第15話 危篤の報
今年は10月に入っても異様な残暑が続いていたが、日が暮れる時刻は毎年変わることなく、
一翔は伊熊部長に祖父が
「私もお父さんも今日中にそっちへ行くのは難しいから、せめて一翔だけでも仕事終わりにお
母から連絡を受けたのは午後2時頃であり、特段
だが伊熊部長には、夕方まで残るよう指示されていた。恐らく自分の顔を見て、気持ちを落ち着かせる時間を与えようと配慮を
それでも病院までの目的地設定をカーナビで操作する一翔の指先は氷のように冷たく、震えていた。
ナビが示したルートは途中までいつもの帰路と同じ景色のはずなのに、
祖父が療養を受けている病院は
普段なら好きな音楽を流して単調な長距離移動を紛らわせるところであるが、今は何を聴く気分にもなれず、一翔はただガソリンエンジンが
しかし信号の連なりは繰り返し赤を
——また赤かよ…くそ、早く行かなきゃならないのに……!
だがもどかしさで息が詰まりそうになるに連れて、一翔の心の中ではその
——でも、行ったところで俺に何が
断続的な静寂の中で何を考えるべきなのかも
——今夜が山かもしれないとはいえ、俺が間に合うか間に合わないか…そこに何か違いがあるのか?
——俺はどうしてこんなに急いでいるんだ? 俺は、一体何のために……!?
「信号、青になってるよ」
不意に左耳へ届いた指摘は全身に電流が
他方でその視界の片隅では、『天使』が何やらカーナビ画面を操作しているのが
「この時間は、ニュース番組くらいしか目ぼしいのがないね」
アナウンサーの落ち着いた声音が車内に流れると、一翔はまた少し気が紛れた。
再び赤信号で停止した際に左を
一翔の視線に気付いた彼女は、無言の問いかけを尋ね返すような表情で目を合わせてきた。
薄暗い車内でも猫のように
運転中に注意が散漫だった自分を『天使』が
本来なら謝意を示すべきなのだが、一翔は彼女に借りを作ってしまった事実を
「…なぁ、
信号が青になり、今度は自動車が順調に加速した。
『天使』であるとはいえ、他人の寿命など知り得ないことは
「君は、お
予想に反して心外な問いかけが返ってきたが、運転に集中し直した一翔はその冷たさを
「そんなの……当たり前だろ」
「でも、人間はいつか必ず死ぬ。生命には必ず終わりが来る。どんなに先延ばしにしても限界は来る。君のお
依然として何の
だが『天使』が
一翔自身に下された余命宣告には抗おうとするにも
それらを踏まえて、一翔はぼやくように『天使』に言い返した。
「あんたには、感情ってもんが無さそうだからな。人はいつか死ぬって
「
「…なんで
「ねぇ、君はお
「は? 何言ってんだよ、そんなの…」
——そのときになってみないと
続きかけた返事を一翔は
感情は自然と湧き上がるものであって、事前に予見するものではない。それが当たり前だと思っていたのに、その思考自体が普通でないと『天使』が
だが彼女の意地の悪い質問には怒って当然であるはずなのに、何も言い返さないことでかえって一翔の本心が
——俺は
せめて薄情な結論を
間もなく午後5時になろうかという頃、一翔は
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