5月 金沢 「呑舟之魚」
金澤町家の窓辺では、浮舟白魚が籐椅子に座って撮影に臨んでいる。
撮影現場は石川県金沢市、東山地区にある古民家を改装した開業前のホテルだ。
二階建ての、大正期の和風建築を修繕、ホテルとして再生した物件。北陸とはいえ、金沢はかなり暑いうえ、撮影する室内は昭和の型板ガラスの窓を開けて外光を採っている。真夏日の金沢でも、飄々と暑さを凌ぐ姿はアマチュアモデルとは思えなかった。
ガラス戸を開き、敷地内の庭を臨むように籐椅子に座る。
松の日陰になった薄暗い客室に、外気と自然な日差しが流れ込んでいく。
撮影に使用する部屋は、再利用した大阪格子が珍しいシングルの客室だった。部屋はさほど広くないが、板張りに換えた床やシンプルな家具に庭の緑がよく映える。古着物の生地も、質素な部屋の内装に引き立てられていた。大正時代の、派手な色彩がレトロモダンの雰囲気だ。
現在の衣装は、夏銘仙の開襟シャツと夏大島のワイドパンツ。
撮影も、終盤にさしかかっている。街頭での撮影は、午前中に撮り終えていた。
八頭身ある長身は、籐椅子の腰掛けに座ると手足の長さが目立つ。街頭での撮影では、高い腰に目が奪われたが、華奢な橈骨がすらりとした白い腕も眩い。何より、大島紬のパンツの裾から、硬そうな踝の浮く足首が覗いて暗色の生地との対比がすさまじいのだ。
見込み以上ですね、と氷見に耳打ちしたのはホテルの経営者だった。
氷見は、五歳年上の女性に頷く。地元出身で、別所でマイクロホテルを開く敏腕だ。
実は以前、氷見の作品の展示即売会を、ホテル併設の店舗で開いたことがある。店舗を画廊として、若手の芸術家の展覧会などを積極的に開いている。さらに、数年前から、従業員の制服も依頼されていた。移住者にも門戸を開くのは、町の活性化を担うという自負からだろう。
この現場も、東山地区と呼ばれる情趣を残した街にある。
浅野川大橋の東西は、観光客が多く訪れる地域で、浅野川の西岸に沿って「主計町茶屋街」、浅野川大橋を渡った東側が「ひがし茶屋街」を擁する東山地区となっている。氷見の工房や、今回の撮影現場、女性が営むホテルは東山の活性化で改装された物件だ。
東山を貫く大通りを挟んで東側には、金沢屈指の観光地で、現役の花街であるひがし茶屋街の古い町並みが広がる。伝統的な景観を保護する歴史地区だ。今回の撮影場所や氷見の自宅は、茶屋街とは異なり寺や飲食店と住宅街の入り組んだ路地にあった。
「夏物の新作、大柄な若い男性を想定したんですよね」
まさに狙い通りじゃないですか、との感想に口端が緩んだ。
浮舟には、夏物の新作を主軸にコンセプト写真のモデルを頼んだ。
作品の取材に、金沢に伺いますと打診してきたのは浮舟のほうだった。
面接から三日後、喫茶店で登録したチャットアプリの連絡先に通知がついた。二週間後以降、取材に伺いたいのですがご都合のいい日はございますか。想像よりも早い打診に、撮影モデルの依頼費用と交通費を含めた経費を訊ねる。
二日分の日当払いでモデルの依頼をすることにしたのだ。
実地で採寸を済ませ、事前に浮舟の身長などに合わせて衣装を選んである。
今回の新作は、高身長の男性向けで、古着物では着丈が足りない男性にも魅力を覚えてもらいたかった。従来の作品は、着物や和装、和布のリメイクに興味のある女性を意識したものが多い。現代の性差を意識しない思潮にあやかり、間口を広げる算段だった。
隣の部屋には、事前に用意した衣装が移動式のラックに吊るされている。
