第11話 後悔しているの
『天使』と視線が合致した一翔は、
自分がどのような感情に
だがその仮説を肯定することは、逆に自分にとって一種の
そして『退屈そうだね』という
午後5時半までの虚無にも等しい勤務時間中、『天使』を暇潰しの話し相手に仕立て上げることは必ずしも悪い提案ではなかった。
だがその様相は
上司が
必ずしも悪い提案ではないが最悪の選択肢である——一翔は感情を落ち着かせながらそう言い聞かせた。
「…なんだよ。
一翔は椅子に
——多少なりとも
それでも彼女が何か
他方で『天使』はそれを
「君はここで働くって決めたこと、後悔しているの?」
答えたくなかったが答えざるを得ず、その目を泳がせながら
「後悔してる…わけじゃない。せっかく祖父が紹介してくれたのを
「でも君は、お
「…まぁ、それなりに経験にはなってると思うよ。大学を出ても実家から満員電車に揺られる生活よりかは、地方に出て
——『どうしてこの仕事を選んだの?』
『天使』に向かって
案の
それが無言の圧力に映った一翔は、
「後悔なら…してるよ。もっと名前のある会社にでも就職して、それなりのキャリアを積み上げていけば人生は
「俺にとって労働は、今も昔も『食っていくために仕方なくやること』以上の何物でもない。結局は今のこのワークライフバランスが、俺にとって
大学4年生になった一翔には、やりたい仕事がなかった。
高校時代から帰宅部だったこともあって対人関係が
だが実際に公務員となったユーヤンのように予備校に通ったわけでもなく、理想や熱意もなく、何の助言も仰がなかった結果当然に1次試験を通過することはなく、一翔は広大な砂漠に取り残されたかのような
そこに
入社してからの3年弱は現場研修という名目で、浜松市内のゴルフ場に出向しサービス業に従事していた。
サービス業自体はアルバイト経験もあり、
だがその一方で、都内の大卒が何故こんなところにいるのかという漠然とした違和感を
そもそも
そしてゴルフ業界は外出
新規案件に関しても、最終的なM&Aについてはオサカベコーポレーションが担うために、不動産業としての勉強を求められるわけではなかった。
結果として大したキャリアを積む余地のないまま年月が経過し、コロナ
「この会社の利益は子会社ゴルフ場の経営指導料と配当金で充分に
一翔は『天使』の気が済む着地点を模索して、言い訳に似た答えをつらつらと述べた。
だがどのように着地しようと、『天使』からはその先どのように一歩を踏み出すのかという質問に移ることが
逃げ場のない空間でその追及を回避したかった一翔は、強引に話題を転換しようとした。
「…てかさ、俺に付き
一方の『天使』は特段虚を突かれた様子もなく、澄ました顔のまま柔らかな口調で答えた。
「君が私にそういう役割を求めるのなら、そうしてあげてもいいけど」
皮肉めいたつもりが
『天使』に借りを作るくらいなら、好みの味でない冷めた給食弁当を口にする方が断然良いということに後になって気付いた。
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