第三話 ボーイッシュな女子に嘘告した
放課後、木々の隙間を通る風に吹かれながら友利は瑞樹を待っていた。
かなり後ろの方では曲がり角の壁に沿って浩也たちがチラリとのぞいている。
罰ゲームで告白など本当はやりたくない。
しかし話を取り付けられている上にホームルーム終了直後に浩也たちに囲まれ、もう逃げられない状態だった。
「お、お待たせ......待たせた?」
校舎裏で待っていて少し経った頃、瑞樹が前から歩いてきた。
少し頬は赤みを帯びている。
瑞樹は罰ゲームのことなど知るはずもないが告白するだろうなという状況は察しているだろう。
「わざわざ来てもらってごめんね」
「ううん、全然大丈夫。それで、浩也たちに言われて来たんだけど話って......何かな?」
言おうと思ったが友利は躊躇してしまい、口篭ってしまう。
クラスではいじられキャラなので瑞樹は少しは友利のことを知っているはずだ。
しかし瑞樹とまじまじと話すのはこれが初めてである。
向こうは少なくとも真剣だと思っているはずだ。
それなのにも関わらずもしも嘘告と相手が知ってしまったらどんな反応をするのだろうか。
引かれるだろうか、それとも笑い飛ばすだろうか。
大体の人が前者だろう。
浩也からも罰ゲームの告白であることは言うなと脅されているので潔く振られて散ろう。
それに嘘告は相手も傷つけてしまう。
なら嘘であることを言わずに自分だけ傷ついたほうがいい。
「前から好きでした、僕と付き合ってください」
友利はそう言って勢い任せに瑞樹に向かって手を差し出した。
途端に少し強い風が吹いてきた。
その間、瑞樹は黙ったままだった。
「......ごめんなさい、何となく認知はしてるけどあなたのことはあまり知らないし、お付き合いはできません」
「そっか、ありがと、時間作ってもらって」
これ以上、瑞樹の時間を奪ってしまうのも申し訳ない。
友利はそう思ってその場から立ち去ろうと踵を返す。
しかし、瑞樹は友利の腕を掴んでそれを止めた。
「その、私なんかを好きになってくれてありがと。みんな天音のこと好きで私に告白されるの何気にこれが初めてだから......友達からとかどうかな」
視線を逸らしながらも瑞樹はそう言う。
友利の瑞樹に対するイメージはもっとボーイッシュな印象だった。
ただ、今友利の目の前にいる瑞樹はだいぶ可愛らしくて乙女な瑞樹。
不覚にもギャップにドキッとしてしまう。
「とりあえず......連絡先とか交換しない? 面白い人だし、昔から関わりたいと思ってたんだ。だからその、もっと皆原のこと知りたいなって」
ギャップに驚いているといつのまにか話は進んでいた。
(ん、ちょっと待って、これまずい展開では?)
友達から始めてくれるらしいが、このまま嘘で通してしまっても良いのだろうか。
しばらく経って発覚した時に向こうが傷つくだろう。
であれば今言ってしまった方がまだ良いのではないだろうか。
(......でもどうしよう。後ろには浩也たちがいるし)
悩んだ末にリスクを負いながらも友利は打ち明けることにした。
「ご、ごめん、罰ゲームで告白させられただけなんだ。本当ごめん」
「え? 罰ゲーム?」
「ほら、後ろ」
「......浩也たちだ。え、そういうこと?」
友利はこくりと頷いた。
そして事の顛末を向こうに聞こえないように声を小さくして話す。
話の途中でブタれるくらいの覚悟はしていたのだが瑞樹は最後まで話を聞いた。
「はー、そういうことか。そうだよね、私に告白するなんて罰ゲームとか大体そんなのだよね」
「普通に怒られて当然だと思う。本当ごめん、嘘告なんてして」
「......もちろん皆原も悪いけど私から見て浩也の方がムカつく。人に嘘告させるなんてサイテー......最近私たちによく話しかけてくるし、明日会ったら一発ぶん殴ろうかな。説教だな」
「あの、それはやめてほしい......すごく図々しいけどできればこれ言ったこと内緒にしてほしい」
友利は瑞樹にそうお願いする。
嘘告であることを言うなと言われているのでバレればまた何かされる。
「え、何で?」
「その......えっと、早坂さんの手は汚させたくない。嘘告した本人が言うなって話だけど」
「でも私がイラつく......あ、そうだ、いいこと思いついた。仕返ししようよ、仕返し」
「仕返し?」
「だって君、ずっと浩也にやられっぱなしじゃん。いいようにやられて浩也だけ愉しんでる。悔しくない?」
「そりゃあ悔しいけど......」
「あと浩也たちへの仕返しでもあるけど嘘告した君への仕返しでもあるから」
瑞樹はそう言って不敵な笑みを浮かべる。
仕返しとは一体何をするのだろうか。
「具体的にはどんな......」
「内緒、じゃあまた明日」
友利が聞こうとすると口元に指を立てて子供っぽい笑みで微笑む。
そして早々に去って行ってしまった。
「友利、結果はどうだった?」
仕返しとは何だろうか、そんなことを考えながら立っているとニヤニヤとした顔で浩也はこちらへ近づいてきた。
周りの友達も興味津々な様子だ。
「普通に振られた。そもそも話したことなかったし」
「そうだよな、お前なんかが付き合っても不釣り合いだしなー」
笑いながら浩也はそう言う。
いちいち癪に触る嫌な人である。
「でもにしてはちょっと長かったくね、まさかお前嘘告のこと話して......」
「いや、話してないよ。友達から始めよって向こうが言ってきてそこから話してた」
「ふーん、なるほど......はは、明日クラスで瑞樹に告って振られた奴って噂が立ってないといいな」
「......そうだといいな」
「ま、その時は俺がフォローしてやるよ」
浩也はそう言って友利の肩を数回叩く。
そして浩也の友達と友利のことを笑いながら帰って行った。
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