第16話 病床
一翔が受付で面会を申し出ると、看護師は
「お
静寂に満ちた病棟の廊下は、安易に足を踏み入れてはならないかのような緊張感を一翔に
室内には大きな緑地のカーテンが敷かれており、その奥から心電図か何かの断続的な機械音が聞こえてきた。
一翔が促される
何本もの配線が上半身に
奥には点滴スタンドがあったが、それが祖父の腕に
記憶にある祖父とは別人のように老い
祖父の
病床を挟んで反対側では、祖母である
「一翔ありがとうねぇ、お
息を
「
「さっきまで
「お
祖母はいつものような
どうやら静岡県西部に
「ほら、一翔もお
祖母はそう
目を閉じて極めて浅い呼吸を続けるだけの祖父の姿が、一翔には不気味に映っていた。
だが傍観するわけにもいかず、先の看護師の助言を踏まえて
一方では断続的な機械音が時計の秒針の
——何を話せばいい? 何を伝えれば
——そもそも俺は
『一翔、元気でやってるか』
何年前かも定かでない、
「
『仕事は、楽しいか。楽しんでやらねぇことには、
だが早くも脳内に再現した祖父に対し、一翔は返事に
ゴルフ場の現場研修の間はそれなりに楽しさがあったかもしれないが、あの狭苦しい本社でパソコンに向かうだけの日々は——その大半が電話番に過ぎない現状は、どのように美化しても楽しいとは言い張れなかった。
「仕事は…まぁ、これからだと思う。
『おいおい、いつまでも俺を引っ張るなよ。おまえの人生だら』
——その人生があと1カ月も経たずして終わるかもしれないと知ったら、
そう思ったとき、一翔は不覚にも無言で横たわる祖父の姿に自分を重ねてしまった。
1ヶ月後には自分もこうして病床に伏せているのかもしれないと考えた矢先、手足の先端から一斉に血の気が
『まぁ案ずることはねぇ、神様がおまえにとって一番良い未来に導いてくれるだよ』
気付けば一翔は、椅子から立ち上がっていた。瞳は大きく見開かれ、鼻息は荒く、
「一翔、あんた大丈夫かい? なんだか顔が真っ青だよ」
その異変は
当然に病床の反対側にいる担当医も一翔の様子を見逃すことなく、
それを察した一翔は、
「ごめん、
説得力に欠けたフォローを言い残して、一翔は
背後で何か祖母が言い掛けたが、
一翔は
だが一歩廊下に足を踏み出した
「おっと、失礼」
そこには黒い
一翔には面識がなかったが、男は正に祖父の病室を訪ねようとしていたらしく、一礼をしたのち一翔と入れ替わるようにして入室していった。
振り返ると祖母も担当医も頭を下げていたが、一翔は男が何者なのかを詮索する気力も湧かず、
そして、逃げ
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