混線備忘録
肥後妙子
序章
始まりは混線注意の貼り紙からでした。国民の義務である選挙で期日前投票をしに公民館へ行ったのですが、そこの掲示板に混線の張り紙が小さくひっそりと貼ってあったのです。他の貼り紙が幼児のためのお遊戯教室や、英会話の基礎の教室などだったのをはっきり覚えています。それらのお知らせのポスターと比べると混線注意のお知らせはよくある手帖ほどの大きさでとても小さい紙でした。
その紙に書かれていた文章は、以下のようなものです。
【混線注意のお知らせ】
十年ぶりにこちらのО市内で一部の人と人の混線が起こると予測されています。混線はごく少数の限られた方に起こると予測されていますが、困難な状況に陥った場合は市役所にお知らせください。
О市役所臨時混線相談係
不思議なこともあるものだと私は思いましたが、すぐに貼り紙が伝えたいことを理解しました。混線現象は私が十代の頃にも起こっていたことを思い出したからです。ただその時は、自分にとって身近な出来事ではありませんでした。
このО市はそう言った不思議な出来事が定期的に起こる地域なのでした。理由は私は詳しくは知りません。そういえば、太陽光の影響か、月の引力の影響と聞いたことがあります。
具体的に人と人との混線とは何なのか。それはその言葉のままの出来事が起こるのです。とても不可解な事です。でも実際に起こるのです。今回混線した限られた一部の人とは、何を隠そう私だったからです。
どれくらい不可解な事を体験したか分かりやすく誰かに伝えるために、今回私の身に起こったことをお話しようと思います。
今、思うとあの時公民館で混線注意のお知らせを読んでいて良かったと思います。О市の混線とはかなり困惑する出来事なのですから、状況をすぐ飲み込めた方が当然安心です。
それにしてもあの貼り紙は、なぜあんなに小さかったのでしょう。見落としてしまった人はきっと何人もいるに違いありません。それなのに私の視界にあの貼り紙が入ったことを、私は運に感謝しなければいけないのでしょう。
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