第17話 神様の試練
自家用車に乗り込んだ一翔の脳内は
だが勢いよく引こうとするその手首を、柔らかな温もりが負けじと強く抑えた。
「看護師さんも言ってたでしょう、少し休んでから帰った方がいいって。それなら車の中で休むからって君は答えていたじゃない」
助手席に座っていた『天使』が、冷静な口調で
彼女がここまで直接的に一翔に触れたことはなく、その温度と圧迫感は正に人間そのものであると一翔に印象付けた。
だが一翔には、影もなく
一翔は左手を身体の内側へ引いて『天使』が被せた右手を
「…全部おまえのせいだろ!! おまえが俺に余命宣告なんてものをしやがったせいで、俺はこんなに
自分でも
彼女の身体も髪も薄着もブラックライトのように淡い光を
まるでオブジェのような冷たい美しさを、しかし一翔は粉々に砕いてしまいたいと望んだ。
「そうだよ…やっぱりこんな展開都合が良すぎるんだ。俺が自分の人生にちっとも向き合わないから、意図的に身近な人の死を体験させようとしてるんだろ? おまえが本当に神託される存在なら、神様を通じてきっかけを作り出すことだって充分に考えられるはずだ! そんな
「ねぇ、本当にそう思ってるの?」
鼻息を荒くしながら
「本当にそう思ってるのなら、
彼女から初めて言い放たれたであろう強い非難に、一翔は思わず
決して大きくはない自家用車の中で張り詰めた沈黙は——意味の無いアイドリングを続ける時間は——これまで彼女と向き合ったどの状況よりも
フロントガラスの表面に付着する水滴が徐々に大きくなり、数を増やしていた。
一翔は
「……ごめん。俺が悪かった」
一翔は
自分の人生のために他人の死のタイミングが左右されるなどという発想は、擁護のしようもない高慢であった。そして『天使』の存在と
内省とともに疲労感が湧き上がり、一翔は右手で目頭を
「でも、気持ちは
神託を受けた存在とは到底思えない『天使』の言葉に、一翔は疑問を
「それは…本当にこの世の摂理なのか。それとも、あんたの持論なのか」
「私の
「じゃあ、なんで神様は
「そうだね。でも神様は、人間に
「だから君は、可能性を
『天使』と言葉を交わしているうちに、一翔は段々と気持ちが落ち着いていくのを感じていた。
そして
『神様がおまえにとって一番良い未来に導いてくれるだよ』
とはいえ何が変わるわけでもない現状に、一翔は力無い表情を浮かべながら溜息を
「だからといって…命を賭けさせるのは裁量を逸してるんじゃないのか」
「さぁね。神様は誰にも裁かれないから神様なわけだからね」
「無茶苦茶じゃねぇかよ」
一翔は小さく
日付が変わろうかという頃、祖父の
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