第104話 風車と太鼓
ク海潜水艇ムラサメ 艦内
「敵兵の数は読み取れたか?」
「3部隊での識別結果、およそ、
メルからの回答だ。
「思ったより少ないな。どうしてだろう。」
「
ユーグの顔は浮かない。ジカイのことを思い出したんだろう。
「この人数でアダケモノと敵四百人を相手か。アダケモノをまとめて動けなくするためにまず
分が悪いどころか絶望的だ。しかしシロウには思うところがあった。
「ユーグ殿、お祖父さまが自分の命と引き換えに攻撃された時、なぜ人間である
「うん、僕もね。みんなに合流するまで、いろいろ見ながら来たんだけど、
ユーグは事もなげに言う。そして続ける。
「現太の大殿が命をかけた衝撃波を発した時、アダケモノだけを焼く振動数の波が溢れた。焼かれて灰になる高温の中で、それを
「・・・」
シロウは一筋の光明を見た。・・・もう一度あの
ふと、艦長席の両側を見る。
「問題は、人質の置かれている場所の敵兵に届くかどうか?」
そうだ、複数個所に分断されて捕虜がおかれていて効果が伝わらず、万が一危害を加えられたくない。
「完璧を期すなら、初期出力を高くしたい。」
これも問題だ。大殿は最大出力を得るため自分の命を差し出したのだ。
「それと、その攻撃はク海の中でやった方がいい。」
「それはなぜ?」
「
「つまりは、ク海の中の方が効果的。」
「璃多よりムラサメ!それはこちらで引き受けましょう。ねえ父上!」璃多姫からの通信だ。
「
シロウは苦笑いで通信する。
「あの
「・・・・はぁい。」
聞こえていたらしい。
天井の
先ほどの映像から、艦内は怒りの気持ちが充満している。それをムラサメの外殻が外に漏らしていないだけだ。
「皆、勝負は怒ると負けるぞ。」シロウは戒める。
チエノスケは何も言わない。怒っているのが背中からでもよく分かる。
艦内に場違いなほど、明るい声が響いた。
「チエノスケぇ!なんでアナタの槍がアダケモノを貫けるか知ってるぅ?」
チエノスケは何も言わない。だが少し顔をあげた。
「怒りより強い感情をぶつけてるからだよんっ!」
さすが、ローラ、周りの雰囲気など関係ない。
「・・・怒りより・・・強い?」
「うん!アナタ、いつも槍の先を見つめて飛ぶじゃない。あの時何を見てんの?」
「何をって・・。」
「あの時、いつも大事な人の顔を穂先にのっけてるんでしょ?
「
「うん、口数チョー少ないけどね。ポロっと話したわ!それから私、飛ぶときのアンタの顔いつも見てるよ。」
そう、他の宝のように表に出ないどころか、姿も声すら聞いたことがない。しかし、その羽音だけでチエノスケには分かるのだ。大事な者を守るために戦う針のように細く長い孤独が。そして愛しいと思う気持ちが。
「俺の顔をか?・・・それでどうだ?」
「すんごい男前よ。」
「さすが風車だ。良く舌も回る。」
チエノスケが笑った。本来の自分を取り戻したようだ。蜂の表示は黄色に変わっていた。
「間もなく、仇花の探知圏に入ります!」メルの声が響く。
もう、偵察に重きを置く必要はないな。
「チエノスケ、蜂を本来の大きさに分けろ!進路は不規則でいいが、速力と動き方をムラサメと同調させい!」
「了解!」
「マチルダ殿!雨は降っているか?」
「小雨だけど、まだパラついてるわ!」
「マリスさん、雨に共振波は同調させられますか?」
「できるけど、発信源を
「仕方ない!このまま川沿いを進む!」
腹をくくるか、そうシロウが決めた時、
「ん?」
何かを踏んだ。
「キュウ!」
こ、これは・・・タヌキ?
ートトント トンー
太鼓の音、タヌキは音に歩みを合わせる。
ートトント トンー
間違いない。踊っている。しかし何の光景?
「まぁりぃ、まりぃ」
明丸はモモの上で喜んでいる。
「なななな?」
シロウは展開が突飛すぎて、今日一番混乱した。
「あ、マリー出てきたの?」
ユーグがにこやかに手を振る。
「マリー?」
「うん、でんでん太鼓のマリーだよ。」
あああ、そうなの。シロウは頭を抱えた。
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