第2話 ザ・ガール・オブ・ストレージ
「質問がある」と女――というには幼すぎる女が俺の内側で訊いた。
「あんた、金次第じゃどこにでも連れて行くと言ったけど、あんたもタグとやらで監視されてるんじゃないの」
いい質問だ。何も考えずにプラネタリウムおよび《ケイオス》五二階を吹っ飛ばした女だとは思えない慧眼だ。
「そうだ。監視されてるさ。トイレで大をしたか小をしたかまでバレる。この左手首の嫌な出っ張りのせいで奴らに健康まで管理されてる訳だよ俺たちは」
俺の下ネタにいらついたのか、少女は忌々しげに舌打ちした。必要最低限の情報として聞き取った情報によれば、名前は「ナンシー」というらしい。黒い縮れ髪に褐色の肌はどことなく大陸の向こう側を思わせる風貌。この日本ではまず見ない顔だ。この島国はたいそう狭いうえ、よそ者には厳しいはずだから、ナンシーもその洗礼を受けたはずだ。大陸系というだけで寿司屋に入店を拒否された俺が言うんだから、間違いない。
「俺の【
「まあ、そうだな。沢山ある」
「そういうことだ。今俺は国外に用事がある。その途中であれば、どこでだって下ろしてやれるってわけだ」
「運び屋って“あこぎ”なんだな」
「そうじゃなきゃやってらんねえよ。あ、中で
「使わねえよ」とナンシーが言った。俺は笑って一度内側の音声をシャットアウトし、バイクのエンジンをふかした。
俺の【収納】は、あらゆるものを、それが生命体であろうとも、俺の内側にしまい込んでしまう能力だ。だから俺は特に監視の目が厳しくつけられていて、GPSも精度の高いものをつけられている。万が一億が一、俺が銀行強盗に加担したり、人身売買に加担したり、とにかくありとあらゆるものを消して運んでしまわないように。俺には無限の犯罪の可能性があるというわけだ、は、笑える。
しかし俺という能力者の雇い先は大概が世界政府だ。民間の運搬なんか数えるほどしか請け負ったことが無い。今回だって、建材を指定の場所まで運び込むのがミッションで、
「ところでどこに下りたい? それ次第じゃ寄る場所が変わる」
内部とのコネクトを開くと、黒目がちな瞳が俺のそれとかち合う。
「どこだっていいよ。逃げおおせる事ができる場所ならね」
ナンシーは軽く言った。そして建材の間に手足を投げ出してごろりと横になった。
「ウン、どこだっていい。今の星空が見れる場所ならどこでも」
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