夏物の撮影のため、楊柳に絽や紗などの生地をリメイクした作品が多い。生地の質感だけでなく、現代の洋服に合う図柄を多く用いた。伝統的な和柄、大正や昭和初期の幾何学模様なら流行とも乖離しすぎない。今は、男女の区別なく、テキスタイルなどを活かした服も流行る。
近年の暑さを考えれば、夏着物の再生も十分に見込みのある分野と言える。
揃えた新作は、男物の夏着物を活用して制作したものだ。総じて古着物は、当時の日本人の体格に合わせて作られたものが多い。現代の平均身長では、着丈が足りなくなることもよくあることだ。特に、浮舟のように、一八〇センチを超えると着物を誂えるだけでも難しい。
だが、リメイクで、その幅が広がるなら男性にも売り込むべきだろう。
「浮舟さん、最後の衣装で撮影しましょうか」
「すみません、氷見さん。衣装の確認をお願いします」
事前に撮影を頼んだ、金沢在住の若手写真家に声を掛けられる。
経営者に礼を言ってから、隣室に移動して浮舟が着替えに戻ってくるのを待つ。
今回の撮影日程は、現場の下見とリメイク作品の視察を含めて二日間。
撮影は今日、前日は東山地区にある撮影現場の下見、氷見の工房で事前取材と衣装の仮合わせを済ませた。撮影モデルを務めるだけでなく、氷見の作品を紹介する記事を投稿サイトに載せるらしい。事務的な連絡をするなかで、投稿サイトにも記事を寄せていることを知ったのだ。
職業は、個人で文筆業を営む自由業。
臨時の執筆依頼、校正や編集業務も受けているという。
業種に関わらず個人間取引を請け負うアマチュアも多い。需要と供給の都合、プロほどの技量を求めない価格相応の幅広さが必要なのだろう。実例を挙げるなら、同人誌のデザイン依頼やハンドメイド作家もか。浮舟も、被写体モデルや、個人からの校正依頼を請け負っている。
氷見も、自分を棚に上げられはしない。
あくまで、個人で活動する着物のリメイク作家だった。
普段、氷見の作品は、専門の販売仲介サイトを通じて販売されている。
リメイク作品も、日頃から収集した古着物に合わせて制作することが多い。ただし、個別の依頼に応じて注文を受けることもあった。個人依頼の場合、活用した着物によっては高額の取引となる。サイトには、依頼作品も含め、制作例としての写真を掲載してきたのだ。
だが、実際の着用例は印象の齟齬を避けるため投稿してこなかった。
今回初めて、氷見の作品が生身の人間とともに写される。
「氷見さん、よろしくお願いします」
からり、と部屋を間仕切る引戸が開かれる。
冷房の効いた室内に、柔く掠れた低声がゆったりとした調子で響いた。
今回、モデルを担う浮舟は、氷見よりもさらに数センチ身長が高い。横幅がなく、骨細な骨格ではあるが、大柄な美丈夫であることは贔屓目でなくとも明らかだ。五分袖から現れた華奢な腕が、日焼けも知らぬ氷魚か白魚めいた印象を与える。
首筋には、ひとしずくの汗も浮いていないから驚きだ。
メイクとヘアセットは、美容院のスタイリストに依頼してあった。
額で分けた黒髪を、手櫛の筋を残しながら片耳に房を掛けて流してある。
剃られた眉は、黛に相応しい稜線を描くようにして整えられている。薄い下瞼には無彩色のラメのアイシャドウ。睫を見る限り、前回と同じような暗色のマスカラも刷いてある。肌理を活かした薄化粧で、濃いマスカラが醸し出すのは浮世離れした色気だった。
浮舟が、静謐な視線をラックに掛けられた衣装へ向ける。
「最後の撮影は、シャツとボトムを変えて羽織物ですよね」
「そうです。この現場にもよく合うと思います」
氷見は頷きながら、楊柳のシャツとパンツを手に取った。
今回の衣装で、最も浮舟に似合うと見込んだのが白物のガウンコートだ。
