第五話 幼馴染と因縁

「なあ、友利、放課後時間あるか?」


 放課後、片付けをして帰ろうとしたところを浩也に腕組みをされて阻止される。

 口調は穏やかだがその力が強く、友利は浩也が怒っていることに気づいた。


 浩也が今、怒っているのは付き合いが悪くなったからだろうか。


 昼休みに瑞樹と一緒にお弁当を食べるようになったり、休み時間に話したりといった日々が一週間続いた。

 なぜ絡んでくれるのかと聞いたが「仕返しだよ」とだけ言っていてあまり意図はわからない。

 

 しかしそのせいで現にこうして拘束されているので仕返しにはなっている。

 それを読んでいたとしたらかなり秀逸だ。

 

「ごめん、これから用事あって......」

「あー、なら一緒に帰るだけ一緒に帰るだけ」


 友利は一応抵抗するが浩也が先ほどよりも強く拘束して逃げ出せない状況を作る。

 

 側から見たら仲の良いやり取りに見えると思うので誰も目もくれない。

 こういうところに関して浩也は頭が回るので厄介だ。


 そして周りに浩也といつもいる人たちが集まってくる。

 友利はますます逃げ出すことができなくなった。


 そうして友利は校舎裏へと連れて行かれた。

 校舎裏には誰もおらず、いるのは友利と浩也たちだけだった。


「一緒に帰るんじゃなかったの......」

「黙れ、お前には聞きたいことがある」


 浩也はそう言って友利を壁に押しやった。

 そして浩也の周りの人が友利を囲うように友利の周りに集まる。


 やがて友利は浩也に首を掴まれた。

 いつもよりも浩也は怒っている様子だった。

 しかし不思議と恐怖の感情はなかった。


 (......いつもいつも幼稚だな)


 そう思える心の余裕さえあった。

 単なる慣れなのか諦めて受け入れてしまっているのか、それはわからない。


「何だよ、暴力で人を支配して愉悦でも感じてるのか?」

「そっちこそ人を騙して楽しいかよ」

「騙す? 何言って......」

「黙れ、昔からそういうお前の態度が気に入らないんだよ」


 浩也は力を強めて首を掴んだ手をさらに壁側に押し込む。

 首をキツく絞められたことで友利は顔をしかめる。


「何で振られたお前が瑞樹と仲良くしてるんだよ」

「っ......うぐっ」

「振られたんじゃないのかよ。実は成功してたけど嘘ついたとか洒落にならねえぞ! 俺の見立てでは......お前に喋ってもうぜえだけか」


 浩也はそう言って友利の首を掴んでいた手を離した。

 離された瞬間、喉に不快感を覚えて友利は咳き込む。


「ま、まず付き合ってない。友達からって言われたからこうなっただけだ」

「はあ? そういうのは普通振る時の謳い文句だろ。なのに何であいつが俺より友利なんかと仲良くしてるんだよ」


 浩也は地面を蹴る仕草をすると、友利の髪を掴んだ。

 そして友利の目は浩也の目の奥をとらえた。

 

 驚くほどそれは真っ黒だった。


「もう全部うまく行かねえ。昔からうざい、お前の全てがうざい」

「......何をそんなに浩也はキレてるんだよ。何でそんなに僕に構うんだよ」

「お前の存在が気に食わないんだよ。別のクラスだったらまだしも......くそっ」

「なあ......僕は浩也に何かやったの? もしそうなら謝るし、理由もないんだったらこれ以上そういうのやめて欲しい」

「ちっ、そういう態度が気に食わないんだよ」


 浩也は「もう冷めた」と吐き捨てて去っていった。

 周りの仲間たちもそれに釣られて去っていく。


 友利はその場でしゃがみ込むとため息をついた。

 

 なぜ浩也は友利に構うのだろうか。

 この疑問に対して一つ、友利は思い当たることがあった。

 

 昔から浩也はプライドが高かったとはいえ昔は普通に話していた。

 ただ、ある出来事を境に浩也は友利の上に立とうとしだした。

 この頃から関係性が崩れ始めて、今の状態に出来上がっていった気がする。


 しかしそれもだいぶ前の話だ。

 まだ根に持っているのか、別の原因なのか、本人以外はわからない。


 (一年、一年耐えればいいだけ)


 友利は自分にそう言い聞かせて立ち上がった。

 そしてゆっくりと帰路についた。

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