第七話 もう友達じゃん

「やっほ、皆原」


 朝十時ごろ、駅の前にある休憩スペースで座って瑞樹を待っていた。

 そして服装は問題ないか、顔に何かついていないかと考えながらソワソワしていると瑞樹がやって来た。


 友利は立ち上がって瑞樹に挨拶し返した。


「どうも......って何か慣れない」

「お互い私服だし......どうこの服、私に似合ってる?」

「似合ってる」

「ならオッケー、皆原も似合ってるよ......じゃあ、行こっか」


 瑞樹はそう言って歩き出す。

 それに合わせて友利も瑞樹の横を歩く。


 初めて見る瑞樹の私服は友利にとって輝いて見えた。

 それに比べると友利の服装は少しラフ過ぎただろうか。

 何せ友達と遊びに行くこと自体が久しぶりなので服のコーディネートなど忘れてしまったのだ。

 とはいえ変ではないし、似合っていると言われたので自信を持っていいだろう。


「よし、今日は一日中遊ぶか。皆原はお金どれくらい持ってきた?」

「一万くらいは持ってきた」

「それぐらいあれば心配ないね。ちなみに私は四千円」

 

 そんな会話をしながら歩いていく。

 

 朝から緊張していた訳だが瑞樹と会話をしているとそれも自然と解消されていった。

 そして目的地であるショッピングモールに辿り着いた。


 メールで二人でどこに行くか決めた末に隣市にあるショッピングモールになったのだ。

 娯楽施設がそこそこあるので、ふらふらと回っていこうということになった。


「私さ、行きたいところあるんだけどいい?」


 ショッピングモールに着くとすぐに瑞樹がそう言う。

 特に行きたい場所も決まっていないので「いいよ」と友利は返した。


 そして瑞樹についていくと、着いた先はボウリング場だった。


「皆原ってボウリングやったことある?」

「やったことないけどルールとかやり方は知ってる」

「ならいっか」


 ボウリング、やりたいと思っていたが友達がいなくて諦めた。

 しかし今はこうしてやるチャンスができた。


 カウンターで手続きを済ませると靴をボーリング用の靴に履き替えて、店員に言われたレーンに荷物を置く。


「じゃあまず私から投げよっかな」


 瑞樹はそう言ってボールを選び出した。

 

 どうやら重さや、種類が違うらしい。

『曲がるボール』と書かれた棚に置かれたデザインの凝っているボールもある。

 てっきりカラー以外統一されているかと思っていたが違うらしい。


「よし、このボールでいっか。見てて」


 ボールを決めると瑞樹は位置について、投げる体勢に入った。

 そして腕を後ろにしてその勢いで前に飛ばすと真っ直ぐとボールは進んでいった。

 しかしだんだんと斜めにボールが進んでいき、ボールは左サイドの溝に落ちてしまった。


「あ、外れた」

「ぬああ、失敗した、一つくらい倒れてくれてもいいのに」


 瑞樹はそう言いながら二投目の準備に入った。

 どうやら二回交代らしい。

 ボールを変えた後、瑞樹は再び同じ体勢でボールを投げた。

 しかしまたも同じ軌道を辿って左サイドの溝に落ちてしまった。


「うん、完璧」

「一本も倒れてなかったけどね」

「......ボーリングってこういうもん」


 友利はひとまず瑞樹と同じボールでやってみようと思い、そのボールを取り出す。

 ボウリングの球は想像以上に重く、指三本で持つなど数秒が限界だった。

 とはいえなんとか転がせそうではある。


 友利は瑞樹の姿勢を真似して真ん中を狙って投げた。

 すると曲がることなく見事にボウリングのボールは転がっていた。

 そしてピンが全部倒れた。


「え、うそ、全部倒しちゃったんだけど......初めてでしょ?」

「初めてだけど早坂よりは上手いみたいだね」


 ストライクを取って気分が上がったからか、友利は瑞樹を笑いながら煽った。

 もしかしたらその道の才能があるのかもしれない。


 しかし最初にストライクを取ってしまったのでそんな思いがあった訳なのだがそう上手くは行かなかった。

 二投目以降は溝に落ちてばかりでピンに全く当たらなかった。

 

 一方、早坂はストライクを量産していたわけではないがほぼ毎回二回目で倒していた。


「やっぱり運動神経いいね」

「運動神経ってより結構遊びに来てるからね」

「かっこいいこと言っときながら一回目は見事にボール逸れてったけど」

「あ、あれは手加減だから!」


 そしてボウリングの時間は楽しく、あっという間に終わっていた。

 スコアはあまり良くなかったが中々楽しかった。


 それから昼食を取った後、ゲームセンターに行ったり、店にあった面白い商品を見たりして気づけば夕方。

 帰ろうという会話をしていたところ友利は本屋を発見する。

 

「あ、もう十七時か。遊び尽くしたし、そろそろ帰る?」

「そうだね......あっ、本屋寄ってっていい?」

「全然いいよ。私も一冊買ってこ」


 発見した本屋に入って友利は求めていた本のジャンルのコーナーに向かう。

 瑞樹も友利についてきていた。


「何買うの?」

「ネットで見かけた本なんだけど面白そうだったから」

「ふーん、恋愛系か」

「正確には恋愛の中でも泣ける系。早坂は何買うの?」

「皆原にちょっと影響されて本を買ってみようと思ったけど何買えばいいかわからないんだよね......おすすめのない?」

「どういう系のを読むの?」

「推理系とかは無理。それ以外ならちょっと読んでみる」


 友利は何か良い本があったかと少し考える。

 

 何せ読書好きなので出会った本が多く、絞るのが難しいのだ。

 

「じゃあさ、何冊か貸してあげよっか? 家にいっぱい本あるから」

「本当? ありがとう」


 そうして友利だけ本を買って店を後にした。

 後は帰るだけである。

 名残惜しいが楽しい時間も終わりだ。


「皆原はさ、今日楽しかった?」

「楽しかったよ。僕、中々外出ない性格してるから新鮮な体験多かった」

「よかったよかった。外遊びも中々楽しいっしょ?」

「だね......また行きたい」


 友利は意識していないうちにそんなことを呟いていた。

 そしてそれを聞いた瑞樹はニコッと笑っていた。


 しかし同時に仕返しのためだけに仲良くなった関係なのだろうかと少し怖くなってしまう。

 

 瑞樹と友達になりたい、そう心から思うようになった。


「突然だけど、早坂......その、仕返しのために友達になったのかもしれないけどさ......その、普通に......と、友達になってくれませんか?」


 友利は羞恥を覚えながらもそう言った。

 

 浩也たちに絡まれて、それを受け入れてしまった以上新しい友達を作る余裕なんてなかった。

 けれども本当は友達ともっと一緒に過ごしたいし、たくさん話したい。

 休み時間に少し話すだけでいい。

 

 正直、友達が欲しかった。


「いいよ、全然。ていうかもう友達じゃん」


 瑞樹はそう言ってニコッと笑った。

 その笑顔に友利は救われた。

 

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