第二話 罰ゲーム

「友利、ちょっといいか?」


 休み時間、自分の席で次の授業の準備をしていると宮下 悠里みやした ゆうりが前の空いている席に座る。

 友利は一度手を止めて悠里の方を見た。


 悠里は高校に入ってできた友達で同じクラスメイトだ。

 特に趣味が合う訳でもないが話しやすくてラフにいれるという理由でよく一緒にいる。

 選択科目が被っていたりと何かと悠里とは接点がある。


「ん、どうかした?」

「いやさ、昨日の件もそうだけどそろそろ先生に相談したほうがいいんじゃないかなと」

「昨日の件? ああ、あの一発芸のやつ?」

「そうだ、あれは最初から全部聞いてたが酷すぎる。その件だけじゃなくても他にも浩也にやられてるだろ」

「それはそう、正直ウザいとは自分でも思う」


 友利はそう言ってため息をつく。

 思い出しただけでも腹が立ってしまう。

 

 しかし浩也との縁は切ろうと思ってもなかなか切れない。


「浩也とは幼馴染だったな。けど友達とかそんな関係ではないだろ? 事実、友利が嫌がってる訳だし」

「それはそう、多分向こうも友達だとは思ってない。いじりやすい奴みたいな」

「じゃあ、余計に相談した方が......」

「いいよ、別に。クラスでいじめられてるかと言ったらそういう訳でもないし、中二の頃も同じクラスだったけどこんなんだった。中三になってクラス別になっても何かと絡んできたし」

「昔から二人がそんな関係だったってことはわかった。けど浩也に言ったり先生に言ったら直るかもしれない」

「それはないと思う。中学みたいな感じじゃないんだ。分からないけど、高校の先生は多分そんなこと対応してくれない。自分たちで解決しろって言う。浩也にいうのは逆効果だろうね、だから一年黙って耐えてたほうがいいんだ」

「......そっか、友利がそう言うなら俺は何も言わない」


 悠里はそう言ってメガネの真ん中を人差し指で触り、かけていたメガネをかけ直した。

 

 どうやら悠里なりに心配してくれているらしい。

 良い友達を持って良かったと友利は思う。


「何かあったら俺に言ってくれ、いつでも相談に乗る」

「そうするよ、ありがとう」


 そしてその後は他愛もない話をしていく。

 しかし、そんな空間にも邪魔が入ってしまう。


「よっ、友利、みんなで古今東西やろうぜ」


 友利は急に浩也に後ろから軽く首を絞められる。

 流石にイラついたので浩也の腕を無理やり引き剥がして顔をしかめる。


 辺りを見た渡すと浩也含めて四人が友利を囲っていた。

 いつも浩也と一緒にいるメンバーである。


「......あー、お話中? 悪い悪い。悠里だっけ? お前もやるか?」

「いや、遠慮しとく」

「そっか......あ、友利は強制参加な」


 浩也は悠里には選択肢を与えたものの、友利には選択肢は与えないつもりらしい。

 仕方ない、と受け入れるつもりでいるとスマホのメールが鳴った。

 

『止めようか?』


 パッと確認すると送り主は悠里のようだ。

 

 悠里はこちらを見つめている。

 浩也に気づかれないようにしながら友利は首を振った。

 止めようとして悠里にまで浩也のターゲットにされてしまっては困る。


「じゃ、俺はお暇する」


 そう言って悠里は席を立った。

 

 浩也はただゲームをやろうと言っているので特に裏もないはずだ。

 しかし浩也のことなので絶対とは言い切れない。


「古今東西ってどんなゲーム?」

「お前古今東西知らねえの? 要するに山手線。お題に沿った答えをリズムに合わせて言う。詰まったら負け」

「なるほど」


 ただ友利をゲームで負かして煽りたいだけなのだろうか。

 それだけであれば潔く煽られる。


「ちなみに罰ゲーム付きな負けた奴が瑞樹に告白」

「そこ、天音の方じゃないのかよ」

「えー、だってハードル高いだろ。それに仮に俺が負けて嘘告して振られたらもうチャンスないじゃん」

「浩也まだ狙ってるのかよ。諦めろー」

「でも、最近話してるしぶっちゃけ脈アリじゃね」

「たしかに話してるところ見かけるけども」


 浩也のグループで勝手に瑞樹にするか天音にするかで話し合っている。

 発言自体もだいぶ失礼だが罰ゲームで告白すること自体ダメだ。


 そう思った友利は浩也たちに別のものにしようと言うことにする。


「流石に罰ゲームで告白とかやめたほうがいいんじゃ......」

「は? なんか文句ある?」

「......何でもない」

「じゃあ負けた奴、瑞樹に告白で」


 浩也はそう言って友利の方をチラリと見た。

 その目が何とも悪意に満ちた目で鳥肌がたった。


 (なるほど、俺を罰ゲームに嵌める魂胆か)


「お題はじゃあこの市にある店の名前とか?」

「あー、あり、やろうぜやろうぜ」


 あまり外に遊びにいかないインドア系には相当不利な話題だ。

 チェーン店もあるので最初はそれを言っていけば良いと思うが時間の問題。

 とはいえ負けたくない。


 そうして店の名前をリズムに合わせて行っていく。

 序盤は順調に進んだ。

 しかしどんどんとネタがなくなっていく。


 五巡目あたりだろうか、思いつくものがなくなり無事罰ゲームが決定した。


「え、えっと......」

「はい、詰まった! じゃあ今日の放課後告白な。話は俺らからつけといてやるから」

「いや、ちょっ......」

 

 最後の足掻きをしようとしたところで休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 それ以上何も言うことができずに友利は口を閉じた。

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