パイロキネシス

紫陽_凛

第1話 プラネタリウム爆破

 軌道エレベータ《ケイオス》の五二階を吹っ飛ばした爆弾魔はまだ捕まっていない。星間ニュースは口々に爆弾だと騒ぎ立てている。俺なら――急に人間が発火ないし爆発することが当然の世の中であれば真っ先にそちらを疑うのだが、ニュースの内部の奴らや民衆なんかは「ありえない」という前提にとらわれて動けないでいる。哀れだ。

 人間が宇宙にその居場所を求めたのが五百年前で、能力者が現れ始めたのが三百年前。能力者周りの制度が整ったのが五十年前だ。まだ人種として新参の我々能力者はタグで管理され、家畜よろしく政府の目が行き渡っている。今この瞬間の俺ですら。

 監視の目をかいくぐったそいつがどうやって《ケイオス》の五二階を選んで大爆発を巻き起こしたのか俺には皆目見当がつかない。だから本人に聞いてみることにする。

「それで、五二階に一体何があったっていうんだ」

「だっせえプラネタリウム」

 ふてくされた少女は焦げた髪の先をふっと吹いた。「『ご覧ください、美しい地球の原初の空です』とか言うから嫌になった。何が『原初』だよ」

 この女、驚くべきことに俺と感性が同じだ。俺も人類の「原初」への憧れとやらには辟易する。

「どうやってタグを外した? あれを外すには管理局の権限か超凄腕のハッカーが要る」

「タグって何のことさ」

 タグは能力が発覚した時点で管理局に施される烙印だ。この小さなチップ一つで行く場所から住む場所まで全てが強制される。寝る場所からトイレに行ったことまでばれてしまう。全ては管理の名の下に。ゲー。

「そりゃうらやましいこったね」

 パニック状態の《ケイオス》を見上げて俺はつぶやく。

「奴らが来るぞ」一刻の猶予もない。「プラネタリウムを吹っ飛ばした爆弾魔を狩りに能力者が派遣される。分かるだろ? 秩序と平和のためだ」


 俺は少女に言い放った。


「お前幸運だったな。俺は運び屋のリウ。金次第じゃどこにでも連れて行くぜ」


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