第23話 疑問



「え……っ!?」


まさか扉を開いた先に、ジェイドがいるとは思わず……口から驚きの声が漏れた。


扉の側で控えているセインは、ジェイドに敬意を払うように腰をおって、頭を下げている。


そんなセインを見て、先ほどの焦っていた彼の声の理由に合点がいく。


(急に陛下がやってきて、私との面会を求めらて――困っていたんだわ。私はもう休もうと、部屋に戻っていたのだから――セインは、私への配慮も考えて……)


もちろん、ユクーシル国でトップの権力を持つのはジェイドのため、彼の希望を損ねてはいけない。


それに……この国では一般的に、もう一時間後くらいが就寝時間だ。

だからジェイドが訪れた時間は非常識でもなんでもなく……。


「不都合ならば、機会をあらためるが……」

「いえ! 大丈夫ですわ!」

「……そうか」


それに、私だってまだ寝る前だったのだ。


突然のことで驚きはあれど、彼の行動を否定はしない。


(来た理由は全く分からないけれど、ノエルの今後を想うと――ジェイドが父親として、思いやってくれるように、相談できるチャンスかもしれないわ!)


いつだって私の頭の中には、ノエルの明るい未来構築でいっぱいなのだ。


(時間はあるとは言ったけれど……ここから――)


ジェイドに肯定の返事はしたものの、いったいこれから何をするのか――よくわかっていない。


私の返事を聞いたジェイドはジェイドで、なにやら思案している様子で……。


(え、なに!? 何か貴族的なマナーを私がしていないから、訝しんでいるの……!?)


ジェイドの態度に、焦ってしまう。


何かやらかしているのか……必死に頭を巡らして考えた結果。


(相手は私よりも上の立場……私の部屋への訪問……ずっと立たせたままは具合が悪いわ……つまり……)


そこまで考えて、私は口を開く。


「その、私の部屋にてお話をする……ので合ってますでしょうか?」

「あ、ああ……話をしようと思ってきたのに間違いはないが……」

「! では、部屋へ案内しますわっ! こちらへ……」

「!」


ジェイドの返事を聞いて、すぐさま自分の部屋の中へ案内しようと思えば……そんな私の返事を聞いた彼は、大きく目を見開く。


まるでありえないと言わんばかりに、こちらを見て。


「本当に、お前の部屋に俺が入ってもいいのか?」

「え……? 私は大丈夫ですが……陛下が無理をされておりましたら、他の場所でも……」

「い、いや……問題ない」


彼の返事を聞いてますます、疑問は深まるばかりだが――部屋へ案内することに問題はなさそうなので、当初の予定通りに、彼を私の部屋へ案内する。


セインが引き続き、扉の外側で護衛をしてくれる中――部屋内には、ジェイドと私の2人きりとなる。


(話をする……ということは、今日の審問会のことかしら? この部屋には、豪華なソファもあるからそこで向き合って話す……というイメージで合っているかしら……!?)


ジェイドの反応一つ一つにおっかなビックリに反応している私は、問題なさそうな行動にもつい疑問を持ってしまう。


視界には、先ほどまでゴロンと寝ていた大きなベッドが奥にあり――手前には、よく朝食を食べる豪華なソファが机を間に挟んで二脚ある。


そのソファへ案内するのは、どう考えても無礼でもなんでもなさそうだな……と理解したので、ジェイドに声をかけようとした――その時。


「なぜ、今日は拒否しないんだ?」

「……え?」

「前は、あんなにも自室に俺が入るのを嫌がっていたじゃないか」

「嫌がって……?」

「しかも寝る直前だったろうから、手短に部屋の前で話を済まそうかとも思ったが……」


ジェイドの話を聞いて、私は心の中で頭を抱えた。


(ちょっと――! そんな話、聞いたことないわよ! レイラ、あなた結構ジェイドにズケズケ言っていたのね!?)


小説内では、レイラはジェイドのことを陛下として一定の礼儀をわきまえて振る舞っていたことを記憶していた。


けれど事実は、こうしてレイラの素晴らしい行動を知って――焦りが止まない。


なにより、ジェイドが部屋前で話を済ませようと思っていたなんて……全く、分からなかった。


しかし現状として、ジェイドを部屋の中へ案内してしまったものを覆すことはできない。


「俺が記憶しているお前と全く違いすぎて――違和感がぬぐえない」

「い、違和感……?」

「まるで別人になったかのような――違和感だ」


ジェイドが私の方へ、一歩近づいてくる。

すると私は、彼の気迫に――無意識のうちに慄いてしまっているためか、一歩、後ろへ後ずさる。


「それに全く、興味を持っていなかった――息子のノエルにも、相当の関心を向けている」

「!」

「今までのお前からでは――考えられないことだ」


彼の言うことに、私はギクリとしてしまう。


だって、彼が言うことは全部本当のことで――別人に変わったからこそ、ノエルを大事にしようと奮闘しているのだ。


(でも、彼に正直にそのことを話したとして――到底、信じてもらえないわ)


ジェイドは今のレイラに疑いを向けている。

今日、私の部屋へ訪問した理由として――この疑いを晴らすために来たとでもいうのだろうか。


ジェイドと理解しあえるのであれば、それに越したことはないと思っていたけれど。


(どうやったら彼が納得するのか、全く見当がつかないわ……!)


そうして悩んでいれば、ジェイドはなおも言葉を紡ぐ。


「いったい、何を企んでいるんだ?」

「はい……?」


気づけば、一歩の幅に差があったためか――あっという間に、彼と至近距離になる。


彼の方へ見上げるように視線を向ければ、冷たい表情をした美しいジェイドの顔が見える。


「お前の目的は――なんだ」


そう彼は、言葉を紡いだ。


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