第110話 忍びと隠し事
「見ての・・とおりだ。・・・無様に地に転げておる。」
痛むのであろう。シロウの顔には雨粒とともに苦悶の表情が見える。
「今さら、何しに来たと?」
サヤの声が震える。
「明丸殿を迎えに参上いたしました。」
サヤはイラつきを覚えた。ロクロウの態度は
「話は聞いた。大江殿、我らを最初から
チエノスケの周りに
「いえ、これが仕事です
彼の後ろに、数人の影が忍び寄る。石の仮面を被った忍び装束。そしてその色は緑・・・
「この本と銃は、貴様の差し金だな?」
チエノスケを宥めるように、手で制してグンカイがロクロウに訊く。
「そうですね。半分というところでしょうか?」
「キサマッ!」「待てっ!」
チエノスケが
グンカイがチエノスケを抑える。ロクロウも
「若い者は血の気が多くて困る。これでは話にならん。」
「ご家老、あなたが言いますか?」
ロクロウが扇で口を隠し笑っている。
「まぁ、そういうな。
ロクロウの表情は変わらない。返って不気味なほどに。
「ふう、気づかれてしまったのなら、・・・確実に死んでもらわなければいけなくなりました。」
主人に茶を用意する時のように、のんびりと穏やかに言葉を
「ほう、では殺される前に半分という言葉の意味を教えてはくれぬか?冥土の
「そうですね、お話しましょう。」
これもまた、茶菓子を用意しましょうというような気楽さだ。
「あの本と銃は
やはりな。どこにでも
「明丸殿を取り逃がしても、モモに守られる限り、その身に害が及ぶことはない。その守りの固さ
「ハンゲモノ。まさか実在するとは・・・」
「
ロクロウは、まったく様子が変わらない。この男は人間の感情を持ち合わせていないのか?どこかに置き忘れたか?
雨は降り続いている。話も続いていく。
だから、あの少女と少年には耳と尻尾らしきものがあったのか?
しかも子どもだ。それに宝であるということはすでに死んでいる?
「人でなし!」
サヤが思い切りロクロウに向かって石を投げた。
「危ないですよ。人に石を投げてはいけません。」
「人じゃないっ!人じゃないじゃないかっ!」
サヤの手にはもっと大きな石が握られている。
サヤとロクロウの目が合う。しかし、ロクロウはいつものように微笑んだままだ。サヤの背中に恐怖が雨の
冷たさに身震いをする。なんてことだ。
すると、サヤの石を持つ手を抑えながら、シロウがか細い声を出した。
「それで、宝引を利用して我らに近づけてたのか?しかし、ジカイの大叔父上が気づかぬワケがない。」
「気づいていましたよ。」
なに?大叔父上は気づいていて敵を明丸の側に置いていたのか?なぜ?
「ジカイ和尚の目的は暗躍する裏の者をあぶり出すこと。聞いたことがありませぬか?
聞いたことはある。しかしまるで尾を掴めない伝説的な忍びの集団だ。
三つの党とそれを取りまとめ指示するひとつの家があると聞く。
武芸に秀で、荒事を得意とする
民の間に潜み、諜報にかけては他の追随を許さぬ
技術に深い造形があり、他の武器などの流通の裏にいるという
そして、三つの党の宗家である
三つの党は
「ジカイ和尚は、明丸殿の近くに宝を置くことで、
「安全面?」そうだ。最大の目標の明丸の側にいるのだ。
「モモですよ。
さすが、ジカイ大叔父上だ。ギリギリなことをする。しかも肝心なことを言わない。普通、鉄砲なんてものが子どもの寝床に入っていたら、周りの者はすぐ取り出してしまうだろうに。でも、まぁ自分も生きて守るつもりだったのだろうが。
「大叔父上は
シロウはワザと問いを振る。答えは言わないだろう。そこには、
「私は明丸殿を連れて
ロクロウ?何故、今そこを強調する?黙って我らを殺してしまえばいいのに・・・。
シロウは思う。ロクロウは一流の仕事をする。間諜として、一流・・・そういうことならば・・・。
グンカイは
「しかし、ロクロウ、何故、川の
もう少し時が要る。
「仮にも主従の間柄だったのです。最後にお答えしましょう。私は
サヤはプイと横を向いてしまった。目に一杯の涙を貯めて。
「最後に聞く。婆やを、
婆様がいない。ロクロウだけがここにいるということは、決着が着いたのか?
「ああ、
元・・・だと?まだ頭目の座にあるとシロウは予想していたのが。
「夫婦の間には、お互い、ひとつやふたつ、隠し事があるものですよ。」
ロクロウ、表情が崩れぬな。やはり。お前は一流だよ。シロウはそう思う。右肩がひどく痛む。
ウワサの重来者 どうか、心振るえる一生を。(中辛) おいなり新九郎 @04050408i
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