これ、ほんまに僕が着るんですか、と前日に訪れた氷見の作業場でたじろいでいた。
氷見の工房は、元商店の民家を改装した普通の家だ。店舗だった部分が作業場で、片隅に置かれたトルソの着るガウンに黙り込んでいたのを思い出す。眉根どころか、額にも皺を寄せた怪訝な表情。モデルの依頼に、猜疑心を抱いたのだとしても無理はないだろう。
どの作品も、販売価格なら五桁はくだらないものばかりだ。
浮舟の担うモデルは、個人の立ち上げた安価な通販ブランドが多い。
それでも、浮舟に着せるのであれば、この薄手のガウンは外せないと思った。未公開の作品のストックのうち、制作後も手元に保管したままの在庫だ。写真を投稿せず、非売品として残したままの作品のひとつ。サイトにも、SNSにも掲載していない秘蔵品だった。
夏物の、薄手の生地、透けるような綿の紗を仕立て直したガウン。
奇跡的に、美品として保管されていた紗を再利用した。正確には古着物ではないが、着道楽だった故人の遺品に紛れていた質のよい生地だった。まるで、白打掛じみた丈長のガウンコートは、生地の柄合わせと襟の輪郭がユニセックスな印象に残るよう仕立てた。
浮舟が、夏銘仙の派手な柄シャツを脱ぐ。
楊柳を仕立て直した、立襟の詰まるシャツに袖を通した。
薄い黒染めの、縮のシャツの胸元には細幅のタック。袖と、身頃のボタンには、光沢のある黒蝶貝のシェルの円形を選んだ。白鼠のサルエルパンツは、二種類の縮を前後で切り替えたデザインだ。そこに薄手の白い紗、和布らしい質感の生地を脹脛まで重ねる。
楊柳のシャツ、縮のパンツを淡く透かしてガウンを羽織る。
生地の量が必要なため、揃いの夏羽織などもほどいて継いだ甲斐がある。
男物の羽織物、さらにガウン丈ともなると生地を継ぎ足すのにも苦労した。揃いで羽織と着物を誂えていたのが幸いだった。襟、身頃や袖などの部分ごとに、必要最低限の生地を取って左右対称となるよう縫い合わせてある。素材も、夏場に洗濯しやすいよう綿のものを選んだ。
纏う白の紗は、まるで蜉蝣の薄翅のように裾を翻す。
あ、と声が漏れかけたのを堪えた。そこに、理想の「浮舟白魚」がいたからだ。
蜉蝣と喩えたが、あるいは陸に躍る白魚でも構わなかった。ただ、瞠目した瞬間、浮舟はまるでこの服を纏うために生まれてきたみたいに見えたのだ。服が、浮舟のために作られたのではない。浮舟こそが、このガウンのために誂えられた人間なのだと思った。
試着の時点で、頭を殴られるような前兆はあったのだ。
前日の午後、氷見の自宅の作業場で衣装を合わせていたとき。
最後に着せたのは、やはりこの紗の生地のガウンコートだった。案内した作業場の、数台のミシンが並ぶ部屋の壁には姿見があった。背筋を伸ばした浮舟の背が、薄手の生地がひらりと風邪を含みながら覆われるのを見ていた。あの時に、確信を抱いたにちがいなかった。
氷見は、完璧なモデルを釣り当てたのだ。「とても、よくお似合いだと思います」
呟いた言葉が、記憶の反芻なのか現実なのか分からなくなる。
前日の経過を、実のところ氷見は鮮明に憶えていない。あまりの衝撃に、なかば放心したまま、感嘆したように呟いたことだけは朧げに記憶している。衣装合わせを終えて、記事執筆のための取材に移った浮舟の質疑応答にも答えたはずなのに曖昧模糊としていた。恐らく、夕飯の誘いも断り、最終調整がしたいと自宅から浮舟を見送ったはずだ。
翌朝、現場に現れた浮舟に、興奮とも違う胸騒ぎを覚えた。
氷見さん、と呼びかける声にハッと目を瞬く。
