第111話 浅葱と蘇芳
「言いぐさが気に食わぬな。我はそなたらがまだ心が通じておるように思うたのだが?」
確かにそうだった。陽弧の恋焦がれる太刀筋、それを受けるロクロウの諦めにも似た顔。
これは、妻の愚痴と文句を延々と聞く夫となんら変わりがないのだ。形が違うだけで。
そして、シロウの記憶の片隅でジカイが話し出す。
ー
シロウには、ある確信があった。
大殿が亡くなり、
そう、ナツキの裏切りが分かった時。
婆やは・・・陽弧はこう言った。
「ナツキよ、そなた
すると、シロウの脳裏にサヤが浮かぶ。川の真ん中に咲く
サヤの口から出た内容はこうだった。
シロウは思う。この存在と現象を利用している、その影にいる組織があるはずだ。しかも複数。
その中で聞こえてきたがロクロウの言葉・・・陽弧は元、蘇芳党の頭という言葉だ。
武芸に秀で、荒事を得意とする蘇芳党。
その頭が陽弧というのは実は疑っていた。武芸、統率力、知略とも納得ができる。
しかし、元というのはどういうことだ?
「
シロウは濡れたまつ毛をロクロウに向けた。
ああ、この男しゃべり過ぎだ。普通こういう闇に忍ぶ手合いは絶対にここまで話さない。黙って仕事を終わらせる。
・・・つまりは、俺に気づけということか?
「誰に譲れられたのだ?」
たたずむロクロウが息を吸った時、後ろに控える忍びの男が遮った。
「頭、もうよろしいのでは?」
ロクロウの表情が消え、この雨と同じく冷たく色を失った声で叱る。
「黙っていよ。」
頭という言葉に気分を害したのかもしれない。
ロクロウが浅葱党の頭か・・・。
先ほどの言葉、「夫婦の間には、お互い、ひとつやふたつ、隠し事があるものですよ。」
つまりは、ロクロウと陽弧はお互いの立場を隠して夫婦になっていたのか。
お互い知らなかったのか?いや初めから知っていて一緒になったのだ。そして死んでもそれをお互い明かさない。そういう連中のはずだ。
「
それはいつもの朗らかな青年の声に戻っていた。
ここまできてシロウは嫌なことに気づいてしまった。
やはり、この男、しゃべりすぎだ。これは、主君に対する報告に近いのだ。
「・・・兄上方は、皆、死んでしもうたのか?」
シロウは意を決して訊いた。
「御意」
「・・・我は
「御意」
このロクロウが先ほどから、いろいろと話すのはシロウが
ひい御祖父様が、御祖父様とジカイ大叔父上の兄弟のどちらかに重臣である
諜報にたける浅葱党の頭、片城家。 元々重臣として抱えていた武芸の蘇芳党の頭、
きっと、
ひい御祖父様は、両家の息子と娘を夫婦にすることで、両方の力を取り込もうとした。
これが、
知らせたと同時に仕事の痕跡を残さぬこの二つの家は消え、力を失うだろう。下手をすると自分が闇に葬られる可能性もある。
ジカイ大叔父上でさえ知らず、調査をしていたのだから。
「蘇芳党の頭というものは、女系をもって継承するそうです。」
また、いつもと変わらぬ朝の報告のようにロクロウが事もなげに言う。
ああ武の蘇芳党は虎河側、いや、勇王側についたことになる。
つまりは、現在の当主は
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