第5話 終わりの始まり
一翔が
どうして
『天使』は浴室で気を
「あのさぁ、俺の前で突然現れたり消えたりするの、マジでびっくりするから止めて欲しいんだけど」
あからさまに迷惑そうな口振りに対して、『天使』は相変わらず人形のような澄ました表情で答えた。
「私は何もしてないよ。君の方が私を認識
「じゃあ質問を変える。その
「どうと言われても、君自身の心の問題だと思うよ。
一翔にとってはその『心の問題』が何なのか具体化されないことが不満で仕方がなかったが、それ以上追及したところで濁されることは目に見えていた。
それならば自分の視界に入らないよう言い付ければいいとも考えたが、『天使』が見えるようになった原因が自分にあるのならば、そのような利己的な態度をとる余地はなかった。
一翔は布団の上で
「あんたは俺のことを生まれてからずっと見守ってきたとか言ってたけど、俺の身の回りで起こったことを全部記憶しているのか」
一翔は日記を
「うん、全部
「
掘り返さなくていい記憶を掘り返された一翔は、悪意なく並べ立てようとする『天使』の口を早々に封じようと
「それだけ細かく
「
「俺の心までは読めないと言いながら、どうしてそういう推測が成り立つんだ」
「私、何か変なことを言ったかな。それって普通のことじゃない?」
「…ほら、ジョハリの窓ってあるだろ。俺にとっての盲点の領域を、あんたはその…一番良く知ってるってことになるんじゃないのかよ」
「確かにそうかもしれないけれどね。でも1つ確実に言えることがあるとすれば、『心の問題』は盲点の領域じゃなくて、秘密か、
落ち着き払った声音で答える『天使』を前に、一翔は
ずらすと言うよりも逃げると表した方が的を射ている気がして、彼女の手を借りようとすればするほど自分が内側から力任せに削られていくような反動を覚えた。
そのことを『天使』に言及されないよう、
「じゃあ最後に教えてくれ。俺があんたの言う神様ってやつから無価値の
「それは違うよ」
すると『天使』は即座に、やや語気を強めて否定した。
「決して神様がこの世に生きる人間
「でも俺が他人と比べて非生産的な人生を送っているから、それを改善しないと生き続けることを許さないって…そういう趣旨なんだろ」
「それは…そうかもしれないけれど」
一翔の反論に対して『天使』の返答が
その様子を見た一翔は、布団に
「そして俺が死ねば、あんたも消滅する。あんたは消滅したくなくて俺に前向きになるよう促してる。そういうことなんだろ」
「私のことより、君自身のことを気にしてよ」
「
そして消灯と共に『天使』との会話を打ち切り、一翔は無理矢理にでも
暗闇の中で『天使』が何を話しかけて来ようとも、だんまりを決め込もうとしていた。あわよくば今日1日そのものが長い夢であって欲しいと、
結局その後『天使』が何か言葉を発することはなかったが、一翔は彼女の気配が薄っすらと感じられるような気がして、静寂の中でなかなか寝付けずにいた。
——30日後は11月4日。俺の30歳の誕生日。もし本当に裁定が下れば、その日を迎えることは
そのように自分を納得させても、本当にそのデッドラインが決められているのだとしても、命運を回避するためにするべきこともやりたいことも暗闇の中で何1つ浮かんでは来なかった。
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