「いかがですか。肩の落ち方とか、袖や裾は問題ありませんか?」
浮舟の肩幅に合わせ、肩の継ぎ目のラインを整えるように直す。
縮の涼しげな質感と、薄手の木綿の紗の生地がよく合う。夏銘仙の、昭和のテキスタイルの幾何学な派手さとはまったく違う魅力があった。偶然にも、伝統的な網代と鱗模様で、「白魚」の名前と掛け合わせたような織柄だ。ボトムは鱗模様、襟の詰まったシャツは網代柄。どちらもうっすらと模様が見えるかどうかといった具合だった。
「完璧だと思います。今日のメイクにもよく合ってる」
「それはもう、美容院の方に感謝せな。メイクとヘアセットの賜物ですよ」
ふ、と眦と口端を緩めた、あのあどけない素の表情が覗く。
撮影にあたっては、氷見の知人の協力が不可欠だった。事前に頼み込み、氷見が通う美容院の店長に腕のいいスタッフを融通してもらったのだ。午後の現場に移る前、最後の調整をしてもらってから別れた。確かに、浮舟の素材を存分に生かしたスタイリングにちがいない。他にも、ホテルの経営者、金沢市内で写真館を継いだ写真家のおかげだ。
撮影場所と、写真家の名前のクレジット表記も確約している。
「僕は、非日常を、日常に見せるための道具やと思います」
この服を、実生活のなかに「あるべきもの」として落とし込む。
それが役目ですから、と浮舟はおもむろに振り向きながら言った。
そして客室の壁の、姿見の前に立つと、ガウンコートの裾を翻しながら立ち姿を確認する。裾を捌く動作すら、無駄がなくて毅然として潔かった。くるりと回転してから、氷見のほうを窺うように動きを止めて顔を向ける。保湿された唇には、マットな質感の口紅が塗られている。控えめな淡色は、健康的な血色を演出するのにちょうどいい。
氷見が頷くと同時、薄い唇が引き結ばれて稚さが掻き消える。
「ああ、いいじゃないですか。その衣装、今までで一番いいと思います」
再び、撮影用の客室に戻れば、写真家とホテルの経営者の太鼓判が押された。
写真家の指示で、浮舟が中庭に面した縁に移動する。直前の衣装では、広縁に置かれた、肘置きの湾曲した輪郭のうつくしい籐椅子に座っていた。座面が和布張りで、派手な衣装ともマッチしていたが、羽織ったガウンのシルエットを活かすにはもったいない。
部屋と広縁の間、大阪格子の障子を開いて窓の前に立たせる。
窓から望む中庭も、苔を敷き直して「リメイク」を施されたらしい。見事な松は、雨傘さながらに嵩んだ梢がすっぽりと広縁を木陰に湿らせている。時折、葉の隙間から、木漏れ日がこぼれて暗い床板に散らばる。斑になった光が、松が風で揺れるたびに小魚みたいに動く。
浮舟の足元で、桟敷を連想させる広縁にちらつく光は魚群に似ていた。
靴下、脱ぎましょうかと思わず声に出していた。
浮舟は拒むことなく、両足の踝までを覆っていた靴下を脱ぐ。
惜しげもなく晒された素足は、薄暗い日陰では本物の白魚めいた青白さだった。腱の目立つ踝や、くびれた足首の窪み、産毛もなさそうな爪のかたちが綺麗な足指。露出が少ないぶん、浮舟の肌の白さが強調されて眩しい。裸足の指の先端を、あの小魚みたいな光の群れが躍る。
風が抜けたのだ、と思った瞬間にはフラッシュが焚かれていた。
翻る裾は、嘘みたいに白い。あのガウンが、通っていく風を掴んではためく。
欄干に手を添えて、松の枝先を仰いでいた浮舟が振り向いている。開業前のホテルの、シングルの客室の窓辺という、非日常であるはずの空間を切り抜いた平凡な情景。薄暗い木陰で、翻るガウンの裾、足元に群れて戯れたがる細かな光。
背中のリボンが、ひらりと振り向きざまに明るみの中を舞う。
