第十五話 幼馴染と失恋と因縁と

「友利、女子と何話してんだよ」


 休み時間、友利が天音や瑞樹と軽く話していると浩也が絡んでくる。

 

 久々の浩也の絡み、鬱陶しいの一言である。

 天音が近くにいるので天音の近くの友利にまず話しかけようという魂胆が見えている。

 友利が分かるくらいにも浩也はチラチラと天音の方を見ている。


「ただのスポーツの話」

「スポーツの話? お前スポーツできない癖によく話せるな」


 ケラケラと小馬鹿にしてくる浩也、早く自分の席に帰ってほしい。

 ただ、場の空気を悪くさせるわけにもいかないので友利は愛想笑いをした。


「えっと......伊地知くん、どうしたの?」

「ん、どんな話してるのかなーってさ。友利と話したかったからちょっと混ざらせてもらおうと思って」

「なるほどね〜......」


 瑞樹の方を見てみれば頬杖をついてこちらを見ていた。

 目があったかと思うとジト目で何か言いたげに頬を膨らませている。


 以前に嫌いと断言していたので言わんとしていることはだいたいわかる。


「そういえばスポーツの話で行くと、瑞樹ってバスケ部入ってたよな」

「え? あー、うん、そうそう」


 急に話を振られた瑞樹は視線を外して浩也の方を見た。

 友利も浩也の方を見ておく。


「一年でスタメン選ばれたんだろ?」

「一応......ね。昔からやってたし」

「スポーツできる人ってかっこいいよな」

「そ、そう? ありがとう」

「俺も陸上部なんだけどさ。同級生の中では一番に速いんだけどやっぱり三年のキャプテンには敵わなくて......そういう先輩の走り姿見てるとかっこいいって思うんだよな」

「へ、へー......た、たしかに」


 そして浩也は瑞樹に絡んだ後、再び友利をいじり始めた。

 もちろん友利は愛想笑いで返すしかない。


「それに比べてお前はスポーツできねえし、特技ねえし、コミュ力あんまりないし......なんか場違いじゃね」

「場違い?」

「だってあんまり目立たねえし。でも本当、運良いよな、お前。この二人の席の近くとか」

「......あはは、そうかもね」

「天音たちもあんまりこいつのこと構わなくていいぞ? 話す話題ないだろ?」

 

 浩也は笑いながらいじってくる。

 もう慣れているので悲しまないし、イラつきもしない。

 このまま適当にあしらおうと思っていた。


 しかし浩也の態度がイラついたのか天音はそれに物申した。


「えっと、人のことあんまり馬鹿にするのって良くないんじゃないかな?」

「馬鹿に......い、いや、別にいつもの馴れ合いで」

「私は皆原くんと話すのが楽しいから話してる。それなのにそんなこと言うのひどいよ......」

「だ、だって、俺は......」


 浩也はバツが悪くなったのかしばらく黙り込んだ。

 そして黙り込んだ後「ごめん」とだけ言って自分の席に戻った。


 ***


「あいつも本当懲りないなあ」


 放課後の校舎裏、茂みに隠れていると瑞樹がそんなことを呟く。

 友利と瑞樹の視線の先には天音と向かい合った浩也がいた。


 友利は瑞樹に「面白いものが見られるかも」と誘われて放課後に校舎裏に来ていた。

 すると現れたのは浩也と天音の二人。

 雰囲気的に何となく察することはできた。


「実は天音に告白するのこれで二回目」

「え、もうしてたの?」

「そう、ちょっと前にね。けどその時は私もいて普通に話してる時にお互い恋人いないんだし付き合ってみないみたいな軽いノリで告白してた。そういうノリが天音嫌いだからさ、キッパリ断られてたんだけど......」

「じゃあ今回は呼び出してるし、真面目に告白するってことか」

「天音も断ると思うけどね......放課後に用事があるって天音に言われた時はだいたい告白だから来てみたけど、浩也かあ」


 瑞樹はそう言ってため息をつく。

 

 瑞樹の話を聞く限りこの告白は嘘告でもないらしくかなり本気のようだ。

 天音のことが好きらしいので自分の気持ちを伝えたかったのだろう。

 

