第四話 手作り弁当

「はい、じゃあ続きはまた次の授業でやります。起立、ありがとうございました」


 告白した次の日、四時間目が終わり、昼休みに入った。

 

 仕返しをすると言っていたので何をするのだろうと興味はあったのだが特に何の変化もなかった。

 いつも通りの日常を過ごすだけだった。

 友利を揶揄って言ったわけでもないと思うが特に何も起こっていない。

 瑞樹からも話しかけられていないので友利は気にしないことにした。


 (今日の昼休みは購買でいっか。今日の食堂のメニューであんまり良いのなかったし)


「皆原ー! 一緒に弁当持ってきたから一緒にご飯食べよ!」


 そして教室を出ようとした時、教室にいる人がほぼ聞こえたであろう声によってそれを止められる。

 声のする方向を見てみれば瑞樹が二つ分の弁当を持って友利の方へ向かってきていた。

 友利はその様子に唖然とするしかなかった。


 浩也の方を見てみればポカンと瑞樹の方へ視線を向けていた。

 すると、目が合いそうだったので友利は視線を戻す。


「はい、これ、皆原の分の弁当ね」


 瑞樹は友利にピンク色の弁当包みで包まれた弁当を差し出す。

 素直に友利はそれを受け取った。

 

 未だ困惑しているが一緒に食べようとのことで特に拒否る理由もない。

 拒否れる立場にないとも言い換えられる。


「あの、これどういう状況?」

「昨日、友達からって言ったでしょ? で、手っ取り早く友達になる方法が同じ飯を食べる。同じ飯を共にすれば仲良くなる。って訳で二人分作ってきた......あ、もしかして用事あった? 何かあるならこれ天音にあげるけど」

「いや、何も用事はなかったけども」

「じゃあ一緒に食べよ」


 瑞樹は友利の前の席に座った。

 そして椅子を友利の机の方に向けて弁当を開け始める。


 友達からとは言ったがそもそも嘘告であることがその後に発覚した訳だし、友達になる意味がない。

 それにほぼ話したことがない相手に弁当を作って一緒に食べるのも訳がわからない。


 これが昨日、瑞樹の言った仕返しなのだろうか。

 目立っているので友利にとってはこれがある意味仕返しになっている。

 

 瑞樹の謎の理論に驚きつつも、ひとまずお腹が空いてきたので食べることにした。


「何か苦手なものとかアレルギーある?」

「特にないから大丈夫」

「そっか、ならよかった。何か急で悪かったね。昨日、連絡先交換したんだから連絡くらい入れとけばよかった。私の悪い癖だなあ」

「ううん、全然、昼飯どうしようか迷ってたから助かる」


 友利は弁当の蓋を開ける。

 すると、唐揚げやポテトサラダ、白飯など食欲がそそられる食べ物が視界に映る。


「これ手作り?」

「そう、全部私の手作り......じゃあ、いただきます」

「いただきます」


 友利はそう言って手を合わせ、箸を持つ。

 

 (さて、何から食べよう......唐揚げから行こうかな)


 友利は好きなものは先の方に食べるタイプだったりする。

 そして唐揚げを取り、口に含んだ。


「どう、口に合う?」

「普通に美味しい」

「よかった、口に合わないならどうしようかなって思ってた」

「普通に料理上手いんだね、すごいや」

「......もしかして今意外って思った?」

「ん? 別に思ってないけど。意外っていうか料理作れること自体単純にすごいなあって」

「そ、そう? ありがと」


 美味しいので友利は食べる手が止まらない。

 気づけば食べることに夢中になっていた。

 こうして一緒に食べている以上、何か話す必要がある。


 そう思った友利は仕返しのことについて気になっていたので聞くことにした。


「早坂さんは趣味とかあるの?」

「あー、呼び捨てでいいよ、普通に」

「えーっと、は、早坂ちゃん......?」


 友利がそう言うと瑞樹は声を出しながら笑った。


 女子とあまり話さないので女子慣れしていないのだ。

 ずっとさん付けで呼んで距離を置いていたので何を思ったのかちゃん付けで呼んでしまう。


「普通に呼んでいいよ......ていうか、ちゃん付けとかされたの初めてかも。小学生の時もくん付けだったしなあ」

「は、早坂?」

「なんか慣れてない感すごいね。まあいいけど。それでどうしたの?」

「いや、趣味とかあるかなって」

「そっか、きちんと話すの何気に初めてだしな......趣味はバスケで、あとバスケ鑑賞」

「ほぼバスケじゃん、そんなに好きなの?」

「小学生の頃からやってる。ずっと続けていく予定」

「なるほど、熱中してるスポーツがあるっていいね」


 友利は自分の目の前にいる瑞樹が光って見えた。

 住んでいる次元が違う人間と言っていいだろう。

 一挙一動が明るく輝いている気がする。


 友利には熱中できるスポーツなんてない。

 部活には所属していないし、人に誇れるような趣味なんてない。

 

「皆原は? 何か趣味とかある?」

「僕は強いて言うなら読書とか、かな」

「読書? え、字とか長時間読めないから普通に尊敬する、すごっ」


 瑞樹はそう言ってニコッと笑った。


 もう少し素っ気ない返事が返ってくると思っていたが、反応は良かった。

 別に褒められた訳でもない。

 しかしそんな反応をされたこと自体が嬉しかった。


「全然そんなことないよ。早坂みたいに熱中できる趣味はないし。趣味って言ってもこれくらいだし」

「部活とか入ってないの?」

「うん、帰宅部。わざわざ自分から人と接点持ちに行きたくないから」


 友利はそう言って自販機で買ったお茶を飲む。

 

 もし仮に興味のある部活があったとしても友利は入っていないだろう。

 内向的なので多くの人と交流して話すのが苦手なのだ。

 

 別に喋れないことはないが友利から避けている。


「ふーん、なんか性格真反対だ。皆原、てっきりもっとチャラいと思ってた」

「全然、チャラいとは程遠いよ。ちょっとでも陽の部分があったらとか思ってる」

「ちなみに浩也たちとはなんで絡んでるの? 嘘告をほぼ強制させて......私は浩也たちにムカついてるけど反抗しなかった皆原にも一応怒ってこの仕返しをしてるんだよ?」


 瑞樹はそう言って友利の方をジトーっと見つめる。

 

 何が仕返しなのかあまりわからないがひとまず嘘告の件は自分自身でも反省している。

 浩也にもう手のひらで踊らされてたまるか。


「絡んでるというより絡まれてる......幼馴染だから、昔からずっとこう。なんで絡んでくるのか正直自分でも分からない」


 友利がそう言うと「あー」をできるだけ伸ばしながら椅子にもたれかかった。

 

「浩也たちやっぱりムカつく......」


 そしてそう言うと不敵な笑みを浮かべて起き上がった。

 友利がどうしたのか聞くと「なんでもない」とだけ答えた後、またお互いのことについての話に戻った。

 

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