足指には、斑に躍る光の群れ。木陰に浸る足元で、透けるようなガウンの裾が翻る。
鋭利な音が響く間、何百枚という単位で写真が撮り溜められる。撮影された写真は、現場のPCに同期され立ち合いの人間にも即座に共有された。覗き込んだ画面には、大量の浮舟の分身が映されている。そこに偶然、あの見返る瞬間を切り抜いた写真が紛れていた。
欄干に手を置いて、振り向く瞳にはあのあどけなさが潜む。
「これ、これがいいです。……いちばんいい」
唸るように呟いた直後、驚いた顔の写真家に肩を叩かれた。
気づけば、氷見は無言で泣いていた。涙が頬を滴り落ちているところだった。
安直な感動なんて表現ではとても足らないような感情。安堵と、それから無邪気な歓喜が混淆して濁流みたいだと思う。安堵したのは、制作してきた作品が間違いでなかったと実感できたからだ。氷見の人生の選択を、「氷見淸之介」の仕事を否定しなくてもいいと思えた。
氷見の反応を見て、撮影終了の声が広縁に向かって掛けられる。
隣まで戻ってきた浮舟が、動揺した声で写真家に尋ねるのが聞こえた。
氷見の左隣では、ホテルの経営者の女性がちいさく拍手を送ってくれる。すごくいい写真だと思いますよ、と宥めるような呟きが聞こえた。すみません、と相槌のかわりに小声で返す。若手の写真家は、大量の写真を確認しながら漁るように画面をスクロールしていた。
「えっ? 何で泣いてはるんですか?」
「いや、すみません。すごく、すごくいい写真だったので」
片手を咄嗟に翳して、涙の湧く目元を隠したまま言い訳を捻出する。
三十路手前、二十八歳の男が泣いているのはどうなのか。みっともない、とまでは思わないけれど気恥ずかしさが勝る。やや痩せぎみの、平均身長は優に越した男の泣き顔なんか見たくもないだろう。利き手の指先で、目頭を寄せるようにつまみながら涙をぬぐい取る。
その間も、よかったですね、と写真家に温かい言葉を恵まれる。
「氷見さんの作品は、ユニセックスでええなあて思います。着物は、男物、女物で着付けも何もかも違うやないですか。でも、洋服やったら、誰でも着られる気がするんです。僕は着付けとかようわかりませんけど、これなら着てみたいと思う方もたくさんおる」
これからやないですか、と浮舟が唆すような口調で言う。
前日の試着でも、事前に氷見の制作作品を確認したと言っていた。
氷見の個人サイトには、ポートフォリオとして作品の写真をまとめている。専門学校の卒業制作や、金沢に移住後に手掛けた依頼作品。さらには、京都の東寺の市などで買い集めた古着物を使った試作品。浮舟白魚は、それらの作品に世に受け入れられる価値があると謳う。
何の気負いもなく、氷見の選んだリメイク作家の道を肯定してみせた。
瞼を開き、右手を除けた途端に拍手の波が押し寄せた。浜辺で聞く潮騒にも似た音は、余韻を残しながら通り風に浚われていく。写真家と経営者と、まだ衣装を纏ったままの浮舟にまで祝われている。拍手を受けたのは、子供の頃にピアノの発表会に立った時が最後だろう。
彼らを労う余裕もなく、すみませんと小声で謝る。
すると浮舟は、茶化すように氷見の肩を小突きながら囁いた。
慣れ合うような、不快な雑さのない不思議と気が抜ける動作だった。小首を傾げた仕草がどことなく稚い。人の心を読むのがうまいのだ、と思いながら浮舟白魚を見る。年下の好青年は、軽く覗き込むように頭を屈めて眦を緩めた。「氷見さん、今日は夕飯行きましょうね」
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