 今までの友利に対する行いから応援はできないがそれでも失敗しろと願う訳でもない。

 浩也にはただ過去のことを忘れてほしい。


 あの件は誰が悪いという訳でもない。

 しかし浩也に絡まれるトリガーとはなってしまった。


「天音のことが好きだ。俺の彼女になってくれ」


 風も一切吹かない校舎裏、浩也は天音に向かってそう言った。

 そして手を天音に差し出した。

 何故かこちらまで緊張してくる。


 天音は一拍置いた後、浩也の手を両手で包んだ。

 そしてゆっくりと押し出して、手を下げるように促した。


「......ごめんなさい。あなたとはお付き合いできません」


 天音はキッパリとそう言った。

 一言も浩也は喋ることはなかった。

 ただただ呆然としている。


「好きな人......いたのか? 友利か? なあ、友利か? 絡んでるもんな、最近。あんなやつのどこがいいんだよ!」


 浩也が喋り出したかと思えば友利に対する罵倒だった。

 

 プライドと嫉妬が絡んだ友利に対する執念がおそらくあるのだろう。

 

 なら友利もこれ以上、過去から逃げない。

 そうしてあることを覚悟に決めた。


「ねえ、前から思ってたんだけど皆原と浩也って喧嘩してるの? それともあいつが絡んできてるだけ?」

「喧嘩というか因縁というか」

「幼馴染なんだっけ?」

「そうだね、小学校の途中までは仲良かった」


 瑞樹はそれ以上深入りすることはなく「ふーん」とだけ言った。

 それが友利にはありがたかった。


「......何でだよ、何で」

「別に好きな人はいないよ。皆原くんはクラスメイトで瑞樹の大切な友達。だから私も仲良くしてる」

「じゃあ......」

「ごめん、そういう態度が私は苦手なの。だからあなたとは付き合えないです......クラスメイトとしてはこれからもよろしくね。じゃあね、また明日」


 天音はそう言って踵を返してこちらに向かって歩いてくる。

 友利と瑞樹はバレないように、さらにしゃがんだ。

 しかし天音にはバレバレだった。


「瑞樹、バレてるよ」

「あはは、バレちゃってたか」

「......って皆原くんもいたんだ」


 瑞樹がバレたことで友利も起き上がったのだがどうやら友利だけはバレていなかったらしい。

 自分で墓穴を掘ってしまった。


「二人して覗きって......いや、どうせ瑞樹が皆原くん連れてきたんでしょ〜?」

「ごめんごめん。一緒に帰りたかったから」

「そういう言い訳はいいです〜!」

「じゃあ一緒に帰ろ、皆原も一緒に」


 瑞樹は先に茂みから出て友利に手を差し出す。

 

 友利は手を取ろうとしたが浩也の方を見る。

 すると呆然としていてその場に突っ立っていた。


「僕はいいよ、先帰ってて」

「そっか、わかった。先帰ってるね、ばいばい」

「うん、ばいばい」


 友利は帰っていく二人に手を振る。

 そして手を振った後、茂みから抜け出して、浩也の元へ向かった。


「浩也、話いい?」


 友利は背後から話しかける。

 しかし浩也は後ろを向くことはなく、返事もしない。


「......見てたのかよ」

「それは......ごめん、勝手に見て」

「ちっ......くそっ、くそっ、くそっ!」


 浩也は舌打ちをした後、急に地面を足の裏でドンドンと叩き始めた。

 失恋のショックが大きいのだろう。

 わかっている、でも話すチャンスは今しかない。


「それで何だ? こんな俺を煽りにきたのか?」

「違う」

「はは、そうだよな。いつも馬鹿にしてるのに今は馬鹿にできる立場だもんな」

「馬鹿になんかしてない」

「本当はしてるだろ! 前も今も! なんでお前はいつもいつも俺の邪魔を......」


 浩也はそう言って後ろを向いた。

 その表情は怒りに満ちていた。

 顔に力を入れて、歯を食いしばり、友利を睨んでいる。


「いい加減にしろよ、浩也」


 友利も怒りが溜まっていた。

 勝手に恨まれて今までいいように好き勝手されて、うんざりしていた。

 

「だから昔もそうやって振られたんだよ」


 昔の話は浩也に喋ってはいけないこと。

 けれど友利は浩也にそう言い放った。


 どうしようもないくらい鬱陶しくて、でも幼稚園からの仲で、今でも少しだけ尊敬してて。

 

 憎んでも幼馴染だから少しは対等に話したかった。

 

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