


 友利は瑞樹に褒められて苦笑いをする。

 

 何というか、思ってた以上にバカっぽい。

 だからこそ瑞樹といるとはっちゃけられて楽しいのだろうか。


「あー、勉強面倒くさい」

「瑞樹、赤点取ったら夏の大会出られないでしょー? 一緒に頑張ろ!」

「そっか、そうじゃん。一個でも赤点取ったらスタメン選ばれる以前に大会行けなくなるんじゃん」


 瑞樹はそう言って顔に焦りの表情を浮かべる。

 どうやら勉強を頑張らないとバスケの大会に出られないらしい。


 そうして瑞樹はようやくやる気を出して頑張り始めた。

 ただ、そんなやる気も僅か三十分で失われたらしい。


「ふああああ」というあくびと共に瑞樹は背を伸ばした。

 そしてまた机にもたれかかった。


「私、もう無理、休憩......」

「瑞樹早すぎじゃない〜。まだ少ししか経ってないよ!」

「何か俺も疲れた」

「み、皆原くんまで......」


 友利もペンを置いてゆっくりと息を吐く。

 普段ならもう少ししているが天音もいることによる緊張からか集中力がなくなっていた。


「ちょっとお手洗い行くついでに二人の分のお菓子も持ってくる」

「ありがとうございます......」

「本当? 流石瑞樹、気が利く〜」


 瑞樹は立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。

 

 正直、部屋を出て行ってほしくはなかった。

 瑞樹が出て行ったので部屋に天音と二人きり。


 話す話題もないのでお互いに無言である。

 何か話そうと思っても空気的に話しかけられないので友利は諦めることにした。


 そして友利はワークブックの答えに目を通し始める。

 もちろん内容は頭に入ってこない。


「......ねえ、皆原くん」

「は、はい」


 沈黙を破ったのは天音だった。

 友利は名前を呼ばれて反射的に背筋を伸ばした。


「あのさ......ここの問題教えてくれない?」


 天音はそう言って先ほどやっていたプリントを友利に見せる。

 

 何か言われると身構えたがただ単に問題を教えてほしいだけらしい。

 友利は自身のペンを持ち、天音に教える。

 すると理解できたようでもう一度問題を解き始めた。


「本当だ、できた。ありがとう」

「どういたしまして」


 天音は解けたことに満足したようで少し表情を緩めた。


 今まで関わったことがなかったが改めて近くで見てみると天音は顔が整いすぎている。

 どこを見ても可愛いとしか言えない。

 パッチリとした瞳に長いまつ毛、サラサラとした長髪、それに加えて明るい性格。

 男女問わず人気が出るわけである。


「何?」

「ごめん、何でもない」


 友利が天音の容姿に感心していると天音に気づかれて睨まれてしまった。

 すぐに視線を戻して再びワークブックの答えを見始めた。


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